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サントリー食品、英定番飲料「ルコゼード」と「ライビーナ」買収

「上場後にこういう買収機会があり、合意できたことはうれしい」。9日の記者会見。サントリー食品インターナショナルの鳥井信宏社長は安堵の表情を浮かべていた。買収を決めたのは英製薬大手のグラクソ・スミスクライ(GSK)が持つ2つの飲料ブランド。いずれも英国では広く親しまれた商品だ。
(日経ヴェリタス2013年9月15日14ページ)

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「気になるのは果たして2100億円も投じる価値があるのかという点。2ブランドの2012年の売上高は797億円、
EBITDAは1億ポンド。買収価格の13.5億ポンドは、EBITDAの13.5倍にあたる。これは11~12倍とされる世界の飲料メーカーのEBITDA倍率を上回る水準だ。」(前掲紙)

記事は、アフリカの販路が手に入ること、オランジーナとの相乗効果が期待できることから必ずしも割高とは言えないと分析しています。

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M&Aの適正価格

円高を背景に海外企業へのM&Aを加速させる日本 企業。 ソフトバンクの米スプリント社買収も大きな話題 となった。 しかし歴史をひもとけば、大型M&Aが「高値づか み」に終わることも多い。 買収が妥当な水準かを測る物差しを紹介しよう。
(日経ヴェリタス2012年10月28日54面)

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「割高買収のサインをどのようにしてつかむの かー。
M&Aの専門家に重視している 「物差し」を聞いたところ「EV/EBITDA倍率を見る」という声が最も多かった。
企業価値(EV)が買収対象会社の年間キャッシュフロー(EBITDA)の何年分にあたるか を示す指標だ。M&Aでは、株式取得額に純有利子 負債を足した額がEVとほぼ同じ 意味になる。価格妥当性の診断では、この倍率を見ることが最初のステップとなる」 (前掲紙)

EVとは、Enterprise Valueの略で、会社総価値す なわち株主に帰属する株主価値と 債権者に帰属する価値の和のことを言います。 EQV(Equity Value)すなわち株主価値と間違えない ようにする必要があります。

EBITDAとは、Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation&Amortizationの略で、 金利、税金、償却費を差し引く前の利益を差し引 く前の利益を言います。事業活動が 生み出すキャッシュフローの概念に近いとされています。

一般的に、 EV=株式時価総額+純有利子負債(有利子負債- 余剰現金) EV/EBITDA倍率=EV/EBITDA →買収時の企業価値が、買収対象会社の年間 キャッシュフローの何倍で評価されて いるかを示す指標です。

「M&A巧者として知られる日本電産の永守重信社 長は「シナジーが十分見込めないのに、 EV/EBITDA倍率が10倍を超える案件は、買収を見 送ってきた」(前掲紙)

もとよりEV/EBITDA倍率の基準は、業種やライフ ステージによって異なるので、10倍が絶対的な基準とはなり得ないことに留意が必要です。

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なし

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JAL株、外国人買いで回復

日本航空(JAL)が9月19日に再上場してから1ヵ月間が経過する。株価は沖縄県の尖閣諸島を巡る問題による旅客減少を懸念し上場直後に急落したが、その後外国人投資家などの買いで回復してきた。18日終値は売り出し価格(3790円)を小幅ながら上回る3805円。
(日本経済新聞2012年10月19日13面)

【CFOならこう読む】

「背景にあるのは株価の割安感だ。売り出し価格を基にしたPERは5倍前後で、法的整理に伴う税制の優遇措置などを考慮しても8倍と低い」(前掲紙)

9月20日のエントリーにも書きましたが、新規公開時の有価証券届出書に記載されている税効果会計関係の注記を見ると2012年3月31日現在、繰越欠損金による繰延税金資産3,922億円との記載があります。会計上は、監査委員会報告第66号「繰延税金資産の回収可能性の判断に関する監査上の取扱い」に従い、そのほとんどが回収不能であるとの判断のもと資産に計上されていませんが、会計上の判断とvaluationは別物です。

JALは営業利益を12年度で1500億円、13年度は1400億円見込んでいることを鑑みるとその多くは回収可能と見るべきかもしれません。

売り出し価格による時価総額は7000億円弱。この評価に際し、繰延税金資産3,922億円はどの程度勘案されたのでしょうか?

企業再生支援機構は売り出しにより3000億円近い売却益を得たと報道されていますが、繰延税金資産の価値を適正に評価すれば、もっと大きな売却益が得られていたかもしれません。

何故そうしなかったのでしょうか。
JALの税金を減免した上で、その価値に見合った利益を、さらに企業再生支援機構に落とすということに抵抗があったということでしょうか?

仮にそうであったとすると、本来国庫に入るべきキャッシュが他に漏れ出たということにならないでしょうか?

いずれにしても民間企業の再生は国が手を出すべき仕事ではありません。PEファンド等の民間に任せるべきです。

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なし

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IFRSベースのEBITDA-JTのケース

日本たばこ産業(JT)が26日発表した2012年3月期連結決算(国際会計基準)は、純利益が前期比32%増の3208億円だった。
(日本経済新聞2012年4月27日14面)

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「2014年3月期までに連結配当性向を40%(前期は30%)、中長期的には50%に引き上げる。為替変動の影響などを除いたEBITDAでは年平均5%以上の成長を目指す」(前掲紙)

JTは2012年3月期からIFRSの任意適用を開始しました。これに伴い、IFRSベースの「調整後EBITDA」を業績評価指標として採用しています。

「・JTグループの持続的な業績を示すため、「調整後EBITDA」を指標の一つとして採用
・「日本基準による営業利益」 ±各種認識及び測定の差異の調整 ±金融損益以外の非経常的な損益(日本基準における営業外損益や特別損益) =「IFRSによる営業利益」
・「調整後EBITDA」=「IFRSによる営業利益」+減価償却費+無形資産の償却費+ のれんの減損-リストラクチャリングに係る収益+リストラクチャリングに係る費用」
「(参考資料)国際会計基準(IFRS)の2012年3月期からの任意適用について」日本たばこ産業株式会社[PDF] 13頁)

IFRSの営業利益には、日本基準における非経常的な損益も含まれるので、調整後EBITDAにもこういった項目が含まれることになります。
EBITDAマルチプルで企業価値の評価を行う場合には、非経常的な損益項目はEBITDAに含めないことが多く、日本基準の方をベースとする方が適切だと言えなくもありません(JTの「調整後EBITDA」の計算上、非経常的かつ金額的な重要性が通常大きいリストラクチャリング損益のみ調整が行われています)。

JTは、2012年3月期の決算説明資料の中で、「日本基準上のEBITDA」と「IFRS移行後の調整後EBITDA」の調整内容を開示しています。

国内たばこ事業 (億円) 海外たばこ事業 (億円)
日本基準上のEBITDA 2,725 日本基準上のEBITDA 3,126
営業外損益・特別損益からの表示組替 -296 営業外損益・特別損益からの表示組替 -50
認識及び測定の差異 59 IFRS上のEBITDA(営業利益+償却費) 3,076
IFRS上のEBITDA(営業利益+償却費) 2,488 リストラクチャリングに係る収益・費用等の調整 72
リストラクチャリングに係る収益・費用等の調整 134 IFRS移行後の調整後EBITDA 3,148
IFRS移行後の調整後EBITDA 2,623

「(参考資料)国際会計基準(IFRS)の2012年3月期からの任意適用について」日本たばこ産業株式会社[PDF] 14頁)

これを見ても、非経常損益の内容を吟味する必要性を感じます。

【リンク】

「2012年3月期実績及び2013年3月期業績予想」日本たばこ産業株式会社[PDF]

「(参考資料)国際会計基準(IFRS)の2012年3月期からの任意適用について」日本たばこ産業株式会社[PDF]

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ベンチャー会社の評価 ー オリンパスのケース

オリンパスは27日、国内外の企業買収で取得額を決めた経緯などを発表した。国内3社の企業価値を前提となった事業計画を明らかにするなど「買収額などは適正」と説明してきた根拠の一部を明らかにしたが、市場には財務上の問題がすべて解決されたのか説明が不十分との声がある。一層の情報開示を求めている株主との溝も埋まっていない。
(日本経済新聞2011年10月28日12面)

【CFOならこう読む】

「2006~2008年に買収した環境リサイクルのアルティスなど国内3社の2008年度売上高は計54億円。これが2012年度に約900億円に成長する計画を前提に企業価値を算定したが、2011年度見込みは65億円強。計画と実際の相違が、2009年3月期に実施した557億円の減損処理につながったもようだ」(前掲紙)

先日、とある中小企業のM&A仲介を専門に行っている会社の社長の話を聞く機会がありました。

その社長は、未上場の中小企業の評価は時価純資産をベースに行うべきで、DCF法によるべきではないと話されていました。
DCF法は恣意的にどんな金額でもはじき出すことができてしまうから、というのがその理由でした。

私はそれは違うと思いながらその話を聞いていました。

中小企業であろうと未上場であろうと継続企業である限り、その価値評価は適切な事業計画に基づき行われるべきです。しかしその事業計画は買い手の側で厳しく吟味されることが前提です。

DDにおいても最も時間をかけて検討されるべきも、この事業計画の妥当性です。

その上で売り手と買い手との間で行われる買収価格を巡るギリギリの交渉を経て、漸く適切な価格に落ち着くのです。つまり、恣意的に金額が算定されるのは、DCFという手法自体が悪いわけではなく、その使用方法に問題があるからなのです。

オリンパスの場合にも、事業計画の検討と価格の交渉がどのように行われたかが問われることになります。将来の事業計画は一律的に決まるものではなく、いくつかのシナリオとその生起確率に基づき決定されるものです。2012年度の900億円の売上高もこういった観点から検討されなければいけません。

オリンパスは、昨日公表した「当社の過去の買収案件に関する追加情報について」の中でこの辺りの経緯について言及していますが、今後第三者委員会においてその妥当性について調査されることになるものと思われます。

【リスク】

2011年10月23日「当社の過去の買収案件に関する追加情報について」オリンパス株式会社 [PDF]

 

「時価総額<実質手元資金」の企業77社

株式時価総額が手元資金から有利子負債を差し引いた「ネットキャッシュ」を下回る企業が増えている。26日時点で77社にのぼり、6月末に比べ23社増えた。世界景気の減速懸念による株価下落に加え、成長投資や株主配分など手元資金の有効な使い道を示せていないケースもある。
(日本経済新聞2011年10月27日17面)

【CFOならこう読む】

「企業の時価総額がネットキャッシュを下回る場合、全株式を買い取れば、買収額より多い現金を手中にできる。株式市場ではPBRが理論上の解散価値を示す1倍を割り込む企業が東証1部の約7割に及ぶが、時価総額がネットキャッシュを下回るのは市場での評価がさらに低い状態といえる。

時価総額とネットキャッシュの差額が大きい企業をみると、船井電機やホシデン、半導体製造装置の新川など電機やハイテク関連銘柄が上位に並んだ。景気減速で家電や情報機器の需要が減り、収益が悪化するとの懸念を背景に株価が下落。時価総額がネットキャッシュを割る企業が相次いだ」(前掲紙)

株式価値=企業価値−(有利子負債−余剰資金)
=企業価値+(余剰資金−有利子負債)
=企業価値+ネットキャッシュ

したがって、企業価値がゼロだとしても株式価値がネットキャッシュを下回ることは理論的にはないはずです。
にも関わらずそういう企業が77社も存在するのは何故でしょう。

個別企業を検討していけば、その理由は色々と見つかるかも知れませんが、ここでは一般的にどんなことが考えられるか書いてみます。

まず考えられる理由の一つは手元資金=余剰資金とは限らないということです。

給料等の支払いに充てるために、手元資金を確保しているのであれば、その部分は余剰資金ではないので、株式価値を構成しません。

次に考えられるのは企業価値がマイナスである場合です。この場合には、

株式価値<ネットキャッシュ

となります。

そしてもうひとつ考えられるのは、手元資金が有効利用されず無為に費消されると市場が評価している場合です(エージェンシーコストですね)。

「評価の低さは手元資金を有効利用できていない点とみて活用を急ぐ企業が多い」(前掲紙)

というのはこのタイプの企業の株価対策としては有効です。

しかし、このタイプの企業ではなく、実は最初の2つのタイプのどちらかの企業であるにも関わらず、自社株買いなんぞしてしまったら、近い将来一気に資金不足に陥ることになる可能性もあるので、その見極めは慎重に行なう必要があります。

最後にもう一つ。

日本の株式市場全体が下げている中、個別企業を見ると理論価格を下回る水準まで下げている銘柄が存在している、ということが考えられます。

77社の中には、これに該当する銘柄も少なくないように思います。

【リンク】

なし

バフェット、ブラック・ショールズ・モデルに異を唱える

バフェットは同モデル(ブラック・ショールズ・モデル)には欠陥があると主張する。期間が数ヶ月単位のオプションなら同モデルは有効だが、バフェットが手がけている期間の長い保険(オプション)契約では、合理的な評価にならないという。
(日経ヴェリタス2011年4月10日56面バフェットからの手紙)

【CFOならこう読む】

「大学でブラック・ショールズ・モデルを、当然の真実として教える現在の慣行を見直す必要があります。さらに言えば、オプション価格の勉強に時間をかける傾向も改めるべきです。」(前掲紙)

私は10年ほど前、数理ファイナンスの専門家である上智の津野先生にお願いして、学部の授業に1年間通わせてもらい、ブラック・ショールズ・モデル理論について懇切丁寧な指導を受けたことがあります。

バフェット氏は、大学でオプション理論を勉強したことがないのでしょう。大学でブラック・ショールズを当然の真実として教えるなんてことはありません。むしろブッラク・ショールズの限界を教えることに時間をかけていると思います。

一番悪いのは、モデルの前提を理解せずに機械的にブラック・ショールズ・モデルやCAPMにパラメータを放り込みその結果を無批判に受け容れることでしょう。専門家にはまずそのモデルを使用することの是非を判断する能力が求められます。そのためには大学なりできちんと勉強することは有意義だと私は思います。

【リンク】

なし

エンべディッド・バリュー(EV)

4月に上場した第一生命保険の株価が低迷している。26日には一時、上場来安値の98,800円を付け、終値でも99,600円と初めて10万円台の大台を割った。世界的な株安基調が続くなかで、市場では「企業の不安材料に目が向かいやすくなっていることが株価の重荷になっている」との指摘が出ている。
(日本経済新聞2010年8月27日4面)

【CFOならこう読む】

「もっとも日本株全体の下落傾向が続くなかで、企業の業績を離れ、不安材料に過剰に反応しやすくなっている面も否定できない。
例えば、一般にはほとんど知られていないが、生保の企業価値を示す独自指標であるエンべディッド・バリュー(EV)をみると、第一生命のEVは2兆1000億円程度。時価総額(9,960億円、26日終値)の2倍以上に上り、EVからみれば、現在の株価は割安とも判断できる」
(前掲紙)

EVとは次のよう価値指標です。

「エンベディッド・バリューは、生命保険会社が現在保有する総資産と保険契約に基づき、株主に帰属すると考えられる配当可能利益の現在価値を計算したものであり、貸借対照表などから計算される「修正純資産(注1)」と保有契約に基づき計算される「保有契約価値(注2)」を合計したものであり、生命保険会社の企業価値を表す指標の一つです。現行の生命保険会社の法定会計では、新契約獲得から会計上の利益の実現までに時間がかかります。一方、エンベディッド・バリューでは将来の利益貢献が新契約獲得時に認識されるため、法定会計による財務情報を補強することができると考えられています。

(注1)修正純資産=純資産の部計(基金、評価・換算差額、社外流失予定額を除く)+負債中の内部留保(価額変動準備金、危険準備金、配当準備金中の未割当額)(税引後)+一般貸倒引当金(税引後)+有価証券等(デリバティブ取引を含む)の含み損益(税引後)+土地の含み損益(税引後)+貸付金の含み損益(税引後)-退職給付の未積立債務(税引後)
(注2)保有契約価値=将来の税引後利益の現在価値-資本コストの現在価値「資本コスト」は前提とするソルベンシー・マージン比率を維持していくために必要な資本等の額に対して割引率と運用利回りの差から生じる利息差です。」(http://www.dai-ichi-life.co.jp/support/glossary/term0194.html

ヨーロッパでは、大手保険会社のCFOから構成されるCFOフォーラムによって2004年5月に制定されたヨーロピアン・エンベディッド・バリュー(EEV)原則があり、これに基づきEEVの計算・開示が行なわれています。

日本でも例えばT&Dホールディングスは、EEV原則に基づきEVを計算し定期的に開示を行なっています。
この開示資料を見るとT&DホールディングスがどのようにEVを計算しているかかなり詳細な説明がなされています。

【リンク】

2010年5月19日「平成 22 年 3 月末ヨーロピアン・エンベディッド・バリューの開示について」株式会社T&Dホールディングス [PDF]

鳩山首相の学術論文と発言の「ぶれ」との関係 – マルコフが鍵を握る?

鳩山由紀夫首相の発言の「ぶれ」が収まらない衆院選マニフェスト(政権公約)の目玉政策では子ども手当やガソリン税などの暫定税率を巡る方針が二転三転。沖縄県の米軍普天間基地の移設問題や民主党の小沢一郎幹事長の資金管理団体に関する政治資金規正法違反事件でも、自らの発言を一日で撤回するなど政権内の混乱のもととなるケースが目立つ。
(日本経済新聞2010年2月16日3面)

【CFOならこう読む】

文芸春秋3月号で、「米政府が分析する鳩山数学論文」というタイトルの佐藤優氏と手嶋龍一氏の対談が掲載されています。その中で、人は20歳の頃の姿を分析すれば、その後の姿が見通せるとして、鳩山首相が学生時代(東大工学部計数工学科からスタンフォード大の大学院で学び、Ph. Dを取得)に英語で書いた学術論文に注目しています。

「佐藤:実は今回、鳩山さんが英語で書いた学術論文を読んでみて、ビックリしました。まず英語が見事な上に、論文内容が素晴らしい。政治家になるまで腰掛で学者をしていたのではなく、間違いなく本物の学者でした。その論文のテーマはロシアの数学者、アンドレイ・マルコフが唱えた「マルコフ保全理論」の研究でした。
手嶋:一体どんな理論ですか。
佐藤:非常に複雑な概念ですが、ざっくり言うと、「ある事象はその直前の出来事に左右されるのであって、過去には左右されない」という理論。これを偏微分方程式を駆使しながら数理的に実証する
論文なのです。」
(文芸春秋2010年3月号)

そうファイナンスの資産価格理論の株価変動モデルを学ぶ際に登場する「マルコフ過程」のマルコフです。

「いわゆるマルコフ過程とは、将来の状態は現在の状態にのみ依存する。換言すれば過去の過程、つまり現状に至るまでのプロセスには依存しないという前提をおいた確率過程の一つである」
(「フィナンシャルエンジニアリング」第5版 ジョン・ハル著 三菱証券商品開発本部訳)

今日の新聞記事に首相のマルコフ性を示す記事を見つけました。

「首相周辺は首相の「ぶれ」について直近に聞いた話に引きずられる傾向がある」と認める」
(日本経済新聞2010年2月16日3面)

るほど、”ランダムウォークしているんだなあ”、と妙に納得してしまいました。

ところで、例えば株価がマルコフ過程に従うということは、ウイークフォームでの効率的市場仮説を仮定していることにほかなりません。にも関わらず首相の口から市場の効率性を否定するような言葉が聞かれる
のは何故でしょう?

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優先株式を対象にしたTOBーパナソニック・三洋電機のケース

2009 年 11 月 5 日 コメント 2 件

パナソニックは4日、三洋電機の子会社化を前提としたTOB(株式公開買い付け)を5日から始めると発表した。TOB期間は12月7日までの22営業日。三洋の大株主である米ゴールドマン・サックスグループなど金融3社が合計50.13%分の応募契約を結んでいるため成立は確実。12月中旬には子会社化が完了し、売上高で日立製作所と並ぶ国内最大級の総合電機メーカーとなる。
三洋電機も4日取締役会を開き、TOBへの賛同を決めた。買い付け価格は1株あたり131円で、パナソニックが金融3社分を取得する場合の投資金額は4033億円。全株をTOB対象とするが、現時点での三洋の株価(216円=4日終値)を下回っているため、主要3社を除く一般株主は応募しない可能性が高い。

NIKKEI NET 2009年11月4日

【CFOならこう読む】

「買い付け価格は1株あたり131円で、パナソニックが金融3社分を取得する場合の投資金額は4033億円。全株をTOB対象とするが、現時点での三洋の株価(216円=4日終値)を下回っているため、主要3社を除く一般株主は応募しない可能性が高い。」(前掲紙)

TOBの対象となる株式の内訳は次の通りです。

普通株式  1,872,338,099株
A種優先株式 182,542,200株 1株につき普通株式10株に転換可能
B種優先株式 246,029,300株 1株につき普通株式10株に転換可能

普通株式に発行済のA種 優先株式及びB種優先株式が全て普通株式に転換された場合の当該 普通株式の総数(4,285,715,000株)を加え、対象者が平成21年6月29日に提出した第85期有価証券報 告書に記載された平成21年3月31日現在の対象者が保有する自己株式数(16,084,021株)を控除した株式数は6,141,969,078株に相当し、買付予定数の下限である3,070,985,000株は、完全希薄化後総株式数 の過半数に相当します。

買付価格の根拠は次の通りです。

「当社は、本公開買付けにおける普通株式、A種優先株式及びB種優先株式の買付価格を平成21年9月30日に再決定するに際し買付価格の決定の参考資料として、メリルリンチに対し、対象者の株式価値算定書の提出を依頼しました。当社がメリルリンチから平成21年9月30日に提出を受けた株式価値算定書によりますと、メリルリンチは、当社が提供した財務情報、財務予測その他の一定の前提及び条件の下で、市場株価平均法、類似会社比較法及びディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法(以下「DCF法」といいます。)の各手法を用いて対象者の株式価値の算定を行っており、市場株価平均法では、基準日の株価終値、基準日から1ヶ月前、3ヶ月前及び6ヶ月前までのそれぞれの期間の株価終値の平均値を使用し、本公開買付けに関する新聞報道がなされた平成20年11月1日の前営業日の平成20年10月31日を基準日とした場合、145円から227円、類似会社比較法では21円から98円、DCF法では126円から246円のレンジが対象者普通株式1株当たりの算定結果として示されておりました。
なお、当該DCF法の算定結果は当社が見込んでいるシナジー効果を含んでおります。また、この算定結果は、A種優先株式及びB種優先株式はいずれも1株当たり10株の割合で普通株式に転換することが前提とされております。なお、メリルリンチから、その株式価値算定の前提条件・免責事項等に関して補足説明を受けております。

当社は、本公開買付けにおける買付価格の検討にあたっては、市場株価平均法による評価結果が、対象者のA種優先株式及びB種優先株式の転換による希薄化を十分に反映していない可能性がある点、た類似会社比較法による評価結果が、対象者の将来の収益力及び成長性を十分に反映していない点、一方で、DCF法による評価結果が、対象者のA種優先株式及びB種優先株式の転換による希薄化を考慮している点、対象者の将来の収益力及び成長性を反映している点並びにシナジー効果を考慮している点等を勘案し、DCF法による算定結果を最も重視し、当該算定結果の範囲内で検討を行いました。当社は、メリルリンチによる算定結果に加え、平成20年12月19日以降の状況を検証するために実施した追加デュー・ディリジェンスの結果等を総合的に勘案し、平成21年9月30日に開催された取締役会において、本公開買付けにおける買付価格を普通株式1株当たり131円、A種優先株式1株当たり1,310円、B種優先株式1株当たり1,310円と決定いたしました。また、当社は、メリルリンチより、一定の前提条件の下、本公開買付けにおける買付価格が財務的見地から当社にとって公正である旨の意見書を平成21年9月30日に受領しています。 」(2009年11月4日 三洋電機株式会社株式に対する公開買付けの開始に関するお知らせ )

通常上場会社のバリュエーションでは市場株価が最も重視されますが、優先株式のダイリューション効果が市場株価には十分に反映されていないという理由でDCF法による算定結果を最も重視してTOB価格を決定しています。

そうするとTOB対象会社である三洋電機の取締役会がこの価格をサポートするかどうかが注目されます。

「当社取締役会において本公開買付けに対して賛同の意見を表明すること を決議しました。しかしながら、本公開買付けの買付価格は、最終的には公開買付者とエボリューション・インベストメンツ有限会社、オーシャンズ・ホールディングス有限会社、及び株式会社三井住友銀行との間での交渉により決定されたものであり、また、上記の通り、平成21年11月2日の東京証券取引所市場第一部における当社株式の普通取引終値、平成21年11月2日までの過去1ヶ月間の終値の単純平均値及び平成21年11月2日までの過去3ヶ月間の終値の単純平均値のいずれに対してもディスカウントを行った金額となります。そのため、当社取締役会は、本公開買付けの買付価格の妥当性については意見を留保し、また、普通株式の応募については株主の皆様の判断に委ねることを、併せて決議いたしました。」(2009年11月4日 パナソニック株式会社による当社株式に対する公開買付け に関する意見表明のお知らせ)

結論としては、価格については意見を留保するということです。ただし、三洋電機は、第三者算定機関より株式価値算定書と市場株価法に基づく株式価値算定の観点を除いた財務的見地からは不合理な価格ではない旨の意見書を入手しています。

【リンク】

2009年11月4日「三洋電機株式会社に対する公開買付けの開始に関するお知らせ」パナソニック株式会社【PDF】
2009年11月4日「パナソニック株式会社による当社株式に対する公開買付けに関する意見表明のお知らせ」三洋電機株式会社【PDF】

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