ストックオプション、「行使価格1円」急増

行使価格1円のストックオプション(株式購入権)制度を導入する企業が急増している。米コンサルティング会社、タワーズワトソンの調べによると、6月末までの1年間にこのタイプのストックオプションを役員や従業員に与えた上場企業は前年同期より18%多い200社強に達した。役員退職慰労金の代わりに活用する企業が増えている。
(日本経済新聞2011年10月7日13面)

【CFOならこう読む】

1円ストックオプションについては、2011年1月28日のエントリーで詳しく説明しました。
2011年1月28日「役員退職慰労金の代替としての行使価額1円ストックオプション」

1円というと何だかいかがわしい感じがしますが、行使価格1円を前提に計算されるフェアバリューが報酬として支払われ、同額の新株予約権の引受けがあったとみなされるわけですから、通常のストックオプションと大きく異なるわけではありません。

1円ストックオプションは、上場企業が役員退職慰労金の代わりに活用するケースが多いのですが、これは税務上一定の条件を満たせば受領側が退職所得となる可能性があるという通常のストックオプションにはないメリットがあるからです。
この辺も1月28日のエントリーで説明しましたので、興味があればご覧になってください。

税務上の取扱いを除くと、1円ストックオプションは現物株を報酬として付与するのと経済的意味合いは同じです。ところが日本では現物株を報酬として付与することは一般的ではありません。というのは会社法上(及び会計上、税務上)の取扱いが明確ではないからです。

ベンチャー企業では、資本政策上経営陣や従業員に報酬として現物株を付与したい場面が少なからずあります。特にVCから出資を受けている資金需要が旺盛な企業の場合、資金調達の度に経営陣の持株割合が希薄化してしまい、貢献度合いと持分比率に大きな乖離が生じてしまう場合があり、これを回避するために、VCからの出資に合わせる形で経営陣に現物株を付与したいというニーズがあるのです。

「フェイスブック 若き天才の野望」を読むと、米国ではこういう場面では経営陣に現物株が付与されることがわかります。

「サベリンの株式持分は新会社に引き継がれるものの、増資が実行されたり社員に対する報酬の一環としてストックオプションが発行されたりすれば、社員ではないサベリンの持分は必然的に希薄化の対象となる。一方で、引き続いて社員であるザッカーバーグとモスコヴィッツに対しては、会社に対する貢献に見合った新株が発行される」

(これについては、2011年1月22日のエントリーで取り上げました。2011年1月22日「フェイスブックの資本政策」

日本では先ほど説明した事情により現物株を報酬として付与するのが難しいため、私が関与しているベンチャー企業でも1円ストックオプションによる報酬の付与を試みたことがありますが、課税上の問題もあり、導入には至りませんでした。

日本でも、1円ストックオプションといった裏技ではなく、現物株を報酬として付与することが普通にできるようなインフラを大至急整備して頂きたいものです。

【リンク】

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