TPPはデフレを悪化させる

環太平洋経済連携協定(TPP)への参加は、日米間の完全な貿易自由化に等しい。安価な米国産品の流入で国産品が淘汰され、農業関連分野で雇用が失われる。失業者が増えれば、労働市場全体が供給過剰になり実質賃金が下落する。
農業の生産性向上の議論もあるが、デフレ化ではまず雇用確保を優先すべきだ。

(日経ヴェリタス2011年2月20日51面 異見達見 中野剛志京都大学助教授)

【CFOならこう読む】

日曜日にこの記事を読んでから、何となく頭の中にこの論稿のことが引っかかっています。

中野さんは、TPPに参加すべきでないと主張しているのですが、引っかかるのはその結論ではなく議論の中身です。中野さんがTPPに参加すべきでないとする理由は次の通りです。

1.貿易自由化で安い食料が輸入されれば消費者は恩恵を受ける。だが、輸入品が安くなると競合する国産品が淘汰され、雇用が失われる。失業者が増えれば、実質賃金が下がり、デフレが悪化する。

2.干ばつや洪水、さらに金融緩和の影響により、食料価格が上昇している。これにより食料輸入国から食料輸出国への富の移転が起きる。日米で言えば、貿易自由化と食料価格の上昇で、日本の富みが米国に吸い上げられる。日本は食料を米国の言い値で買わされ、日本の富は米国に移転し続ける。この損失を上回る利益がTPPの参加にあるはずがない。

一読するともっともな意見に思えます。しかし私にはまともな議論には思えません。議論の前提に市場経済への信頼が全く見られず、まるで共産主義者のもの言いに聞こえるのです。

「デフレとは需要不足が続くことだから、これを止めるには需要を追加するか、供給を削減する必要がある。例えば公共投資で内需を拡大し、時短やワークシェアリングを促進して供給力を削減するのだ。だが貿易自由化により、国産品が輸入品に代替されると、国産品関連の雇用が奪われ、内需が縮小する。他方貿易自由化による競争の激化で生産性が上昇し供給が増加する。こうして貿易自由化は、需要不足と供給過剰を深刻化し、デフレを悪化させる」
(前掲紙)

日本企業はすでに長い間国境を越えて激しい競争に耐えて来ています。より良いモノをより安く提供するために血が滲むような努力を続けているのです。そういう努力に対し、そんなことをするとデフレを加速するから止めろと言っているように私には聞こえます。そんなことを言われたら、多くの企業は日本から出ていくしかないでしょう。その結果日本に残るのは、生産性の低い(供給力の乏しい)業種だけになってしまいます。そうなったら雇用を誰が支えるのでしょうか。

中野さんは昨年まで経済産業省にいたそうです。これが役所のメンタリティーだとしたら大問題だと私は思います。

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なし