中堅出版社の幻冬舎の経営陣と投資ファンドのイザベル・リミテッド(ケイマン諸島)との攻防が大詰めを迎えている。幻冬舎が10月29日にMBOによる非公開化を発表したところ、イザベルが市場で幻冬舎株を買い集め、12月24日までに議決権ベースの保有比率は36%に達した。
(日経ヴェリタス2010年12月26日22面)
【CFOならこう読む】
「今回のMBOに必要な買い付け総額は約60億円。幻冬舎の経営陣は保有する現預金を充当すれば、残り10億円で会社が買える計算だ。MBOではなるべく安く買いたいと考える買収者側に経営陣が立つため、過去にもTOB価格を巡って株主が異議を申し立てる事例があった」(前掲紙)
本件については、今まで価格面に関して検討していませんでした。
上記記事の数値の意味はこういうことです。
発行済株式数 |
36,000株 |
自己株式 |
8,587 |
差引 |
27,413株(2010年9月30日現在) |
MBO価格 |
220,000円 |
MBO価格による時価総額 |
220,000円×27,413=6,030百万円 |
2010年9月30日現在の現金及び現金同等物の四半期末残高 5,042百万円
したがって事業価値は、
6,030百万円-5,042百万円=988百万円
と計算されます。
営業利益の推移は以下の通りです。
2009年3月期 |
1,375百万円 |
2010年3月期 |
1,676百万円 |
2011年3月期予想 |
1,600百万円 |
EBITDA倍率をうんぬんするまでもなく、988百万円という事業価値評価額は割安と言えます。
【リンク】
「有価証券報告書 2011年3月期第2四半期」株式会社幻冬舎 [PDF]
投資ファンドのイザベル・リミテッド(ケイマン諸島)による幻冬舎株の持株比率が26.10%に上昇したことが21日提出の大量保有報告書で明らかになった。議決権ベースでは34.23%に相当する。
(日本経済新聞2010年12月22日15面)
【CFOならこう読む】
11月16日「【TOB開示資料抜粋】tkホールディングス・幻冬舎」、12月8日「TOB中の幻冬舎株、投資ファンドが30-6%取得」及び12月14日「幻冬舎、tob価格引き上げ」のポストの続報です。
今日の記事によると、ファンドの持分が議決権ベースで1/3を超えたということで、TOBによらずに1/3超の株式を取得することができるのかと疑問に思った方もいらっしゃると思いますが、市場内取引のみによる取得であるならTOBは不要です。
ただし、金商法27条の2第1項5号は、他者の公開買付期間中に、株券等所有割合(議決権ベース)が3分の1を超える者が5%超の買付けを行うときは公開買付けによらなければならないとしています。
しかし、
「この規制の適用を受けるのは当初の公開買付届出書に記載された公開買付期間だけであり、当該公開付期間が延長された場合、延長後の公開買付期間は規制の対象とはされていない」
(「公開買付けの理論と実務」長島・大野・常松法律事務所編)
との除外規定が存在するとのことです。
幻冬舎の場合、当初の公開買付期間は平成22年11月1日(月曜日)から平成22年12月14日(火曜日)まででしたが、12月28日(火曜日)まで延長されています。
この辺りの立法趣旨はよくわかりませんが、TOBにはTOBで対抗させるというのがあるべき姿であると私は思います。
【リンク】
なし
ケイマン諸島に本籍を置く投資ファンドのイザベル・リミテッド(ヴィジャバラン・ムルゲス代表)が、6日時点で幻冬舎の議決権比率の30.6%に当たる8397株を取得したことが7日、分かった。
(日本経済新聞2010年12月8日15面)
【CFOならこう読む】
「幻冬舎は10月29日にMBOの実施を発表。現在は見城徹社長が代表を務める特別目的会社が12月14日までTOBを実施中。」(前掲紙)
TOBの概要は11月16日にポストしました(「【tob開示資料抜粋】tkホールディングス・幻冬舎」)。
最近の幻冬舎の株価と出来高の推移は以下の通りです。
|
終値 |
出来高 |
2010年12月7日 |
230,000 |
130 |
2010年12月6日 |
252,000 |
3,646 |
2010年12月3日 |
241,000 |
644 |
2010年12月2日 |
225,000 |
203 |
2010年12月1日 |
221,000 |
421 |
2010年11月30日 |
220,200 |
1,000 |
2010年11月29日 |
220,100 |
1,291 |
11月29日以後終値がTOB価格220,000円を上回っています。
12月7日に提出された大量保有報告書によると、保有目的は、「純投資(但し、投資一任契約等に基づく顧客資産運用のため)状況に応じて重要提案行為等を行う可能性があります。」とされています。
このTOBにより3分の2超の応募がないと、その後の100%子会社化の道が塞がれます。すでにイザベル・リミテッドの持分が30.6%あり、3分の2どころかTOB成立のための下限である50%超の応募もきびしいかもしれません。
【リンク】
2010年12月7日「主要株主及び主要株主である筆頭株主の異動に関するお知らせ」株式会社幻冬舎 [PDF]
ジャスダック市場に上場する中堅出版社の幻冬舎が、マネジメント・バイアウト(MBO、経営陣による買収)を実施する。同社の見城徹社長が代表を務め、株式の100%を保有するTKホールディングス(HD)が公開買い付け(TOB)を実施して完全子会社化する。TOBが成立すれば、幻冬舎は上場廃止となる。
(JCASTニュース2010年11月16日)

【リンク】
2010年10月29日「MBO の実施及び応募の推奨に関するお知らせ」株式会社幻冬舎 [PDF]
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