多国籍企業による事業再編と課税

東京大学大学院法学政治学研究科が先週より一般向けに全4回の連続講義を行っていて、私も講義を受けさせてもらっています。お題は「国際課税の最近の重要問題」前半2回は増井先生、後半2回は中里先生が担当されます。

今週の増井先生の講義は、移転価格課税の最近の動向についてのお話しでしたが、特に2010年改定OECD移転価格ガイドラインに記載された多国籍企業による事業再編の事例について時間をかけて説明されていました。

説明されたのは、ガイドラインのChapter9 Business Restructuringsの中のExampleD2とD3でした。

この事例では、低課税国に高収益の機能が移転された場合に、移転元の高課税国の課税当局はこの事業再編を否定すべきか承認すべきかということが議論されています。

結論としては、機能やリスクが移転されず実質を伴わない事業再編については課税当局は承認すべきでないが、機能やリスクが移転され経済的実質を伴う事業再編であれば、それが低課税国への移転であっても課税当局は、この事業再編を承認すべきである、ということです。

増井先生曰く、ガイドラインの中に具体的な事例が示されたことの実務への影響は少なからずあるのでは、ということでした。

多国籍企業がこれからどんどん日本を出ていくのでしょうが、日本の課税当局がその事業再編そのものを承認しないことでその企業に対する課税権を留保するケースが出てくるということです。

日本国としては、いかに多くの多国籍企業に日本にとどまってもらえるか、またいかに多くの多国籍企業に日本を拠点として選択してもらえるか、その施策を講ずることが重要で、やらずぼったくりバーじゃないのですから、いかに税金をふんだくるかが議論の前提にあってはいけない、そんなことを先生の話を聞きながら思いました。

【リンク】

OECD租税委員会ウェブサイト