野村證券インサイダー問題-富士通デバイス?

野村社員ら3人逮捕・東京地検、インサイダー容疑

野村証券社員らによるインサイダー取引事件で、東京地検特捜部は22日、同社の内部情報をもとに上場会社株を購入したとして、同社の香港現地法人社員の中国人、れい・ゆ容疑者(30)=同日懲戒解雇=ら3人を金融商品取引法(旧証券取引法)違反容疑で逮捕した。3人は計21銘柄を売買し、4000万円前後の利益を得たとみられ、特捜部と証券取引等監視委員会はインサイダー取引の全容解明を進める。
http://www.nikkei.co.jp/news/shakai/20080423AT1G2205S22042008.html

 

【CFOならこう読む】

インサイダー取引をやる人の思考回路は正直良くわかりませんが、少なくとも確実に儲かると思うからやるのでしょう。M&Aの場面で、未公表の買収対象会社のバリューと市場価格が大きく乖離している場合、”重要事実”を利用して「濡れ手で粟」の利益を得ることができます。ところで新聞記事にある富士通による富士通デバイス(FDI)の完全子会社化の際に、「濡れ手で粟」のチャンスが本当にあったのでしょうか?3分の2超の持分を有する子会社の完全子会社化する際に統合比率が市場価格と大きく乖離していたというのは少し違和感があります。 気になるのでちょっと調べてみました。

完全子会社化の概要は次の通りでした。

1.日程
平成19年5月24日 取締役会決議
平成19年5月24日 株式交換契約締結
平成19年6月22日 株式交換契約承認株主総会(FDIのみ)
平成19年8月1日  株式交換の効力発生日

2.株式交換比率
富士通:FDI = 1 : 2.70

3.株式交換の算定根拠
富士通のアドバイザーは、CFAコーポレートファイナンス、FDIは、野村證券富士通及びFDIは両社がともに上場されていることから、市場株価平均法を基礎として協議し、アドバイザーの分析結果、助言等を慎重に検討し、富士通とFDIとの資本関係、過去の類似の株式交換事例、両社の財務状況等を勘案し、これらを踏まえた交渉を経て上記株式交換比率が妥当であるとの結論に至った。

市場株価平均法によるCFAが算定した株式交換比率は、1:2.088~2.260(直近1ヶ月平均、直近3ヵ月平均、直近6ヶ月平均)、野村が算定した比率は、1:2.226(平成19年5月7日から平成19年5月18日までの10営業日)でした。

有価証券報告書に基づき私が簡便的に市場株価に基づく株式交換比率を計算した結果は次の通りでした。


いずれにしても1:2.70にはなりません。これをどう解釈したら良いでしょうか?

少数株主の保護のために20%~30%のプレミアムをつけたということは考えられなくはありません。考えられなくはありませんが、1年前の実務としては若干の違和感があります。プレスリリースのどこを見ても少数株主の保護とかプレミアムという言葉が見つからないのも気になります。最悪のシナリオはインサイダーが自己の利得を得るために株式交換比率を市場価格と乖離するように誘導したというものです。そこまでのことはなかったと信じたいのですが、何となくしっくりこない感じが否めませ
ん。

【リンク】

平成19年5月24日「株式交換による富士通デバイス株式会社の完全子会社化に関するお知らせ」富士通株式会社
http://jp.fujitsu.com/group/fei/downloads/release/070524.pdf