帝人の実質的ディフィーザンス

帝人は25日、社債の実質的な期限前償還に伴う資金運用で、2010年3月期に72億円の特別損失を計上すると発表した。社債の利息を確保するために証券化商品を購入したが、昨年秋以降の金融危機の影響で価格が急落し損失が発生。高リスク商品を使った資金運用が裏目に出た格好だ。
(日本経済新聞2009年5月26日14面)

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社債の実質期限前償還(実質的ディフィーザンス)は負債をオフバランス化することにより、バランスシートをスリム化することを目的に行われます。具体的には、企業が社債の元利金を信託銀行に払い込み、信託銀行は国債など安全資産でこの資金を運用し、社債投資家への元利金払いに充当される仕組みになっています。

20090526

日本経済新聞 2009年5月26日 14面より

オフバランスの為の要件を、金融商品会計に関する実務指針46項は、「取消不能で、かつ社債の元利金の支払に充てることを目的とした他益信託等を設定し、当該元利金が保全される高い信用格付けの金融資産(例えば、償還日がおおむね同一の国債又は優良格付けの公社債)を拠出することである」としています。本件では格付けがトリプルAの債務担保証券(CDO)などで運用してとのことですが、金融商品会計に関するQ&Aは、「わが国において、元利金が保全される高い信用格付けの金融資産とは、国債や政府機関債のほかに、例えば、拠出時に複数の格付け機関よりダブルA格相当以上を得ている社債が含まれると考えられます」としており、この要件は充足していたものと思われます。

しかし、実際に大きな損失が生じた以上、会社に何の責任もないということはないはずです。少なくとも説明責任はあるはずです。

ところが会社のプレスリリースは、こんなもんです。

「金銭の信託により保有する有価証券の処分に伴う損失について

当社は社債の債務履行引受契約(平成17年11月29日締結)に係る偶発債務について、平成20年3月期有価証券報告書で開示(注)しておりましたが、本件に関連して信託した金銭により投資・保有していた有価証券について、現状の金融市場環境では短期間における市場価値の回復が困難であるとの判断から、この金融取引の解約を行ない、その損失額約72億円について追加拠出することを決定いたしましたのでお知らせします。従って、当該社債(当社第4回無担保普通社債:発行額150億円)は予定通り償還されます。

また、当社は平成21年3月期決算短信に記載の通り、平成22年3月期の業績予想については、現時点で将来の変化を合理的な根拠に基づいて予測することが困難な状況にあるために開示しておりませんが、上記損失の影響も含めて、遅くとも第2四半期決算の公表時期までに、早ければ第1四半期決算の公表時に開示する予定です。

(注)平成20年3月期有価証券報告書 P71(注記事項 連結貸借対照表関係)及びP98
(注記事項 連結附属明細表の社債明細表)

以上」

平成20年3月期の有価証券報告書 P71(注記事項 連結貸借対照表関係)及びP98
(注記事項 連結附属明細表の社債明細表) はこんな感じでした。

「6 社債の債務履行引受契約に係る偶発債務  第4回無担保普通社債       15,000百万円 」

「第4回無担保普通社債については、平成17年11月29日に債務履行引受契約を終結し、社債の償還債務が消滅 したものとして処理しています。 」

どうでしょうか?

この開示では、読者が、オフバラした会社の判断は妥当であったのか、このスキームで利用された金融商品は適切であったのか、経営判断に問題はなかったのか等について判断するための何の情報も得ることはできません。

「前期決算の発表から約1ヶ月経過しているが、「その時点では損失のリスクを認識していなかった」(同社)という」(前掲紙)のも全く理解できません。

この会社、ディスクロージャーの姿勢そのものに大きな問題があるように思います。

【リンク】

平成21年5月25日「金銭の信託により保有する有価証券の処分に伴う損失について」帝人株式会社