グローバル化とIT化に伴い、一部の業界では国籍という概念が急速に薄れつつある。本特集では、日本人メリットが存在せず、世界から多国籍な人材がなだれ込む知識集約的な職業を、「無国籍ジャングル」と名付けた。代表格といえるのが、金融、財務、会計といったマネーがらみの世界だ。IT化、規制緩和、国際会計基準の導入などによって、世界の金融マーケットは急速に一体化。国籍のない膨大なマネーが世界を飛び交うようになった。
(週間東洋経済2011年8月27日号)
【CFOならこう読む】
記事は、グローバル化しても日本人に残る仕事の判断を、「日本で生まれ育った日本人でないと身につけづらい特殊性」(1億人の国内市場を対象にできる)と、「知識集約的か技能集約的」(技能は身につけやすいので国際競争にさらされる)か、の2つの軸により行い、4つのエリアに分けています。
1.グローカルエリア・・・日本人メリット大、知識集約的
日本人メリットを生かしつつ、高付加価値なスキルを身につけるエリア。
医師、弁護士、人事、システムエンジニア、グローバル営業、コンサルタント、マーケティング、記者・編集者
2.ジャパンプレミアム・・・日本人メリット大、技能集約的
日本人メリットを生かす、技能集約的なエリア。日本人ならではの高いサービス精神、組織構成員としてのチームプレー、濃密な人的ネットワークを要する職種が多い。
メガバンク地域営業、スーパー技能職、料理人、看護士、美容師、住宅営業、保険セールス、ホテルマン
3.無国籍ジャングル・・・日本人メリット小、知識集約的
世界70億人の人口と仁義なき戦いを迫られる、「超成果主義」「超資本主義」のエリア。競争を勝ち抜けば報酬は青天井だが、生半可でない才能と努力と運を求められる。
CFO、会計士、経営者、ディーラー・トレーダー、ファンドマネージャー、パイロット、財務・経理
4.重力の世界・・・日本人メリット小、技能集約的
ハングリーなインド人、中国人とのガチンコ勝負を迫られるエリア
プログラマー、介護サービス、コールセンター、レジ打ち、メーカー開発者(汎用品)、御用聞き営業、タクシードライバー、ウエーター
この記事、全体に突っ込みどころ満載で、ちょっと違うんじゃないと文句をつけたくなるところもたくさんあるのですが、CFOや会計士が無国籍ジャングルに属するのは異論のないところです。
それを否定的に捉えるのではなく、力をつければグローバルに活躍できるし、報酬もグローバルレベル、と肯定的に捉えましょう。
記事の中で、GEヘルスケア アジアパシフィックCFOの村上義人さんが、次のように述べています。
「ファイナンスは国籍や業種を越えてどこでも通用する汎用性の高いエキスパティーズ。プロとして生きる強い軸になる」(前掲誌 83頁)
とても励みになるお言葉です!!
ところで、ファイナンス以前に、我々日本人がグローバルに活動するには、英語という大きな壁が立ちはだかっています。先日トップマネジメントのヘッドハンターの方と軽くお話しする機会があり、グローバルCFOに必要な英語力のレベルについて伺ったところ、
”最低TOEIC900点”
と事も無げに仰っておられました。色々と大変ですが、今週も頑張っていきましょう。
【リンク】
なし
「社内に公認会計士などの会計専門家が必要」と考える上場企業が全体の2割強にとどまることが、日本公認会計士協会のアンケート調査で分かった。会計士試験合格者の「就職浪人」が増えるなか、受け皿として期待される企業側のニーズは高まっていないようだ。
(日本経済新聞2011年8月17日13面)
【CFOならこう読む】
「上場企業のうち、会計専門家が「社内に必要」と答えたのは23%、反面、「必要に応じて外部専門家を利用するので社内には不要」は59%、「必要性は特に感じない」が9%を占めた」(前掲紙)
企業が公認会計士を採用する場合の懸念事項として次の理由が挙げられています。
年棒で折り合わない可能性 |
69% |
転職可能性が高い |
44% |
CPAの転職市場の規模、質が不明 |
29% |
専門性の評価が困難 |
28% |
プロを使いこなす仕組みがない |
23% |
要するに企業の現状の人事システムに、会計士のような異質な存在はなじまないということでしょう。しかし、これから否応なく本当の意味でグローバル化に向かわざるを得ない日本企業にとって、異質であるが有能な人材をいかにうまく組織内に取り込んでいくかが問われるのです。
また、大手監査法人の中には人材派遣会社を使って事業会社への転職を支援しているところもあり、今後今までとは比べものにならないくらい多くの会計士が、企業内で活躍するようになると思われます。
ということは、4,5年後に同様のアンケート調査を行うなら、全く違う結果になることも十分考えられると思います。
調査は企業・官公庁等に在籍している公認会計士に対しても行われていますが(308人から回答)、監査法人等からの転職者に対する転職後の満足度への質問において、76%が「良かった」と答えています。
つまり、多くの企業が企業内で会計士をうまく使えているということを意味し、上記の上場企業の懸念は杞憂であると言えそうです。
【リンク】
2011年8月12日「「組織(企業)内会計士に関するアンケート最終報報告書」の公表について」日本会計士協会
経済産業省は地域金融機関が地域の中小企業の経営指導と融資に一体的に取り組むよう促す施策を検討する。政府による100%保証など緊急避難的な中小企業向け金融の再構築をめざす。中小企業政策審議会(経産省の諮問機関)に16日新設する「企業力向上部会」で議論し、年内にも結論をまとめる。
(日本経済新聞2011年6月16日4面)
【CFOならこう読む】
「金融庁や会計関連団体と協力し、中小企業向けの簡易な会計ルールの導入も検討する。中小企業の財務情報の透明性を高め、金融機関が自らの判断で融資を検討しやすい環境を整える」
(前掲紙)
そもそも未監査の財務諸表なんて信用できません。
会計士を有効利用するためにも、中小企業向けの会計ルールに基づき、財務諸表が適正に作成されていることについて監査を受けることを義務付けるようにすれば良いでしょう。そのためには、中小企業向け監査基準の整備も必要ですね。
監査報酬のレベル感としては数十万円といったところでしょうから、1~2日で監査を終わらせる必要があります。そう考えるとたいしたことはできないかも知れませんが、借入を売上として計上するような未監査の中小企業もあることを考えると、一定の効果はあると思います。
【リンク】
なし
政府が2013年に導入しようとしていた「企業財務会計士」制度は見送りで決着した。参院の財政金融委員会は21日、同資格の創設を柱とする公認会計士法改正案の規定を削除することを全会一致で決めた。公認会計士試験に合格しながら就職できない「就職浪人」対策は、振り出しに戻った。
(日本経済新聞2011年4月22日4面)
【CFOならこう読む】
「就職浪人の問題は変わらず横たわる。2010年は合格者約2000人のうち、監査法人などに就職できなかった人の割合が4割と過去最悪になった。国は2011年の合格者枠を1500人に減らし、就職難をコントロールする方針。ただ「会計の重要性が高まるのに、会計士の人材を減らし続けてよいか」(金融庁幹部)というジレンマもある。」(前掲誌)
これを機に、机上の空論である、「2018年会計士5万人構想」は捨てるべきでしょう。会計士は資本市場の番人であると言われます。
であるなら、やるべきことは会計士を増やすことではなく、日本の資本市場を魅力あるものにすることです。
【リンク】
なし
公認会計士試験に合格したのに就職できない「就職浪人」が、合格者の半数に当たる過去最大の1,000人超に達する可能性が出てきた。企業の四半期決算などへの対応が一巡したことに加え、上場企業数の減少を受けて監査法人が採用者数を絞り込んでいるためだ。こうした事態を受け、金融庁も会計士制度の見直しに動き出している。
(日本経済新聞2010年11月16日4面)
【CFOならこう読む】
血のにじむような努力の末、漸く手にした合格証書。それなのに就職先がないとは。その心中を想うと胸が痛くなります。また、先輩として大変申し訳なく思います。
合格者の半数が就職できないという信じられないような事態に陥っている原因は、上場企業数の減少、監査報酬の低さ、役所の見通しの甘さ、新陳代謝の乏しい業界の体質等々、いくつも指摘することは可能です。
ですが、いまそれを言っても仕方がないでしょう。
役所に切にお願いしたいのは、合格者全員に公認会計士になる正当な機会を与えてあげて欲しいということ。
たまたま就職できた人は会計士になれて、そうでない人は会計士になれないというのではあまりに不公平です。
公認会計士となるためには、現行法上、業務補助等の期間が2年以上必要です。
業務補助等とは次のようなものです。
「(1)業務補助(監査証明業務について公認会計士又は監査法人を補助)
業務補助は、1年につき2以上の法人(当該法人が金融商品取引法に規定する上場会社等や会社法に規定する大会社など、公認会計士又は監査法人の監査を受けることとなっている場合には1社以上)の監査証明業務を対象として行わなければなりません。なお、業務補助については、常勤、非常勤を問いません。
(2)実務従事(財務に関する監査、分析その他の実務に従事)
実務従事は、公認会計士の中核的業務である監査と類似した以下の業務が対象となります。
◯法令で定められた民間企業の業務
●資本金額5億円以上の法人において、原価計算その他の財務分析に関する事務
一般企業(業種は問いません。)の財務部・経理部等で財務分析の仕事に従事(単純な経理事務や記帳業務等は不可)等
●銀行や信託会社等において、貸付け、債務の保証その他これらに準ずる資金の運用に関する事務
◯法令で定められた公的機関の業務
●国又は地方公共団体の機関において、国若しくは地方公共団体の機関又は資本金額5億円以上の法人の会計に関する検査若しくは監査又は国税に関する調査若しくは検査の事務」
(「公認会計士Q&A」金融庁)
監査法人は大手も含めてどこも非常に厳しい状況にあります。
役所がいくら受け入れを要求してもそれは不可能です。
また民間企業も公的機関も会計士試験合格者を積極的に受け入れる状況にありません。
他方で業務補助の内容はあまりに形式的でこの程度の経験があったからといってどうということはありません。
いっそのこと業務補助等の経験という要件はなくしてしまい、その分何らか実務補修で補うことにするのはどうでしょう。
そうすれば少なくとも今回の合格者は実務補修を終了すれば公認会計士となることができます。
関係機関には心から英断をお願いしたいところです。
【リンク】
「公認会計士Q&A」金融庁
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