日本証券業協会「新興市場のあり方を考える委員会」の提言

日本証券業協会の「新興市場のあり方を考える委員会」(主査 野村総合研究所の大崎貞和主席研究員)は19日、新興市場の改善策を発表した。新興企業の内部統制に関する規制を緩和し、コスト負担を軽減すべきだと提言した。
(日本経済新聞2009年5月20日 4面)

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当該報告書は、新興市場のあるべき姿としての考え方を整理した。その 考え方を前提として、各セクター(証券取引所、証券会社、発行会社、証券業協会)に対して、具体的な提言を取りまとめた形で公表されたものです。

提言の中で重要なものを抜粋すると次の通りです。

1.証券取引所に対する提言

・市場の位置づけを明確化する
・市場統合に向けた取引所間の再編のための検討を関係者間で行うことも必要
・上場機会の拡充、上場廃止の厳格化

2.証券会社に対する提言

・引受証券会社は、主幹事となった上場会社について、IRや適時開示、経営アドバイス等に関して上場後のサポートを一定期間行う必要がある

3、上場会社(経営者)に対する提言

・上場後も証券市場及び投資家からの信頼を確保できるよう、内部管理態勢の維持向上に努めるとともに、上場を境として会社及び経営者を取り巻く環境が変化しても、安易に経営方針や経営哲学を変更したり、社会規範にもとる行為を行うことのないよう、経営者としての資質の向上に努める

4.証券業協会に対する提言

・新興市場に上場する会社への内部統制等の適用に関する規制の緩和について検討を要請する。例えば、米国では新規に上場する企業については、上場初年度の内部統制報告書の提出及び内部統制監査が免除され、いずれも上場翌年度からの適用となっており、コスト面での負担が軽減されている。
・新興企業及び新興市場の発展に向けて、証券税制に関する税制改正要望の取りまとめにあたり、実現に向けた協力を要請する。

新興市場再編についてイニシアティブを取るといった意欲はあまり見られず、この点については、「市場統合を直ちに推奨するものではないが、各取引所において市場コンセプトの明確化を図ることができない場合には、経営の規模の経済性の観点も踏まえ、市場統合に向けた取引所間の再編のための検討を関係者間で行うことも必要である」といった消極的な提言にとどめています。

結局のところ、「新興企業の内部統制に関する規制緩和し、コスト負担を軽減すべき」という提言だけが目立つ報告書になっています。

しかしこれについても、上場準備の段階では内部統制も含め、会社は管理体制を一所懸命作るのに、一旦上場してしまうとそれらはないがしろにされてしまうというのが、現在の最大の問題点であるのに、上場準備の段階で内部統制の整備・運用は不要であるとの誤解を招きかねないと、私は思います。

【リンク】

2009年5月19日「新興市場のあり方を考える委員会報告書」日本証券業協会[PDF]