買収防衛型ファイナンス?-新日鉄、JFEのケース

銀行に潜在株割り当て 「株主選別」に反発の声も

買収防衛策を意識した企業の資金調達(ファイナンス)が広がっている。銀行から資金調達すると同時に大量の新株予約権を割り当て、買収防衛の効果を狙う。特定の友好な株主のみに潜在株を渡す仕組みは企業による株主の選別につながるだけに、投資家からの反発の声も出ている。
(2008年4月16日 日本経済新聞 16面 検証買収防衛型ファイナンス)

【CFOならこう読む】
上記記事で取り上げられていたのは次の会社です。

このうち私のブログでは、JFEについては2月29日
https://cfonews.exblog.jp/7387907/
住友金属鉱山については2月1日
https://cfonews.exblog.jp/7170502/
にそれぞれスキームの概要を紹介しました。

新日鉄のスキームは、その実施時期が2006年11月とこのブログをスタートする前であったので、とりあげる機会がありませんでした。
ここで簡単にどのようなものであったのか見てみたいと思います。

●スキームの概要

①新日鉄が海外子会社(ケイマンに設立した新日鉄の100%出資子会社”NS PreferredCapital Limited”。以下NS社)を割当先としてCB3000億円を発行し、NS社は、3銀行を割当先として交換権付優先出資証券総額3000億円を発行する。
②新日鉄は、この交換権付優先出資証券に係る配当等の支払いを保証する旨の契約(劣後保証契約)をNS社と締結する。

●スキームの特徴

<資本性>
当交換権付優先出資証券には、あらかじめ定められた償還期日がないこと(注:2012年1月20日以降、任意償還される場合がある)、弁済順位がすべての一般債権に劣後すること、一定の条件に抵触した場合に配当が制限されること等から、主要格付機関からも70%以上の資本性が認められるとの評価を得ている。
<交換権>
当交換権付優先出資証券には、新日鉄が発行する上記CBに交換することができる権利(交換権)が付されている。さらに、交換権には、新株予約権の自動権利行使条項が付されており、投資家が交換権を行使した場合には、投資家に普通株式が発行される。
<新株予約権>
新株予約権を付すことで金利コストの軽減をはかりつつ時価(取締役会決議前日終値497円)を50%上回るハイプレミアムな転換価額(740円)を設定することで、1株利益の希薄化を極力防ぐような設計になっている。

スキーム自体は異なるもののその狙いはJFEのものとほぼ同様であると言って良いと思います。

記事では新日鉄、JFEとも大きな潜在株式を有することで買収者の意欲をそぐこと及び安定株主としての銀行に潜在株式割当を行うことの2つの側面から買収防衛型ファイナンスと位置付けています。しかし私はそれは解釈としては間違っていると思います。両社の新株予約権の行使価額は非常に高いところに設定されており(つまりディープ・アウト・オブ・ザ・マネー)、発行時点では行使されることが予定されていないと思われるのです。

それでは何のための新株予約権か?

それはオプションを付することにより金利を軽減するというところにその本質的な意味があるのです。行使が予定されていない潜在株式を発行してもそれが買収防衛策になるわけがありません。この点今日の日経の記事は認識が間違っていると思うのです。

もっとも、調達した資金が、浮動株を減らすことを目的とした自社株買いに使われるのなら広い意味で買収防衛型のファイナンスと言えるのかもしれません。そしてそれが日本を代表する上場企業の資本政策として不適切であるという主張であるなら、その見解に私は全面的に同意できます。

【リンク】

「株主・投資家の皆様へ」新日本製鐵
http://www0.nsc.co.jp/investor/