上場有価証券の強制評価減の損金算入要件

キリンホールディングスは5日、2011年1~9月期決算で投資有価証券評価損223億円を特別損失に計上すると発表した。減損処理の対象となった株式の大半が三菱UFJフィナンシャルグループ株とみられる。欧州の信用不安に伴い金融株は軒並み下落しており、三菱UFJの株価が簿価に比べ50%以上下落した可能性が高い。
(日本経済新聞2011年10月6日15面)

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10月4日のエントリーでお話ししたように、会計上は、保有する上場有価証券の時価が取得原価と比べ、50%以上下落した場合、合理的な反証がない限り、時価が取得原価まで回復する見込みがあるとは認められないため、減損処理を行わなければならない、とされています。
2011年10月4日「上場外国株式の強制評価減」

一方、税法上も、法人の所有する上場有価証券等に ついて、その価額が著しく低下し、帳簿価額を下回ることとなった場合で、法人が評価換 えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、帳簿価額とその価額との差額ま での金額を限度として評価損の損金算入が認められます(法 332、法令 681二イ)

ただし、「価額が著しく低下したこと」については、
1.上場有価証券等の事業年度末 の価額がその時の帳簿価額のおおむね 50%相当額を下回ることになり、かつ、
2.近い将来 その価額の回復が見込まれないこと
をいうものとされており、(法基通 9-1-7)、会計上の、明らかに回復する見込みがある場合を除き強制評価損を計上しなければならない、という要件と相違があります。

税務上、いかなる場合に、「近い将来その価額の回復が見込まれない」と判断できるかについて、国税庁は、「上場有価証券の評価損に関するQ&A」という文書を公表しています(平成21年4月「上場有価証券の評価損に関するQ&A」国税庁 [PDF])。

この文書の重要な点を要約すると、次のようになります。

「評価損の損金算入が認められるためには、株価の回復可能性に関する検証 を行う必要がありますが、どのような状況であれば、「近い将来回復が見込まれない」と言 えるかが問題となります。株価の回復可能性の判断のための画一的な基準を設けることは 困難ですが、法人の側から、過去の市場価格の推移や市場環境の動向、発行法人の業況等 を総合的に勘案した合理的な判断基準が示される限りにおいては、税務上その基準は尊重 されることとなります。

法人が独自にこの株価の回復可能性に係る合理的な判断を行うことは困難な場合 もあると考えられます。このため、発行法人に係る将来動向や株価の見通しについて、専 門性を有する客観的な第三者の見解があれば、これを合理的な判断の根拠のひとつとする ことも考えられます。
具体的には、専門性を有する第三者である証券アナリストなどによる個別銘柄別・業種 別分析や業界動向に係る見通し、株式発行法人に関する企業情報などを用いて、当該株価 が近い将来回復しないことについての根拠が提示されるのであれば、これらに基づく判断 は合理的な判断であると認められるものと考えられます。

監査法人による監査を受ける法人において、上場株式の事業年度末における株価が帳簿 価額の 50%相当額を下回る場合の株価の回復可能性の判断の基準として(過去一定期間における株価動向に関 する)一定の形式基準 を策定し、税効果会計等の観点から自社の監査を担当する監査法人から、その合理性につ いてチェックを受けて、これを継続的に使用するのであれば、税務上その基準に基づく損 金算入の判断は合理的なものと認められます。」

要するに、「近い将来回復が見込まれない」について、第三者の客観的な見解がある場合、または、会計監査人設置会社については、会社が一定の形式基準に基づき評価減を行い、会計監査人がその合理性をチェックしている場合には、税務上も損金算入が認められる、ということです。

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