日本の成長戦略ー繰越欠損金の繰越期間延長すべき

○日本の高い法人税率が日本企業の魅力そぐ
○役員報酬の全額損金算入も成長戦略を加速
○適切な税制政策は短期間で目に見える効果
(日本経済新聞2013年5月30日26ページ 経済教室 カート・キャンベル前米国務次官補/マイケル・グリーン米戦略国際問題研究所上級顧問・日本部長)

【CFOならこう読む】

「日本が抱える巨額の政府債務残高を考えれば、法人税の追加減税には反対意見も多いことだろう。だが、投資と経済成長に直ちにプラス効果をもたらしつつ政府債務をすぐには増やさない暫定的な措置が存在する。
 それは、企業の純損失(欠損金)の繰越期間と、その欠損金を前の決算期に遡って法人税を繰り戻し還付する期間を延長することだ。企業の競争力を高めるような税制措置である。」(前掲稿)

繰越欠損金とは、ある決算期で発生した赤字のことで、これは最長9年間繰り越され、翌期以降に生じた黒字と相殺することができます。
本来法人税の課税対象となるのは、純資産の増加分であるわけで、理論的には会社設立から清算時までの価値増加分を課税対象とすべきところ、会社はゴーイングコンサーンであることが前提になるため、人為的に決算期を区切り決算期ごとの価値増加分の計算をしているわけです。

したがって繰越欠損金に期限を設定するのは、税務執行上の理由を除き根拠がないということになります。

実際、本稿で指摘されているように期限を設定していない国も多くあります。

「他の経済協力開発機構(OECD)加盟国と比べると日本の繰越期間はきわめて短く、日本経済の競争力を高めるために必須のイノベーションや起業意欲をくじくものとなっている。英国、フランス、ドイツ、シンガポール、香港では繰越期間は無制限であり、米国は期限を設けているものの、20年である。」(前掲稿)

他に本稿では役員報酬を全額損金算入できるようにすることも提言されています。

「09年度の税制改正で役員報酬の損金算入基準は緩和されたものの、利益連動の役員賞与は一部しか損金算入の対象とならない。このため企業と個人でダブル課税されることになり、企業にとってただでさえ大きな負担がさらに増える結果となっている。
 また日本企業における役員の処遇をみると、同一企業で昇進を果たし、その会社の見方に染まった人が経営幹部になることが多い。このようなあり方は、グローバルな競争力とダイナミクスを誇る企業の大半が創造性とイノベーションを重視しているのとは対照的と言わざるを得ない。
 日本企業が幅広く最高の人材を維持・獲得してグローバルな競争の場で生き残るためにも、日本政府は役員報酬の全額損金算入を積極的に考慮すべきである。」(前掲稿)

極めて真っ当な提言です。
こういった提言に対し、役員報酬の損金算入を無制限に認めれば、課税所得が出ない程度に役員報酬や役員賞与を支払うことで、法人の課税所得を人為的にゼロ以下にすることが可能となり、法人税を支払う会社がなくなってしまうという反論が予想されます。

しかし、そんなタックスプランニングができるのは、非上場の個人会社に限られます。そんな会社から法人税を無理に徴収する必要はなく、役員報酬に対し所得税をきちんと徴収すれば良いのです。

この2つの提言は、すぐに実行すべきです。

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