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もっと財務レバレッジを高める – LIXIL藤森社長

M&Aを繰り返し、事業領域を広げてきた住設機器最大手のLIXILグループ。昨年夏に就任した米ゼネラル・エレクトリック(GE)出身の藤森義明が主導し、
出遅れていた海外事業の強化に動き出した。
(日経ヴェリタス2012年7月17日16面)

【CFOならこう読む】

日本では、自己資本比率は高ければ高いほど良いと勘違いしている経営者が多いなか、藤森社長はむしろ財務レバレッジを高めるべきだと明言しています。

−買収に伴って、のれん代が急拡大する一方、自己資本比率は2012年3月期末時点で約36%と盤石ではありません。
会社の持続的な成長を一番に考える。のれん代が大きくなるからといって、買収をためらうことはない。財務的には2000億円~3000億円の大型買収をやる力はある。格付の問題もあるが、もっと財務レバレッジを高めて成長をしていくべきだと思う。自己資本比率が30%程度となっても、海外投資を実施して成長すべきだ」(前掲紙)

自社の将来キャッシュフローのボラティリティーを前提にした最適資本構成の具体的なイメージを持つことは非常に重要です。

また、藤森社長はファイナンス部門に財務数値を戦略的に捉えられる人材がいない点を課題として指摘しています。これも多くの企業に共通しているところだと思いますが、ほとんどの企業では問題とも思っていないでしょう。

いずれにしてもこれからのグローバル企業のトップには、ファイナンス的な視座が不可欠であることを藤森社長のインタビュー記事を読んで改めて感じます。

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なし

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バフェット氏、日本買い宣言

初来日の前週に突然、米IBM株に100億ドルを投じたことを公表したウォーレン・バフェット氏。氏が率いるバークシャー・ハザウェイは今や、IBMの発行済株式の5.5%を保有する大株主だという。欧州危機や米景気の先行き懸念で米株式相場も下落するなか、逆張りで株式投資を続けていたことが明らかになった。IBM株への投資を決めた舞台裏、日本での投資の可能性・・・。投資の神様は日経ヴェリタスに大いに語った。
(日経ヴェリタス2011年11月27日2面)

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11月22日の当ブログのエントリー(2011年11月28日エントリー「バフェット氏、『日本投資魅力薄れず』」)で示した疑問のいくつかに、インタビュー記事の中でバフェット氏は答えています。

−自分が事業内容を理解できないハイテク株には投資しない方針をいつも口にしていました。いまなぜ突然、その投資哲学を変えてIBM株に投資したのですか。
「これから5年、10年後のIBMの収益力を見通せるくらいに、IBMのことを理解できたと感じたのです。もっと早く分かればよかったのですが、投資するのが遅かったとはいえ、全くしないよりはいいでしょう。

IBMは賢明な財務戦略をとっており、顧客基盤もしっかりしている点にも注目しました。そして、われわれがIBM株をたくさん買っている時の株価はお買い得な水準だったので、大量の資金をつぎ込んだのです」(前掲紙)

IBMの賢明な財務戦略とは何でしょう?
2010年度のアニュアルレポートを見てみると、Total liabilities and equity $113,452milのうち

Short-term debt $6,778mil
Long-term debt $21,846mil

と有利子負債比率が比較的低いこと、及び自己株式が$96,161milと大きな水準になっていること、さらに一方、Cash and cash equivalentsは$10,661と無駄にキャッシュを積み上げてはいないこと、に気付きます。

「ただ、われわれが本当にやりたいのは、日本で大きな会社を買収することです。(敵対的な買収をするつもりはないので)会社を買って欲しいという話がくるのを待っているのですが、まだ現実のものになっていません。しかし、もし日本の大企業からあす電話をもらって、バークシャーに買収して欲しいという申し入れがあれば、飛行機に乗ってすぐ駆けつけますよ」(前掲紙)

賢明な財務戦略をとり、しっかりとした顧客基盤を持ち、5年後10年後の収益力を見通せる日本の大会社さんで、大口の安定株主が欲しいところがありましたら、バフェット氏に至急ご連絡ください。すぐに自家用飛行機で駆けつけてくれるそうです。

【リンク】

「Annual Preport 2010」 IBM [PDF]

「ベキ分布」とデットとエクイティ

・特異な性質を持つ「ベキ分布」の研究進む
・大震災、ブラック・スワン現象が随所に発生
・想定外への対処、ヒト、モノ、知恵総結集で

(日本経済新聞2011年4月7日24面 経済教室 高安秀樹明治大学客員教授)

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今日の経済教室の高安さんは、「経済物理学の発見」 (光文社新書)の著者です。

ベキ分布とは何かについて、高安さんは、「経済物理学の発見」で次のように説明しています。

「岩石に衝撃を与えて破砕するとその破片の大きさの分布はベキ分布になることが知られています。ガラスのコップを固い床に落として割ったときに出来る破片も同じです。大きな破片はほんの数個で、中くらいの破片はかなりの数になり、小さな破片は無数にあります。目に見えないような小さな破片の数はさらに多くて、顕微鏡で拡大してみても同じような分布が観察されます。顕微鏡でも見えないくらいのほこりのような破片の数が最も多いので、1つずつの破片の大きさの平均値を求めると、事実上ゼロになってしまうのです。
破片の大きさの標準偏差を計算すると、今度は小数の大きな破片の寄与が無視できなくなり、非常に大きな値になります。何桁も大きさの違う破片が混在しているのですからゆらぎの幅を表す標準偏差が大きな値になるのは当然といえるでしょう。」

ベキ分布のグラフは次のようになります。

冪乗則にしたがうグラフの例。横軸が商品のアイテム数、縦軸が販売数量を表す。このモデルは「80:20の法則」として知られ、右に向かう部分はロングテールと呼ばれる。

「ベキ分布の裾野は桁違いに大きいところまで伸びている」(前掲紙)

この裾野はロングテールとも呼ばれます。また、ナシーム・タレブの著書「ブラックスワン」は、これを象徴的にブラックスワンと表現しています。

「身の回りにたくさんの事例があるベキ分布が、長い間、確率・統計の理論の主流から外れ、ほとんど教えられもしなかったのは、ベキ分布では、平均値や標準偏差といった最も基本的な統計量が意味をなさないからだ。
例えば、地震のエネルギーの平均的な大きさを求めよ、といわれれば、与えられた観測期間の間に起きた全地震のエネルギーを足し合わせた量を地震の回数で割るだろう。だがこの平均値が、現実にはあまり意味を持たない。観測期間を変えると、その平均値が大きく変化してしまうからだ」(前掲紙)

大震災があったばかりなので、このロングテールの部分から、とんでもなく悪いことが起こるというネガティブな事象を想起してしまいますが、ナシーブ・タレブはこれをポジティブに捉え、とんでもなく良いことが起きるようなロングテールを追求する生き方を推奨しています。

私はデットとエクイティの本質的な違いを、このロングテールの部分に見ることができると思っています。エクイティを所有権として見るのではなく、ロングテールの持分権者として見るのです。そうすると、コーポレートガバナンスや最適資本構成や会計上の連結範囲等々、CFOが普段接しているような事柄の見え方が全く違ってきます。

例えば、株主が、ロングテールの裾野を厚くするという方向の意思決定を株主総会で自由に行えるという統治構造は、ロングテール部分の持分権者ではない他のステークホルダーにとって望ましくないということになるかも知れません。

また、行き過ぎたレバッレジは、株主が小さなリスクでロングテールの持分権を獲得できてしまい、フェアでないということになるかも知れません。

さらにロングテールの持分権者が必ずしも会社を支配しているとは限らないという意味で、持分割合を基準に連結範囲を決めることが妥当ではないということになるかも知れません。

まっ、とりあえず、タレブは、「本を書こう。パーティーに行こう。」と言っているので、私は本を書くことにします。

【リンク】

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レバレッジは貧しくなる道であるーウォーレン・バフェット

ウォーレン・バフェットの手紙は、たくさんのジョークが盛り込まれており楽しく読める。それでいて、マーケットの投資に関する鋭い洞察にあるれている。
(日経ヴェリタス2011年3月13日56面)

【CFOならこう読む】

地震の影響で大変ですが、こういう時こそ自分のやるべきことをできるだけいつもと同じように淡々とやることを心がけようと思います。

ウォーレン・バフェットの手紙は企業財務に関しても示唆に富むことが書かれていることが多いのですが、今年の手紙には次のようなことが書かれています。

「当然ながら、借りたお金を投資してかなり裕福になる人はいます。しかし、そうしたやり方はまた、とても貧しくなる道でもあるのです。レバレッジがうまくいく時は利益が大きくなります。配偶者はあなたのことを賢いと思い、隣人はうらやましがるでしょう。しかし、レバレッジは癖になるのです。この驚くべき手法でひとたび利益を上げた経験を持つと、ほとんどの人は保守的なやり方に戻りません」
(前掲紙 バフェットの手紙)

MM理論によれば、法人税等の影響を除けば、資本構成は企業価値に影響を与えませんが、債権者と株主間における富の移転は生じます。

日本企業の経営者はレバレッジを嫌う人が多く、その意味で資本構成を変更することで株主価値を改善する余地があるわけです。

だたし、バフェットの言う通り、高過ぎるレバレッジは財務破綻の可能性を高めるので、企業は常に自社の最適資本構成を模索する必要があるのです。
金融緩和の影響でキャッシュが余ってきているので、CFOのところには様々な投資案件が舞い込んでいると思いますが、レバレッジの誘惑にはくれぐれも慎重に!

「たとえどんなに素晴らしい数字を掛け合わせていっても、1つのゼロを掛けるだけで、すべてが消えてしまうのです。歴史が示すように、レバレッジで数々のゼロが作り出されてきました。とても利口な人たちが手掛けている場合でもそうです」
(前掲紙 バフェットの手紙)

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鉄鋼大手、財務改善急ぐ

鉄鋼大手が財務改善を急いでいる。有力指標である「負債資本倍率(DEレシオ)」は
2011年3月期末、JFEホールディングスが3年ぶりに1倍以下になるなど、大手4社で軒並み改善する見通しだ。アジアの鉄鋼メーカーや資源権益などへの大型出資が増えるなか、強固な財務をもとに高い格付けを取得・維持して、今後の投資資金を調達しやすくするのが狙いだ。

(日本経済新聞2010年9月25日13面)

【CFOならこう読む】

DEレシオとは負債が株主資本の何倍であるかを示す指標です。

「各社が財務強化を急ぐのは海外投資案件に備えるためだ。国内鋼材需要の急回復が見込みにくいなか、JFEスチールに900億円出資するなど、アジアの鉄鋼・鋼材加工会社を囲い込んで輸出先を確保する動きが加速している。資源高対策として各社が力を入れる鉄鉱石などの権益取得にも、数百億円から数千億円という多額の資金が必要だ」(前掲紙)

資金調達すればDEレシオはそこでまた上昇するわけで、CFOとして重要なことは、
単純にDEレシオを引き下げることではなく、中長期的な資金需要に基づき最適資本構成を見定め、一定の格付けを維持しつつ、WACC(加重平均資本コスト)をコントロールすることです。

DEレシオが低下すればWACCは上昇するので、価値創造という観点からいうとDEレシオを引き下げ高格付けを維持することが必ずしも最適解とはならないところにCFOの仕事の難しさと面白さがあるのです。

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企業、運転資金の圧縮急ぐ

企業が運転資金の圧縮を急いでいる。昨年秋の世界的な金融危機に直面し、安定した運転資金の確保が経営課題に浮上したためだ。外部からの資金調達を減らすことで財務の健全化にもつながる。企業の動きを追った。
(日本経済新聞2009年10月8日13面)

【CFOならこう読む】

正味運転資金=棚卸資産+売掛金-買掛金をいい、この分だけ資金調達が必要になります。

「「正味運転資金を5%減らせ」。日立製作所の全生産部門には、こうした宿題が出されている。運転資金が1日当たり売上高の何日分なのかを指標に据えて、毎年5%の削減が目標だ。納期短縮や在庫圧縮、不良品率の低下など工場ごとに運転資金の削減を進める。」(前掲紙)

この程度のことは多くの企業がすでに取り組んでいるところだと思います。

誤解してはいけないのは、運転資金の効率化は資産の効率的利用のために必要なのであって、これを削減することが即借入の圧縮につながるわけではないという点です。

資本構成をどうするかはあくまで資本コストとの関係で決まります。したがって運転資金削減により余剰となった資金を自己株取得に充てても良いわけです。

論点はずれますが、グループとしての資金効率を考えるうえでは、連結納税が非常に重要です。
子会社の繰越欠損金を連結グループに取り込めることを可能にするような改正の動きが国税庁や経済産業省の間で進められているはずですが、今日の新聞の1面の新政府税調の主要課題に挙げられていないのが気になります。

政権が変わったことにより、来年度の税制改正に盛り込まれないなんてことがないようにして頂きたいものです。

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エクイティ・ストーリー

7873億円の最終赤字で自己資本比率が11%に低下した日立製作所。しかし川村隆会長兼社長は「うちは東芝さんのようなこと(公募増資)はしない」と語る。
(日本経済新聞2009年7月8日17面)

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「東芝3000億円、全日本空輸1500億円、オリックス1000億円・・・。春以降の金融市場の機能回復は急速だ。CPや普通社債など「資金」不安は一段落。企業の調達競争は株式市場での公募増資による「資本」増強に主戦場を移しつつある。ただスタンスは2派に分かれる。
日立は慎重派。重視するのは既存株主への配慮だ。業績の悪化ですり減った自己資本を回復させるには大規模な新株の発行が必要だ。日立の場合、発行済株式数の3〜4割にも達するとみられるが、こうした大規模な増資に踏み切れば株式価値が希薄化、株価の急落を招く恐れがある。」
(前掲紙)

この希薄化を避けるためには、資金を資本コストを上回る新規投資に向ける他ありません。これによる利益(キャッシュフロー)成長シナリオを、「エクイティ・ストーリー」というのです。

「成長シナリオを後回しにし、あえて6月の株主総会直前に公募増資に打って出たのが東芝だ。」
(前掲紙)

東芝の場合、一応資金使途を、「一般募集及び第三者割当増資に係る手取概算額合計上限3,131億円(2009年5月1日現在の株式会社東京証券取引所における当社普通株式の終値を基準として算出した手取見込概算額)については、設備投資資金に充当する予定であります。 」としていましたが、「エクイティ・ストーリー」は公表されませんでした。

しかし結果としては、株価の大幅な下落はありませんでした。
これはおそらくこういうことです。

資本コストは倒産リスクが高まれば、それに応じて上昇すると考えられます。

倒産リスクを回避するには、一定程度の株主資本を必要とします。
赤字により既存した資本を増資により増強することで資本コストを引き下げることができるのです。この効果が、希薄化効果を上回れば株価は下落しないと考えられるのです。
で、日立さんはどうされるのですか?

【リンク】

2009年5月8日「新株式発行及び株式売出し並びに利払繰延条項・期限前償還条項付無担保社債 (劣後特約付・適格機関投資家限定)発行による資金調達のお知らせ 」株式会社東芝[PDF]

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東芝5000億円資本増強へ

2009 年 4 月 18 日 コメント 1 件

東芝は6月にも5000億円規模の資本増強に踏み切る方針を固めた。普通株の公募増資で3000億円
を調達するほか、銀行など金融機関に2000億円の劣後債引き受けを要請する。2009年3月期は
3500億円の最終赤字となり、自己資本は1年前の半分以下に目減りした。大規模な資本増強で財務内容
を回復させて、半導体や原子力発電所など主力事業の長期的な競争力を引き上げる。
(日本経済新聞2009年4月18日1面)

【CFOならこう読む】

東芝の前期最終赤字は3500億円となり、財務状況は大幅に悪化しています。

20090418

2009年4月17日「2008年度業績予想の修正」株式会社東芝

東芝は財務状況の改善のために固定費3000億円圧縮を目指す構造改革を進めると同時に、大規模な資本増強を行う必要性に迫られていたのです。

東芝がエクィティファイナンスを実施するのは、2004年に1500億円の新株予約権付社債を発行して依頼になる。公募増資としては1981年に2億株(約800億円)を実施して以来、28年ぶり。
3000億円の増資によって自己資本比率は13%程度に回復する見通しだ。格付け会社は劣後債の一部を自己資本とみなすため、格付けの向上につながる。
(前掲紙)

公募増資により資本増強を行うということに大きな意味があると思います。週明け東芝のリストラ策をどのように評価するか注目されます。

【リンク】

2009年4月17日「2008年度業績予想の修正」株式会社東芝

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キリンHD買収額3500億円確保

4年間で海外強化や多角化推進

キリンホールディングスは2012年12月期までの4年間で、約3500億円の買収資金を確保する。相次ぐM&Aで投資額も膨らんだが、資産の流動化を加速。買収に伴って稼ぎ出す現金も増えてきたため、少子高齢化などで国内酒類市場が縮小傾向にあるなか、海外事業の強化や多角化に向けて今後も積極的にM&Aを進める方針だ。
(日本経済新聞2009年3月12日15面)

【CFOならこう読む】

「今期末の有利子負債は約7140億円と前期末比8%増える見通し。有利子負債を自己資本で割った比率(DEレシオ)は0.74倍程度に上昇する。

これに対応し、資産の流動化を急ぐ。M&A後にリストラ策の一環として一部事業の売却などを進め、豪州地域だけでも約2億豪ドル(約125億円)の現金収入を見込む。今後4年間で株式や土地など計1000億円分の資産流動化を計画しており、今期中にも約600億円分の資産流動化を計画している。

同社はDEレシオについて0.5倍前後が望ましいレベルとしながらも、「一時的には1倍程度までの上昇は許容できるとしている」(財務担当の吉元良治常務)。」(前掲紙)

DEレシオを限界値として設定しているのか、目標値として設定しているの区別する必要があります。

最適資本構成を睨みながら、中期計画の中でDEレシオを目標値として設定する、そんな財務先進企業は日本ではそれほど多くないのです。キリンHDは、戦略投資の制約条件として、DEレシオの限界値を1倍に設定する一方、DEレシオ0.5倍を最適資本構成としているということです。

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ディール・オブ・ザ・イヤー エクイティ部門

ベスト1位はヤマダ電機が2月に発行を決めた1500億円のCB。調達資金の一部を自社株買いにあてる「リキャップCB」と呼ばれる新戦略を市場は評価した。
(日経ヴェリタス2008年12月28日 2面)

 【CFOならこう読む】

「CBはあくまでも負債と位置付けている。転換を前提とせず、手元資金で償還する方針だ。」(ヤマダ電機 岡本潤取締役兼執行役員専務 前掲紙)

負債と位置付けたCB発行がエクイティファイナンス部門のベストと評価されること自体、今年のエクイティファイナンスの低調さを象徴しています。

「山田昇・現会長の指示も希薄化を起こさず、金利を限りなくゼロにしろというものだった。」(岡本専務 前掲紙)

リキャップというより、”金利ゼロ&希薄化回避”の条件をクリアするための解がリキャップCBであったということだったのですね。
私のブログでは2008年2月27日にこのディールを取り上げました(http://cfonews.exblog.jp/7371460)。

そこで私は次のような指摘をしています。

「それからもう一つ、何故CBかという点です。資本構成変更が本件の目的なら、エクィティ系のファイナンス手法であるCBを利用するのは矛盾しています。つまりCBによってファイナンスしたい理由があるのです。それは恐らくゼロクーポンのメリットを享受するというところにあるのだと思います(会計上も社債利息を計上しないことができます)。」

リキャップというのは資本コスト引き下げのために行われる、資本構成の変更のことですが、そのためには負債で資金調達し、この資金で自己株取得をする必要があります。
このCBは最適資本構成を指向するものではなく、ゼロコストのためのCB発行+CBの希薄化効果を排除するための自己株取得=(結果として)リキャップCBであったということです。

それにしても山田会長の「希薄化を起こさず、金利を限りなくゼロにしろ」という指示は、単純明快で何とも言えず迫力を感じますね。

【リンク】

2008年2月26日「2013年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債及び2015年満期ユーロ円建転換社債型新株予約権付社債の発行について」株式会社ヤマダ電機

2008年2月26日「自己株式の取得に関するお知らせ(会社法第165条第2項の規定による定款の定めに基づく自己株式の取得)」株式会社ヤマダ電機