エクイティ・ストーリー

7873億円の最終赤字で自己資本比率が11%に低下した日立製作所。しかし川村隆会長兼社長は「うちは東芝さんのようなこと(公募増資)はしない」と語る。
(日本経済新聞2009年7月8日17面)

【CFOならこう読む】

「東芝3000億円、全日本空輸1500億円、オリックス1000億円・・・。春以降の金融市場の機能回復は急速だ。CPや普通社債など「資金」不安は一段落。企業の調達競争は株式市場での公募増資による「資本」増強に主戦場を移しつつある。ただスタンスは2派に分かれる。
日立は慎重派。重視するのは既存株主への配慮だ。業績の悪化ですり減った自己資本を回復させるには大規模な新株の発行が必要だ。日立の場合、発行済株式数の3〜4割にも達するとみられるが、こうした大規模な増資に踏み切れば株式価値が希薄化、株価の急落を招く恐れがある。」
(前掲紙)

この希薄化を避けるためには、資金を資本コストを上回る新規投資に向ける他ありません。これによる利益(キャッシュフロー)成長シナリオを、「エクイティ・ストーリー」というのです。

「成長シナリオを後回しにし、あえて6月の株主総会直前に公募増資に打って出たのが東芝だ。」
(前掲紙)

東芝の場合、一応資金使途を、「一般募集及び第三者割当増資に係る手取概算額合計上限3,131億円(2009年5月1日現在の株式会社東京証券取引所における当社普通株式の終値を基準として算出した手取見込概算額)については、設備投資資金に充当する予定であります。 」としていましたが、「エクイティ・ストーリー」は公表されませんでした。

しかし結果としては、株価の大幅な下落はありませんでした。
これはおそらくこういうことです。

資本コストは倒産リスクが高まれば、それに応じて上昇すると考えられます。

倒産リスクを回避するには、一定程度の株主資本を必要とします。
赤字により既存した資本を増資により増強することで資本コストを引き下げることができるのです。この効果が、希薄化効果を上回れば株価は下落しないと考えられるのです。
で、日立さんはどうされるのですか?

【リンク】

2009年5月8日「新株式発行及び株式売出し並びに利払繰延条項・期限前償還条項付無担保社債 (劣後特約付・適格機関投資家限定)発行による資金調達のお知らせ 」株式会社東芝[PDF]