共和党大統領候補ロムニー氏の所得税の税率は 何故低いか?ー秘密はキャリード・インタレスト

米共和党が28日の党大会で政策綱領を採択し、11 月の大統領選挙に向け民主党の オバマ大統領との論戦が本格化する。企業・個人 の大型減税や規制緩和を軸に米国の 経済成長に導くとの内容で、富裕層増税を唱える オバマ氏との対決色が鮮明。
(日本経済新聞2012年8月30日7面)

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「「税は自由を損なう」。綱領は「小さな政府」 への回帰を中心理念に据えた。企業・ 市場の力をテコに、年率1%台の低成長にとどま る米経済の活性化を図る」(前掲紙)

オバマ氏とロムニー氏の税制に関する政策はそれ ぞれ次の通りです。

オバマ氏
・高所得層への減税は廃止する
・中・低所得層への減税は延長
・法人税は現行の35%から28%に引き下げ

ロムニー氏
・ブッシュ減税維持(減税率は引き下げ)
・収入が一定以下の世帯への利子・配当課税の免除
・連邦相続税廃止 法人税は現行の35%から25%に引き下げ

ところで、ロムニー氏は10年の確定申告を公表 し、2100万ドル余りの収入に対し、実効税率 13.9%の 税金しか納めていないことを明らかにしていま す。 (「ロムニー氏:過去10年の所得税率は13%以上、税金逃れを否定」bloomberg.co.jp

実効税率が低いのは収入の大部分がキャピタルゲ インであるからです。 米国の連邦所得税の税率は、給料等から得られる 通常所得の最高税率が35%であるのに対し、キャ ピタルゲインは 軽減税率15%で課税されます。

ところでオバマ氏はロムニー氏が税逃れをしてい ると非難しています。 そのポイントはいくつかあるのですが、そのうち の一つがキャリード・インタレストです。 キャリード・インタレストとは、プライベート・ エクイティ・ファンド等のファンド・マネー ジャーが 受け取る成功報酬のことです(典型的にはファン ドの純利益の20%を受け取る)。 ロムニー氏は、自身が共同創業者の一人であった ベイン・キャピタル(有力なプライベート・エク イティ・ファンドの一つ) を13年前に辞めていますが、退職時の条件交渉の 結果、未だにファンドからキャリード・インタレ ストの分配を 受けているというのです(「Buyout Profits Keep Flowing to Romney」NewYorkTimes)。

ロムニー氏の2010年の収入のうち740万ドルがこ のキャリード・インタレストであるということで す (「Barack Obama says Mitt Romney received carried interest, a tax ‘trick’」politifact.com)。

ファンドは一般にパートナーシップとして運営さ れます。連邦所得税制上、パートナーシップは構 成員課税(パススルー課税) であるため、ファンド・マネージャーの報酬の課 税上の性質は、パートナーシップの所得の性質に よって決定されます。 プライベート・エクイティ・ファンドの利益の源 泉の大部分は、キャピタルゲインであるため、 キャリード・インタレスト もキャピタルゲインとなり、軽減税率15%が適用 されるのです。

ロムニー氏の実効税率が低い理由の一つがここに あるのです。

ファンド・マネージャーの報酬は業務提供の対価 だから、その性質は給料と同じで通常所得として 課税されなければ おかしい、というのがオバマ氏の理屈です。 また、ノーベル経済学賞を受賞したPaul Krugman教授や有力な税法学者であるMichael Graetz教授も同様の批判を行って います。

しかしこれに対する反論も多く行われており、議 論の行方が注目されます。(例えば、著名なマクロ経済学者であり、ロム ニー氏のアドバイザーでもあるGregory Mankiw 氏の反論→「Capital Gains, Ordinary Income and Shades of Gray」NewYorkTimes)。

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