M&Aにおける米国証券取引法による開示規制

日本の証券取引所だけに上場している日本の会社どうしが合併するとする。存続会社をA社、消滅会社をB社とすれば、合併の結果、B社の株主にはA社の株式が交付されることになる。
合弁当時会社には、会社法、金融商品取引法、取引所規則などによって、企業内容や合併条件についての情報開示が義務付けられている。また、合併に反対する株主には、「公正な価格」で保有株式を会社に買い取らせる権利も与えられる。
A社とB社は、事業も資金調達も日本国内だけで行っているとしよう。この合併に米国証券取引法が適用になり、膨大な開示書類を英文で作成して米証券取引委員会に登録しなければならないと言われ、納得できる経営者がいるだろうか。まず、いないだろう。
(日本経済新聞2009年5月21日17面)

【CFOならこう読む】

「ところが、合併当時会社の米国株主の保有割合が10%を超える場合には、そのような米国法上の義務が生じることがよくあるのだ。株式移転や株式交換などでも同じである。日本企業どうしの企業再編であるにもかかわらず、米国証券取引法が適用される結果、スケジュールが長期化し、コストが著しく増大する例が少なくない。」(前掲紙)

この場合、Form F-4 登録届出書(以下「Form F-4」)を米国証券取引委員会(以下「SEC」)へ届け出ることになります。

ここで開示される当時会社の財務諸表は、監査済みのUS-GAAPで作成されたものか、JP-GAAPで作成した財務諸表にUS-GAAPへの調整項目を付記したものでなければなりません。

例えば、昨年12月に公表された新日本石油と新日鉱ホールディングスとの経営統合では、この影響で統合スケジュールが、半年程度後ろにずれることになってしまいました。

「しかし、このような米国株主は、ほとんどがプロの投資家であるうえに、自らの意思で日本市場にアクセスし、日本基準による開示と投資家保護を前提にして日本株に投資しているのだ。
こうした株主の存在以外に米国資本市場との接点がない日本企業に、米国基準での開示を要求することの合理性は極めて疑問だ。」(前掲紙)

まさに正論です。正論ですが、経済のボーダレス化は、インフラとも言うべき、会計、税法、会社法、金商法といった規制のコンバージェンスを必須のものとしている点を見逃してはいけないとも思います。
会計のコンバージェンスに比し、法制面のコンバージェンスの議論は立ち後れているという感じが否めないのも事実です。

【リンク】

2009年2月27日「経営統合に向けてのスケジュール変更のお知らせ」新日本石油株式会社、新日鉱ホールディングス株式会社