円安はマイナスー野口悠紀雄氏

円安が進行しているにもかかわらず、輸出数量が減少している。これは中国や欧州など、輸出先進国の事情によるものだ。一方で、円安は輸入物価の上昇を通じて日本企業の利益を圧迫している。「円安なら株高」は昔のことであり、それを市場を適切に認識していない。
(日経ヴェリタス2013年3月25日51ページ 異見達見 野口悠紀雄早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問)

【CFOならこう読む】

「株価が上昇しているのは、円安が進行しているためだとされる。確かに、これまでの日本では、円安になれば株価が上昇するという傾向が顕著に見られた。それは自動車産業などの輸出産業の利益が円安によって増加するという直接的な効果だけによるのではない。円安が輸出数量を増加させ、それが関連産業の生産を増やすという波及効果があったからだ。
しかし、現在の日本では、このメカニズムは働いていない。現在の日本の株価はこうした構造変化を適切に反映していない。」(前掲稿)

野口氏の言う構造変化のポイントは次の3点です。

1. 円安が進行しているにもかかわらず、輸出数量が減少している。
2. 輸入物価の上昇を通じて日本企業の利益を圧迫している。
3. ガソリン価格の上昇及び発電用燃料の輸入増加を通じる円安のコストアップ効果

私も国内空洞化が相当程度に進化している今の日本において、円安による輸出増→利益増というベクトルを単純に支持することはできない、と思っているので、野口氏の言うことは納得できます。

野口氏が指摘していない点として、海外子会社が獲得した利益についての円安効果が挙げられます。例えば同じ1億ドルの利益をあげたとしても、換算レートが80円なら80億円の利益、90円なら90億円の利益が日本親会社の連結財務諸表上計上されるので、円安になると表面上利益が増えることになります。

しかし、この利益に実質上の意味がどれだけあるのでしょうか。

現地で再投資されるなら、このキャッシュを円換算することに意味がありません。2009年度税制改正において、外国子会社配当益金不算入制度が導 入されたことにより、海外子会社からの本邦への配当送金が増加しているとの財務省による分析がありますが、この分析レポートの中でも資金需要が乏しい企業では、海外子会社からの配当送金は特に増えていないと結論付けられています。
「街区子会社配当益金不算入制度が現地法人の配当送金に及ぼした効果」

国内における設備投資等の資金需要が乏しいことを前提にすると、海外子会社において獲得された1億ドルは現地で再投資されるか、日本本社を経由して別の海外子会社に投資されることになるでしょう(国外企業の買収も含む)。そうであるなら1億ドルの利益を円換算することにどれだけの意味があるのでしょうか?(逆に円高になって利益が減ってもだから何だということになります)

【リンク】

「街区子会社配当益金不算入制度が現地法人の配当送金に及ぼした効果」財務総合政策研究所 柴田啓子 [PDF]