取得条項付新株予約権を用いた転換社債-武富士700億円発行

武富士がCB700億円

武富士は23日、UBSグループを引受先とするユーロ円建て新株予約権付社債(=転換社債=CB)を700億円発行すると発表した。期間は10年で、CB発行で得る約682億円は有利子負債の返済に充て、資金調達構造の適正化や金融収支の改善を進めていく方針だ。
現金決済条項や転換制限条項を採用し、既存株主の利益の希薄化を抑制するという。
ノンバンクの海外でのCB発行では最大規模とみられる。
発行日は6月19日、表面利率1.5%。
(日本経済新聞 2008年5月24日 16面)

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CBの場合、株価が転換価格を大きく上回ると希薄化が生じてしまうので、既存株主の利益を害しないような配慮が必要となります。

武富士のCBは、株価が転換価額を上回った場合に、額面金額相当額の金銭に加え、市場株価と額面金額相当額との差額に相当する価値の株式を受け取ることができるというもので、日本郵船が2006年9月20日に発行したユーロ円CBとほぼ同様の商品設計となっています。通常のCBは額面相当の新株を交付するのに対し、このCBは市場株価が額面を超える部分に相当する新株しか発行されないので、希薄化の抑制が可能です。

さらに、次のように株価が転換価額の一定水準を一定期間上回らない限り、新株予約
権の行使ができない転換制限条項が入っています。

「2017年6月20日まで(当日を含まない。)は、本新株予約権付社債権者は、ある四半期の最後の取引日(以下に定義する。)に終了する30連続取引日のうちいずれかの20取引日において、当社普通株式の終値が、当該最後の取引日において適用のある転換価額の120%を超えた場合に限って、翌四半期の初日から末日までの期間(2017年4月1日に開始する四半期については、同日から同年6月19日までの期間)において、本新株予約権を行使することができる。2017年6月20日以降、本新株予約権付社債権者は、同日以降のいずれかの取引日において当社普通株式の終値が当該取引日に適用のある転換価額の120%を超えた場合、以後いつでも本新株予約権を行使することができる。」

この商品は、CBの取得が帳簿価額で行われるのか、時価で行われるのかが最大のポイントです(時価で行われると、差損益が発生する可能性があるので)。
この点「企業会計適用指針第17号」23項は次の要件が全て満たされた場合、帳簿価額で取得される旨規定しています。

①取得条項に基づく取得の対価の金額は、当該取得条項に基づき、当該転換社債型新株予約権付社債に付された新株予約権の目的である自社の株式の数に基づき算定された時価であること
②当該取得条項に基づいて取得した際に消却することが募集条項等に示されており、かつ、当該募集条項等に基づき取得と同時に消却が行われていること
③現金の交付がすべて社債部分の取得に充てられ、自社の株式の交付がすべて新株予約権部分の取得に充てられるように、現金と自社の株式を対価とするそれぞれの部分があらかじめ明確にされ、これらの額が経済的に合理的な額と乖離していないこと。

本件はこの要件を全て満たすように商品設計されたものと思われます。

もうひとつ潜在株式調整後1株当たり当期利益の計算上、新株予約権が潜在株式にカウントされるかどうかも大きなポイントとなります。この点プレスリリースで武富士は次のように希薄化効果が生じない旨説明しています。

本新株予約権付社債には転換制限条項が付されており、新株予約権の行使が制限されております。そのため、「一株当たり当期純利益に関する会計基準」(企業会計基準第二号)及び「一株当たり当期純利益に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第四号)に基づき、本新株予約権付社債は「条件付発行可能潜在株式」に該当し、新株予約権の行使の条件が充足されない限り潜在株式に含まれず、会計上希薄化効果が認識されないため、募集時における潜在株式数及び募集後における発行済株式総数に関する記載は省略しております。

【リンク】

2008.05.23「第三者割当によるユーロ円建取得条項(現金決済条項)付及び転換制限条項付転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ」
http://www.takefuji.co.jp/corp/nwrs/detail/080523_2.html