シャープ、資本増強は不可避

9日の東京株式市場でシャープの株価が大幅に下落した。終値は前週末比26円安の151円。150円まで下げる場面もあり、41年ぶりの安値水準となった。ゴールドマン・サックス証券が6日付で投資判断を「中立」から「売り」に引き下げたことが投資家心理に影響したようだ。
(日本経済新聞2012年10月10日17面)

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「ゴールドマンはリポートで収益力低下に伴う繰延税金資産の取り崩しの可能性を指摘し、資本増強は不可避としている。株価は4営業日続落し、この間の下げ幅は23%に達した。」
(前掲紙)

2012年3月31日現在のシャープの純資産は6,451億円、繰延税金資産残高は1350億円です。

2013年3月期 通期の業績を、会社は8月2日に、売上高は2兆5,000億円、営業利益はマイナス1,000億円、経常利益はマイナス1,400億円、当期純利益は、構造改革費用などの特別損失を織り込みマイナス2,500億円と予想を修正しています。

業績予想に繰延税金資産の取り崩しをどの程度見込んでいるかは不明ですが、仮に全く織り込まれていないとすると、当期純利益のマイナスは取り崩し分だけさらに膨らむ可能性があります。仮に1350億円全額が取り崩されるすると、自己資本比率は10%近くまで低下するため、資本増強は不可避ということになります。

繰延税金資産が取り崩しされるか否かは、繰延税金資産の回収可能性の有無によって判断されます。

繰延税金資産の回収可能性の判断において、収益力に基づく課税所得の十分性が問題となります。収益力に基づく課税所得の十分性は、将来減算一時差異の解消年度ないし税務上の繰越欠損金の繰越期間において課税所得が発生する可能性が高いと見込まれるか否かにより判断されます(簡単に言うと、今よけいに収めている税金は将来の支払税額の減額という形で返してもらうことになるが、将来課税所得が出なければ、そもそも税金を払わないので税額の減額もできないので税金を返してもらうこともできない。したがって、合理的に課税所得の発生が見込まれる範囲でしか資産計上できない、ということです)。

将来の課税所得の合理的な見積りに関して実務上の指針となるのが、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」(以下、委員会報告66号)です。委員会報告66号では、過去の業績等の状況を主たる判断基準として、会社の状況を代表的な五つの場合に分け、回収可能性を判断するに当たっての考え方を示しており、実務上は委員会報告66号に従い、将来の課税所得の合理的な見積りが行われています。

委員会報告に書かれている五つの場合のうち、シャープは以下の状況にあると思われます。

■重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社
期末において税務上の繰越欠損金に重要性が存在する会社、過去(概ね3年以内)に重要な税務上の欠損金が期限切れとなったような会社または当期末において重要な税務上の欠損金の繰越期限切れが見込まれる会社は、通常、将来の課税所得を合理的に見積ることは困難であると判断される。従って、そのような会社においては、翌期の課税所得の発生が、確実に見込まれる場合であって、かつその範囲内において、翌期の一時差異のスケジューリング結果に基づき繰延税金資産を計上している場合には、当該繰延税金資産に回収可能性があるものと判断する。
ただし、税務上の繰越欠損金が、リストラを実施したなどの特別な要因に基づいて発生したものであり、それを除けば課税所得を毎期計上しているような場合は、将来の合理的な見積可能期間(概ね5年)内の課税所得を限度に繰延税金資産を計上することができる。

現状、ただし書きの状況にあるとの判断に基づき、5年内の課税所得の範囲で繰延税金資産を計上していると思われますが、会社が本文の状況にある(つまり損失はリストラ等により発生した一時的なものでない)と判断が変更されるなら、翌期の課税所得の範囲でしか繰延税金資産を計上できないということになります。

ゴールドマンはその可能性を指摘した上で、資本増強の必要性について言及したものと思われます(リポートを
見たわけではないので、あくまで推測です)。

【リンク】

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