リソー教育の日本版ESOP

リソー教育は24日、信託の仕組みを使った日本版ESOPの概要を発表した。専用に設定した信託を通じ、自社株約7万株を株式市場で取得する予定だ。取得総額はおよそ4億円。持株会は毎月の従業員の拠出金に応じて、信託から株式を取得する。持株制度の導入は11日に発表済み。
(日本経済新聞2011年1月25日17面)

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リソー教育の日本版ESOPは、特に他と変わった点は見られませんが、プレスリリースの説明がわかりやすいので、以下に記載します。

「従業員持株ESOP信託」の導入に関するお知らせ」より

「①当社は、受益者要件を充足する従業員を受益者とするESOP信託を設定します。
②ESOP信託は、銀行から当社株式の取得に必要な資金を借入れます。当該借入にあたっては、当社がESOP信託の借入について保証を行います。
③ESOP信託は、上記②の借入金をもって、信託期間内に当社持株会が取得すると見込まれる数の当社株式を、株式市場から予め定める取得期間中に取得します。
④ESOP信託は、信託期間を通じ、毎月一定日までに当社持株会に拠出された金銭をもって譲渡可能な数の当社株式を、時価で当社持株会に譲渡します。
⑤ESOP信託は、当社の株主として、分配された配当金を受領します。
⑥ESOP信託は、当社持株会への当社株式の売却による売却代金及び保有株式に対する配当金を原資として、銀行からの借入金の元本・利息を返済します。
⑦信託期間を通じ、信託管理人が議決権行使等の株主としての権利の行使に対する指図を行い、ESOP信託は、これに従って株主としての権利を行使します。
⑧信託終了時に、株価の上昇により信託内に残余の当社株式がある場合には、換価処分の上、受益者に対し信託期間内の拠出割合に応じて信託収益が金銭により分配されます。
⑨信託終了時に、株価の下落により信託内に借入金が残る場合には、上記②の保証に基づき、当社が銀行に対して一括して弁済します。」
(「従業員持株ESOP信託」の導入に関するお知らせ)

いわゆる日本版ESOPの会計処理については、個別財務諸表上で信託で保有される導入企業の株式は「自己株式」とされるか(個別オン)、されないか(個別オフ)、ビークルである信託が、導入企業の子会社とされるか(連結オン)、されないか(連結オフ)の組み合わせにより、以下の4つが考えられます。

1.個別オフ 連結オフ
2.個別オン 連結オフ
3.個別オフ 連結オン
4.個別オン 連結オン

このうち1の方法では、自社の株式と債務保証を付した借入金を抱える信託が、連結財務諸表上取り込まれないため問題があります。

また3及び4の方法では、子会社の親会社株式取得が違法なものになると考えられます。したがって消極的な理由から2の方法が採用されるケースが実務上増えているようです。

特に、2009年2月に「連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点の整理」が公表され、論点2の注10において、次のような考え方が示されてから2の方法が多くなっているようです。

「委託者以外の第三者が当初受益者となるもの(いわゆる他益信託)のうち、受益者が信託行為に定められた要件を満たすまで受益権を有しない場合は、受益者の定めのない信託(いわゆる目的信託)と類似している。目的信託については、「委託者がいつでも信託を終了できるなど、通常の信託とは異なるため、原則として、委託者の財産として処理することが適当であると考えられる。ただし、信託契約の内容等からみて、委託者に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであると認められる場合には、もはや委託者の財産ではないものとして処理する(実務対応報告23 号Q6 のA)。」とされている。これらを踏まえれば、他の会計基準等において定められている場合を除き、委託者が信託の変更をする権限を有しており、委託者である当該企業に信託財産の経済的効果が帰属しないことが明らかであるとは認められない場合には、会計上、委託者である当該企業の財産として処理することが適当であると考えられる。また、この場合には、いわゆる総額法による処理と同様となり、自益信託と同様に、改めて子会社や関連会社に該当するか否かについて判定する必要はないものと考えられる。」

上の説明は、秋葉賢一早稲田大学大学院教授の「従業員持株会を活用するスキーム(いわゆる日本版ESOP)に関する会計処理の検討」(企業会計2010年4月号 中央経済社)を参考にさせて頂きました。

なお、この論文では2の方法にも、2つの会計処理が考えられるとして数値例を用いて説明されています。この点についてもまた別の機会に紹介したいと思います。

【リンク】

2011年1月11日「「従業員持株ESOP信託」の導入に関するお知らせ」株式会社リソー教育 [PDF]

2011年1月24日「「従業員持株ESOP信託」の導入(詳細決定)に関するお知らせ」株式会社リソー教育 [PDF]

2009年2月6日「連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点の整理 」企業会計基準委員会  [PDF]