主要上場企業の6割が2014年度の業績が伸びると見込んでいる。日本経済新聞社が主要企業の最高財務責任者(CFO)を対象に実施した調査で明らかになった。4月の消費増税の影響は一時的で、秋以降には影響がなくなるとの回答が多かった。また、9割の企業がM&A(合併・買収)に関心があり、5割近くが対象地域に東南アジアを選んだ。
(日本経済新聞2014年2月21日1ページ )
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「手元に潤沢に積み上がった資金の使い道では、成長のためにM&Aを検討するとの回答が9割を超えた。このうちM&Aの対象地域では、59%の国内、50%の米国と並んで、東南アジアが46%と高かった。消費市場として成長するアジアで積極的な事業展開を狙う企業が多いことがわかった。」(前掲紙)
意外なところでは、「経営の目標として自己資本利益率(ROE)の数値を設定している企業は47%」。
経営トップが、「ROEは眼中にない」と言い放つ時代から、大きく変わろうとしています。
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グループの連結決算と親会社の単独決算を比較する時に使う指標。単独税引き利益に対する連結純利益の倍率を用いることが多い。売上高や営業利益ベースだと親会社の持ち株比率が20%以上50%以下の関連会社の利益などが除外され、グループ全体の収益力が反映されないからだ。
(日本経済新聞2014年2月13日3ページ )
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「上場企業の2009年3月期の連単倍率は0・5倍台と1倍を下回った。親会社の利益の約半分の損失を国内外の子会社や関連会社が計上したことになる。その後、連単倍率は13年3月期には1・7倍台まで上昇した。」(前掲紙)
一般に、連単倍率は売上、利益、総資産、純資産など様々な数値の比較により行われます。単純に一つの指標により連単倍率を測るより複数の指標により連単倍率を測る方がより有用な分析が行える場合があります。例えば売上ベースの連単倍率よりも利益ベースの連単倍率が小さい場合には、子会社が大きな赤字が計上している可能性があります。
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米化学大手ダウ・ケミカルが今月、汎用化学品の一部事業を切り離すと発表した。1897年の創業期の流れを引き継ぐ伝統事業だ。売上高は約50億ドル(約5100億円)と全体の1割弱。高い市場シェアを誇り、赤字でもない。それでもリバリス最高経営責任者(CEO)は「株主利益を最大化するために経営資源の優先順位をはっきりさせる」と宣言した。
(日本経済新聞2013年12月17日17ページ )
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「高収益の川下製品に特化する戦略で、「ケミカル」の社名すら消える可能性もある。発表当日の株価は約2%高。ドイツ銀行のアナリスト、ベグライター氏は「高い成長、高い利益率を実現するための重要な一歩だ」と評価する。」(前掲紙)
高い利益率を確保するために市場シェアが高く成長性が乏しい事業を切り売りする。それは経営上正しい意思決定であるかもしれません。しかし利益率のみを指向する経営は最終的には縮小均衡に向かうことになり、それは必ずしも望ましいことではないと私は思うのです。
今日の新聞には、自動車7社の「稼ぐ力」について分析した記事が載っています。営業利益率1位は車種を絞り込んだ富士重工で12.1%です。フォレスター等のSUVに絞り込むニッチ戦略は称賛に値しますが、だからといってトヨタは駄目ということにはなりません。
重要なのは資本コストを意識した経営を行なっているか、絶対額としての付加価値をどれだけ創造しているか、です。
そうであるなら、今こそEVAこそが最も重視すべき業績評価指標だと私は思います。
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ホンダは30日、自動車向け電子制御部品子会社、ホンダエレシス(横浜市)の全保有株式を日本電産に売却すると発表した。販売が低迷していた太陽電池事業からの撤退も決めた。今後はエコカー開発や新興国を中心とした世界市場の攻略に経営資源を集中する。2016年度の世界販売600万台達成に向けて、部品コストの削減など事業構造の改革を急ぐ。
(日本経済新聞2013年10月31日11ページ)
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「ホンダエレシスは集積回路と専用ソフトでエンジンやブレーキなどの駆動部品を効率よく動かす技術を持つ。センサーと組み合わせて衝突を回避するなど次世代の「自動運転」にも欠かせない。高い技術力を生かし、日本電産はエコカーの中核部品である「駆動用モーターへの参入も狙う」(永守社長)」
本件と直接関係ありませんが、永守社長が日本電産創業13年後の昭和61年に「技術ベンチャー社長が書いた 体あたり財務戦略」という本を書いているのを知り、早速入手して読んでみました。
ベンチャー企業の企業財務の要諦が書かれていて、しかも本質に言及しているので今読んでも古さを感じません。
例えば、1株当たり利益を基準に経営すべし、と書かれています。
この時代は経常利益を重視すべしという人が大勢で、当期純利益しかもEPSを重視すべしという経営者はほとんどいなかったはず。
「私の経営の仕方というものは、「1株当たり利益」を基準にすべてを判断していく。つまり、この行為は「1株当たり利益」を上げるのか、それとも下げるのかーということを念頭に置き、行動に移すやリ方である。「1株当たり利益」を下げるようなことはできる限りしないことである。」(「技術ベンチャー社長が書いた 体あたり財務戦略」60ページ)
ほかにも役に立つことが書かれているので、機会をみつけて紹介しますね。
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トムソン・ロイターによると、米主要500社の2013年の純利益は前期に比べ約5%増える見通し。増益基調を維持するが、米財政問題の影響などで先行きには不透明感が漂う。
(日経ヴェリタス2013年10月27日3ページ )
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「市場が注目するのは、欧米に比べてなお格差が大きいROEの動向だ。野村證券によると、日本の主力企業のROEは前期の5%台から今期9%台まで回復するが、13~14%の欧米とはなお差がある」
(前掲紙)
メリルリンチ日本証券の神山直樹チーフストラテジストは、
「年1割の増益が続き、その6割を株主に配分すれば、18年度にはROEが15%まで上昇する可能性もある」(前掲紙)
と言っています。
達成不可能な水準ではないという意味で言っているのでしょうが、多くの経営者に株主価値を創造しようという強い意識がない現状を鑑みると机上の空論と言わざるを得ません。今後外資による日本企業への投資が増えれば、株主のプレッシャーが強くなっていくでしょうから、そうなれば徐々に世界水準に近づいて行くことになるかも知れませんが、まだまだ時間がかかるように思います。
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日本経済新聞社と、日本取引所グループ、東京証券取引所は30日、現在共同で開発を進めている新株価指数を発表した。
(日本経済新聞2013年7月31日5ページ)
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「銘柄選定に活用する指標として、資本効率の高さを示すROEを採用。このほかコーポレートガバナンスなどの経営の定性的な要素や市場での取引量も考慮する。」(前掲紙)
年内に算出が開始されるとのことです。
日本企業の資本効率に対する意識が変わるかもしれません。
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与党の大勝で終わった参院選。デフレ脱却を目指す安倍政権にとって、今後の焦点になるのが成長戦略の着実な実施だ。特に市場が注目するのが岩盤のように動かない規制の緩和。日本のやるべき改革は何か。小泉政権のもとでの規制改革会議の議長を務めたオリックスの宮内義彦会長に聞いた。
(日経ヴェリタス2013年7月28日14ページ)
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インタビューは、規制緩和以外にもオリックスの成長戦略にも及んでおり、読み応えのあるものになっています。
その中で、ROEについて言及している部分があります。
「−一番重視している経営指標は何ですか?
「一つではない。総合的に見ている。自己資本利益率(ROE)のみを見るというのであれば、経営は楽。(分母の自己資本を少なくするために)自社株を買えばいいのだから。ただリスクは高くなってしまう。ROEが低いというのもダメ。10%が目標で今のところそれに近づいている。リーマンショックの前、ROEが19%までいったが、あれはリスキーだった。」(前掲紙)
ROE=当期利益÷自己資本
= (当期利益÷売上高)×(売上高÷総資産)×(総資産÷自己資本) と分解できます。
さらに、利益率であれば、製品や事業部門ごとに、資産回転率であれば棚卸資産や固定資産ごとにブレークダウンすることができます。いずれも高ければ高いほど良いというわけではなく、目標値を上回っても下回っても問題であるという意識が必要です。
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ニコンの2014年3月期の連結営業利益は850億円と前期比67%増える見通し。円安が追い風となる一方で、デジタルカメラの市場環境はコンパクト型を中心に厳しさを増す。いかにシェアを高め、収益を確保するのか、木村真琴社長に聞いた。
(日本経済新聞2013年7月12日15ページ)
【CFOならこう読む】
「16年3月期の営業利益は今期予想の2倍の1700億円が目標。これを前提に、自己資本利益率(ROE)を前期の9・2%から15%に引き上げたい」(前掲紙)
ROEを引き上げるために、在庫管理を徹底するとのことです。
「自己資本比率は50%程度が妥当とみている。前期末は57%だが、海外資産の円換算が膨らんだ影響を除くとおおむね理想的な状態だ。」(前掲紙)
一般的に、ROEの欠点として、財務レバレッジの無節操な引き上げにつながる、という点が指摘されます。
しかし、木村社長が言うように、企業はリスクバッファーとして維持すべき自己資本のレベルを認識している訳で、それを前提に目標ROEを設定するのです。単純に財務レバレッジを上昇させることで、ROEの数値を引き上げても意味がないことを、まともな企業であれば当然知っているので、上のROEの欠点は的を外していると思うのです。
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「好採算のCR-Vにもっと資源を投入しろ」「この車種の効率性は悪すぎるのでは」。8月以降、ホンダの事業管理本部を中心にこんなやりとりが目立つようになった。投下資本に対する収益性を見る投下資本利益率(ROIC)の観点から、モデル別の研究開発動向を常にチェックし始めたためだ。
(日本経済新聞2010年9月9日)
【CFOならこう読む】
ROICとは一般に次のように定義されます。
ROIC=NOPLAT / 投下資産
ここで、
NPLAT=税金調整後営業利益
投下資産=運転資本+事業の用に供されている有形固定資産+事業に関係するその他資産-事業に関係するその他負債
(「マッキンゼー・アンド・カンパニー トム・コープランド他著 企業価値評価ダイヤモンド社」に吉永が加筆修正)
この考え方をホンダは開発投資にも反映しているというのが今日のニュースです。
「経常利益と減価償却費の合計を、人や金型といったモノなどの投入資源と研究開発費の合計で割り、効率性をみる。
指標は二、四輪車すべてに導入する。モデル別投資リターンがわかり、瞬時に「開発投資の良しあしを判断できる」(北條陽一取締役)。現在、四輪車の平均リターンは10%超とみられるが、今後、「フィット」や「シビック」などグローバル車種では2~3割に高める」(前掲紙)
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金融危機を経て株主と企業の関係が問い直されている。政界や経済界でも株主主権を誤りとする発言や、株主に距離を置く従来の日本企業の経営を再評価する声も出ている。企業と株主、株式市場との関係はどうあるべきなのか。株主の期待以上の利益を目指す経営で知られる花王の後藤卓也前会長に聞いた。
(日経ヴェリタス2009年8月2日21面)
【CFOならこう読む】
私は7月30日のエントリーで、会社は国富創造(株主価値創造)のために存在するのであって、株主のために存在するのではない、と書きました。
花王の後藤卓也前会長は、株主価値創造経営の代表選手としてよく取り上げられる大変著名な経営者ですが、上記記事の中で僕と同様の趣旨の発言をされています。
「-社長時代には株主配分を高める一方、アナリストや市場関係者のために経営しているわけではないと発言されていました。
『利益ある成長を続ける強くて良い会社』を目指してきた。適切な利益を上げて投資し、当然ながら株主の期待に応える。そして税金を支払う。こうした成長のサイクルをきちっと継続できるという意味の『強い』であり、企業としての透明性、公正性、コンプライアンスを高めることが『良い』ということだ。」
『強い』会社をつくるための道具として、花王は業績評価の指標としてEVAを採用することを決めたのですね。
そんな花王のキャッシュ配分の優先順位はとてもシンプルでわかりやすいものです。
「海外のIRでは、借金して自社株買いをすべきだと言われた。だが、それは極端だ。経営陣のためだけに内部留保をため込んでいるのなら責められて当然だが、一定の資金はリスク対応にも研究開発にも必要だ。社内では100億円でも200億円でも払うから、開発案件を提案してこいと言っていた。まずは再投資。そして内部に種がなければM&A(合併・買収)。それもなければ配当や自社株買いで還元するという順番だ。」
再投資の判定もEVAを創造するかどうかで決めるわけです。
株主価値を重視する経営とは、特定の株主の言うことをきく経営ではなく、株主資本コストを重視する経営なのです。
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