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解雇規制の見直し、人事管理と両輪で

・解雇ルールだけの変更は実効性危ぶまれる
・人事権の大きな裁量に解雇を抑止する効果
・勤務地限定や職務限定の労働契約は合理的
(日本経済新聞2013年4月10日27ページ 経済教室 一橋大学准教授神林龍氏)

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1つ目の論点について神林氏は次のように述べています。

「現行の解雇ルールは、雇用法制の観点からは広範な人事権と、経済システムの観点からは定年や退職金、内部昇進や人事考課などの人事管理と補完的な関係にある。これらを保持したまま解雇ルールだけを変えようとしても、補完関係ゆえに現行の解雇ルールを維持する労使が多数を占めるだろう。

解雇ルールの見直しは人事権の見直しと両輪で進めなければならない。例えば差別的な採用を禁止し、退職金への課税優遇措置を廃止する、あるいは裁量的な残業命令を限定し、就業規則の一方的な変更を許さないなど、同時に考えなければならない要素が多数ある。現在議論されつつある「勤務地限定、職務限定」の労働契約は、人事管理と解雇ルールの変更を同時に促すという意味で合理的だろう。」(前掲稿)

退職金を含む役員・従業員の報課課税制度の見直しは必要であろうと私も思います。しかし、退職金への課税優遇措置そのものを廃止する必要はないでしょう。重要なことは、転職を前提とした形で適格退職年金制度を見直すことです。

さらに、転職が普通の社会になれば、従業員が肩たたきに怯えるという状況ではなく、会社が重要な人材を引き留められるかに関し相当の努力を求められるようになるはずです。米国では、雇用者 (会社)が、有能な幹部社員を引き付け引き留める手段として、報 酬の課税繰延を伴った業績連動賞与や補充型ベネフィットが利用されています。こういった創意工夫を税制が無にしないような法制度の設計が求められます。

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解雇ルールのポイント

第2次安倍晋三政権の下で解雇ルールの見直し論議が再燃している。主たる争点は、ルールの明確化と金銭解決の導入の可否だ。
(日本経済新聞2013年4月9日26ページ 経済教室 神戸大学教授大内伸哉氏)

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「現在の解雇ルールのポイントは、(1)企業に対して事前に就業規則に解雇事由を記載することを義務づける(労働基準法89条3号)(2)就業規則で定める解雇事由に基づく解雇であっても、客観的合理的理由があり、社会通念上相当と是認されなければ、権利濫用(らんよう)として無効とする(労働契約法16条)――というものだ。」(前掲稿)

大内教授は、企業が労働者の能力の欠如や経営上の必要性によることなどを理由とする解雇について、企業の判断を尊重すべきとし、金銭解決によるのが適切であるとしています。

「金銭解決の構想は、(1)解雇は不当だが、使用者が金銭補償をすれば雇用の解消が可能となるタイプ(2)使用者が金銭補償をすれば、解雇を有効とするというタイプ――の2つに大別できる。前者が不当解雇に対する制裁面、後者は解雇の要件面で金銭要素を採り入れるものだ。」(前掲稿)

いずれを採用するかが実は非常に重要であると思います。

金銭交渉は、今外資系企業で行われているように、使用者と労働者の交渉により決着することになります。

一般に弱い立場にある労働者が使用者と対等に交渉するには武器が必要です。そのために、解雇は不当であるという前提は必須であると私は思います。

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起業を増やして経済の活力を高めよう

脱デフレを掲げる安倍政権の登場で、日本経済は活気を取り戻しつつある。この勢いを一時的なものに終わらせず、息の長い成長につなげたい。重要な課題の一つは、次の時代を切り開く新しい企業を育て、停滞しがちな日本の産業の新陳代謝を促すことだ。
(日本経済新聞2013年2月20日2ページ)

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「企業創出の重要性は長らく指摘されてきたが、数字で見る限り情勢は甘くない。日本の新規株式公開は2000年の204社がピークで、その後、減少傾向をたどり、去年は46社だった。1年間に新規に生まれる企業の数を全企業数で割った開業率も、米英が10%を超えているのに対し、日本は5%程度にとどまる。だが、目を凝らせば、変化の予兆もみえる。若い世代を中心に「自ら企業をつくろう」という機運が徐々に高まっているのだ。」(前掲紙)

そういった機運の高まりを私も肌で感じます。しかし起業しやすい環境が整備されているとは言い難い日本の相も変わらぬ現状があるのもまた事実です。

例えばスタートアップ時のファイナンス。日本ではこれが難しい。制度融資的なものはあるにしても所詮はデットです。スタートアップ時の資金調達はエクイティで行うべきものですが、この部分を担うプレーヤーが圧倒的に少ない(VCも含め)。

また、エクイティで資金調達する際に、起業家の持分を一定程度確保するためには、株式報酬を付与することが必須ですが、税制を中心とした法制度の不備により、ストックオプション以外の株式報酬の利用が難しい。

日本では、米国の制限付株式(Restricted Stock)と同様の趣旨で、1円ストックオプションを利用するケースが増えています。

商事法務2013年2月5日号「役員報酬改革の新潮流と今後の諸論点(下)」で日本版Restricted Stockとして、BIP信託なるものが紹介されていますが、そもそも普通にRestricted Stockを付与できないこと自体が問題だと私は思います。

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わが国の法制度が、わが国企業の低収益性と資金余剰の原因

円高が悪いのか製品開発力が失われたのかー企業の収益力低下の要因はさまざまに語られている。しかし、金融庁出身の日本銀行理事、木下信行氏の目には、もっと根本的な別の原因が映っている。昨年12月に日銀金融研究所を通じ、個人的見解として発表した論文では、法的整理に踏み切りにくい制度も低収益性の一因だと指摘している。
(日経ヴェリタス2013年1月15日49面 日本経済研究センター主任研究員前田昌孝)

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「「利益率が低いのは現預金など収益性が低い資産を過度に保有しているせいだと、よく指摘される。木下論文ではその理由の一端を「法的整理の早期着手に向けたインセンティブ付けが弱いうえに、法的整理の開始前後における経営者や従業員に対する脅威の段差が大きいからだ」と指摘する。」
(前掲紙)

木下論文は、日本は制度上、法的整理の早期着手を促す仕組みがなく、法的整理に踏み切った後の経営者や従業員への脅威が大きく、したがって、これを回避するために現預金を過度に保有する傾向があると指摘します。

日本の事業再生に係る制度上の特徴として、米国及びドイツとの比較から次の点を挙げています。

(1) 再建型倒産制度の開始要件
アメリカでは、債務者の信義則が求め られるだけで、法律上は法的整理の開始について特段の要件が定められていな い。また、ドイツでは、要件として「支払不能、債務超過またはそれらのおそ れ」が定められているが、取締役には適時に法的整理を申し立てる義務が課さ れており、違反には民事責任のみならず刑事責任も課される。
一方、わが国においては、法的整理の開始要件についてドイツと同様の要件 が定められている一方、企業が債務超過に陥っていても、預金保険法で金融機 関について報告義務が課されていることを除いては、取締役による報告や手続 申立ての義務が存在しない。

(2)経営者に対する脅威
①DIP 型手続とプレパッケージ型の再建計画
経営者からみて、法的整理の開始に伴う第 1 の脅威は、自らの地位や経営の 主体性を失うことである。
この点については、アメリカでは、かねてより、チャプター11 において、DIP 型の手続が広く用いられており、プレパッケージされた再建計画も幅広く認め られてきた。一方、ドイツでは、開始時点では再建型と清算型を区別しない倒産制度が 1999 年から施行され、債権者の合意等の要件を満たす場合には、DIP 型の手続が認め られたが、裁判所による後見的な色彩が残り、広範な利用には至らなかった。 そこで、「企業再建円滑化法(Das Gesetz zur Erleichterung der Sanierung von Unternehmen)」により、債権者委員会を中心とする当事者主導のもとで、DIP型の手続やプレパッケージ型の再建計画の利用を拡大させる等により、企業再建を一層円滑にするための改正が行われ、2012 年から施行されている48。 これに対し、わが国では、2000 年代に入って、再建型倒産制度における DIP 型の手続が認められるようになったものの、なお、会社更生法における運用等 に課題が指摘されており、アメリカのようなプレパッケージ型の再建計画は認 められていない。
②経営者の責任
次に、経営者からみて、法的整理の開始に伴う第 2 の脅威は、再建計画の策 定の過程において、責任を追及されるおそれがあることである。
この点については、取締役の債権者に対する責任に関する会社法の定めが論 点となる。わが国では、取締役が故意または重過失により損害を与えた場合に は、債権者等の第三者が取締役に直接賠償を請求できるものと定められている。 また、その責任の内容については、自らの行為のみならず、従業員に対する監 督にまで及ぶとされている。
この制度を、アメリカやドイツと比較すると、法的整理開始前でも、債務超 過に陥った段階で取締役の債権者に対する責任が発生するか等の検討が行われ ている点は共通している。しかし、アメリカでは、取締役の対第三者責任の制 度が存在していない。一方、ドイツにおいては、取締役の対第三者責任の制度 が存在しているが、事業再生に関する取締役の責任については、わが国とは異 なる考え方がとられている。すなわち、ドイツでは、前述のように、企業が支 払不能または債務超過に陥ったときには遅滞なく倒産の申立てをし、支払不能 等に陥るおそれがあるときは直ちに調査する義務があり、取締役がこの義務を 怠った場合には、民事・刑事の責任を負う。実際にも、法的整理の申立てが行 われれば、検察当局が全件を審査しているとのことである。

(3)従業員に対する脅威
わが国においては、法的整理の開始に伴う従業員への脅威に関して、経常時 において厳しく規制される整理解雇等が容易になることが大きな意味をもつ。
アメリカでは、経常時においても、経営判断により整理解雇を行 うことが自由である。一方、ドイツでは、わが国と同様に厳しく整理解雇を規 制する「解雇制限法(Kündigungsschutzgesetz)」 が存在している。しかし、2003 年における抜本改正の一環として補償金解決制度が拡充された結果、法的整理 の開始の前後を問わず、補償金額の算定を通じて人員削減の必要性と雇用確保 の要請の間の調整を弾力的に行っていくことが可能となった。特に、被解雇者 の選定の公平性に関して、ドイツでは、法的整理に関し、従業員対応を迅速に 処理するための枠組みとして、社会計画(Sozial Plan)の制度が設けられており、 改正後の倒産制度のもとで、補償金解決制度と組み合わせることにより、公平 性を確保しつつ事業再生の可能性をより高めるような人員整理が容易になった ものとされている。

(4)わが国企業の財務に対する影響
わが国では、事業再生を巡る諸制度において、法的整 理の早期着手に向けたインセンティブづけが弱く、資金繰りさえ確保できれば 法的整理の申立てを回避できること、また、法的整理の開始前後における経営 者や従業員に対する脅威の段差が大きいままであることが、企業の財務に対し、 より多くの内部資金を留保させる方向の影響を与えているのではないかという 仮説を得ることができる。

事業再生に関する上記議論以外に、木下論文は、次の点を指摘している。
企業買収に関しては、投資家によるわが国企業の買 収が困難なため、買収圧力の欠如から多額の内部資金等の状況が温存されてい る可能性がある。
投資家の行動に関しては、株主が個別的利益を重視 する等により、収益性引き上げの圧力が遮蔽されている可能性がある。
市場法等のエンフォースメントに関し、その程度が弱いこと、規制当局に依存 していること、証券訴訟よりも株主代表訴訟が多用されることが、リスクテイ クを消極的にさせている可能性がある。

【リンク】

 

「わが国企業の低収益性等の制度的背景について Discussion Paper No. 2012-J-12」木下信行 [PDF]

 

 

最高裁、虚偽記載賠償額算定基準示す

西武鉄道による有価証券報告書の虚偽記載で株価が下落し損失を被ったとして、機関投資家や個人株主が同社などに損害賠償を求めた4件の訴訟の上告審判決が13日、最高裁であった。第3小法廷は「虚偽記載がなければ株を取得していなかった」として、投資家にとって取得自体が損害に当たると認定。取得価格から売却価格と、虚偽記載とは無関係な経済情勢などによる下落分を差し引いた金額を損害額とする初判断を示した。
(日本経済新聞2011年9月13日3面)

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「同小法廷は判決理由で「虚偽記載がなければ投資家が西武鉄道株を取得しなかったのは確実」と指摘。取得自体が損害に当たり、売却による埋め合わせ分を差し引いた「取得価格-売却価格」を損害算定の起点とすべきだとした。
一方で、経済情勢や市場動向、会社業績など虚偽記載と無関係の要因による下落分は投資家が負担すべきだと指摘。こうした下落分をさらに差し引いた金額が、投資家の損害額になると結論付けた。5人の裁判官を全員一致の判断」(前掲紙)

西武鉄道株に係る損害賠償訴訟で下級審が示した損害算定方法は次の4通りでした。

1.2008年4月東京地裁
公表日終値-売却価格

2.2009年1月東京地裁
取得価格-売却価格

3.2009年3月東京高裁
公表日終値の約15%

4.2010年3月東京高裁
平均取得価格×57.7%

今回の最高裁が示した算定基準を算式で示すと、

取得価格-売却価格-虚偽記載と無関係の下落分

となります。

しかし、虚偽記載と無関係の下落分をどう算定するかを具体的に示しておらず、仮にこれを取得価格と公表当日終値の差額とすれば、

取得価格-売却価格-(取得価格-公表日終値)=公表日終値-売却価格

となり、2008年4月東京地裁と同じものになります。

結局、虚偽記載と無関係の下落分をどう算定するか次第で算定結果は全く異なる訳で、今回の最高裁の判断は実は何も示していないと評価することもできます。

ただし、「取得自体、株主に損害」との認定は、今後他の虚偽記載の損害訴訟に波及していくかも知れません。

例えばIPO時点での粉飾が発覚した場合には、その粉飾がなければ上場出来なかったことになり、上場時の非常に高い価格で株式を取得している株主の損害賠償の算定の起点はその取得価格ということになる、と判断されるという具合に。

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村上被告有罪確定、実現性低くてもTOB等決定情報はインサイダー情報に当たる

ニッポン放送株を巡るインサイダー取引事件で証券取引法違反罪に問われた村上ファンド元代表、村上世彰被告の上告審で、最高裁第1小法廷は7日までに、元代表側の上告を棄却する決定をした。懲役2年、執行猶予3年、罰金300万円、追徴金約11億4900万円とした二審・東京高裁判決が確定する。
(日本経済新聞2011年6月8日35面)

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最高裁決定の骨子は以下の通りです。

「・ライブドアの堀江元社長らは、会社並みの意思決定ができる「業務執行機関」に当たる
・株式買い付けの実現可能性が全くあるいはほとんどない場合を除き、買い付け決定があればインサイダー情報に当たる
・2004年11月8日に大量買い付け方針決定の伝達を受けたとの二審判断は正当」
(前掲紙)

今回の最高裁決定について、経営者が語る夢物語や志がインサイダー情報に当たるとの危惧の声も上がっているようですが、今回の決定は、業務執行機関がTOB等を行うことについて意思決定を行った場合に、その実現可能性が少しでもあればインサイダー情報にあたるとしたもので、「企業が実現を意図して内部で決定したことが重要情報にあたると認定しており、実現可能性を無視した判断とはいえない」(前掲紙)という太田弁護士の見解が正鵠を射ていると思います。

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公正取引委員会、企業の合併審査改革案公表

公正取引委員会は4日、企業の合併などを前もって相談する「事前相談制度」の廃止を柱とする合併審査改革案を正式に発表した。7月の新制度移行を目指す。法律に基づかない同制度をやめ、届け出後の法定審査に一本化。透明性を向上させたり実質的な審査期間を短くしたりして、国際競争力強化に向けた企業再編を促す。
(日本経済新聞2011年3月5日5面)

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変更内容は以下の通りです。

審査手続きについて

・事前相談制度を廃止
・公取委が論点など説明
・審査結果を通知・公表

審査基準について

・ユーザーが世界各地から調達先を選んでいればシェアを世界市場で判断
・輸入実績がなくても海外品からの競争圧力を考慮
・類似の競合品市場も競争圧力として考慮
・継続的な赤字事業であれば寡占度が高くても容認

「公取委は国際化した企業活動に対応する姿勢を示したが、判断基準そのものが変わったわけではない。日本企業の国際競争力を強める産業再編につながるかは未知数」
(根岸哲教授 前掲紙)

というより、グローバル企業の独占・寡占の判断を個々の国の行政機関が行うという制度が限界に来ているのだと思います。例えばOECDが主導し、世界共通の基準を設定するという方向性が望ましいと、私は思います。

【リンク】

2011年3月4日「企業結合規制(審査手続及び審査基準)の見直し案に対する意見募集について」公正取引委員会 [PDF]

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アパマン最高裁判決ー完全子会社化のための株式買取価格額面の5万円でOK?

貸仲介のアパマンショップホールディングスが傘下企業を完全子会社化した際、株式の買取価格を額面通りの1株5万円としたのは高すぎるとして、株主が経営陣に損害賠償を求めた株主代表訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷は15日、株主側の請求を認めた二審・東京高裁判決を破棄した。経営側の逆転勝訴が確定した。
(日本経済新聞2010年7月16日42面)

【CFOならこう読む】

「アパマンショップHDは2006年、月決めマンション事業を手がける傘下の「アパマンショップマンスリー」を完全子会社化するため、同社の少数株主から1株当たり5万円、総額1億5800万円で株式を買い取った。これに対し、マンスリー社の資産状況が悪化していたことなどから、HDの株主が「(マンスリー社の)株式の評価額は8千万円余りにとどまる)と訴えていた」(前掲紙)

会社は、株式買取りに応じない株主が出てくることに備え、株式交換の準備も同時に進めていて、監査法人等2社に株式交換比率の算定を依頼していました。提出された交換比率算定書の一つにおいては,Aの1株当たりの株式評価額が9709円,他の一つにおいては,類似会社比較法による1株当たりの株主資本価値が6561円ないし1万9090円とされたおり、これと比べ5万円の株式買取価格は高いということで株主代表訴訟が提起されました。

マンスリー社は,主として,備品付きマンスリーマンション事業を行うことなどを目的として平成13年に設立された会社であり,設立時の株式の払込金額は5万円でした。マンスリー社の株式は,発行済株式の総数9940株の約66.7%に相当する6630株をHDが保有していたが,本体の事業の遂行上重要であると考えていた本体のフランチャイズ事業の加盟店等もこれを引き受け,保有していました。

加盟店の関係を良好に保つために、当初の払込み価額で株式買取を行なう必要性があると経営陣が判断し、またその判断の妥当性について弁護士の意見も聴取していたということです。

これに対し最高裁は次のように経営陣の責任は問われない旨判示しています。

「以上の見地からすると,参加人がAの株式を任意の合意に基づいて買い取ることは,円滑に株式取得を進める方法として合理性があるというべきであるし,その買取価格についても,Aの設立から5年が経過しているにすぎないことからすれば,払込金額である5万円を基準とすることには,一般的にみて相応の合理性がないわけではなく,参加人以外のAの株主には参加人が事業の遂行上重要であると考えていた加盟店等が含まれており,買取りを円満に進めてそれらの加盟店等との友好関係を維持することが今後における参加人及びその傘下のグループ企業各社の事業遂行のために有益であったことや,非上場株式であるAの株式の評価額には相当の幅があり,事業再編の効果によるAの企業価値の増加も期待できたことからすれば,株式交換に備えて算定されたAの株式の評価額や実際の交換比率が前記のようなものであったとしても,買取価格を1株当たり5万円と決定したことが著しく不合理であるとはいい難い。

そして,本件決定に至る過程においては,参加人及びその傘下のグループ企業各社の全般的な経営方針等を協議する機関である経営会議において検討され,弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されているのであって,その決定過程にも,何ら不合理な点は見当たらない。

以上によれば,本件決定についての上告人らの判断は,参加人の取締役の判断として著しく不合理なものということはできないから,上告人らが,参加人の取締役としての善管注意義務に違反したということはできない。」

要するに、経営上の合理的な理由があれば、時価と異なる価格で株式の売買を行なうことが認められるということです。

【リンク】

「平成21(受)183 損害賠償請求事件 平成22年07月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所」[PDF]

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不公正ファイナンス、摘発相次ぐ

増資した資金がすぐに流出する「不公正ファイナンス」が後を絶たない。証券取引等監視委員会は相次ぎ金融商品取引法の偽計容疑で増資に関与した会社経営者などを告発したほか、証券取引所や各財務局と連携して未然防止にも取り組む。しかし、現物出資を利用するなどの新たな手口が横行しつつあり、証券監視委は警戒を強めている。
(日本経済新聞2010年5月10日)

【CFOならこう読む】

「現物出資とは、不動産など資金以外の物の提供を受け対価として株式を発行することだ。証券監視委によると、特に不動産を現物出資する場合の価格に問題があるという。

不動産鑑定士の評価額をもとに対価とする株数を決めるが「素人が見ても明らかに高いケースがある(証券監視委 佐々木総務課長)。不動産の出資者は不当に安く株式を手に入れた可能性があり、株式を市場で売却すれば利益が転がり込む。

実際、現物出資の件数は急増している。2009年に現物出資すると開示した全国上場企業は延べ20社で2008年より7社増えた。2010年はすでに9社が開示している」(前掲紙)

現物出資の場合には、現物出資の価額を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申し立てをしなければなりませんが、次の場合にはこれを省略できることになっています。

1.募集株式の引受人に割り当てる株式の総数が、発行済株式総数10分の1以下である場合
2.現物出資財産について定められた財産の価額の総額が500万円以下である場合
3.現物出資財産のうち、市場価格のある有価証券について定められた財産の価額が、その有価証券の市場価格として法務省令で定める方法により算定されるものを超えない場合
4.現物出資財産について定められた価額が相当であることについて、弁護士、弁護士法人、公認会計士、監査法人、税理士または税理士法人の証明(現物出資財産が不動産の場合は、証明および不動産鑑定士の鑑定評価)を受けた場合
5.現物出資財産が株式会社に対する金銭債権(弁済期が到来しているものに限る)であって、その金銭債権について定められた価額が、その金銭債権に係る負債の帳簿価額を超えない場合(会社法207条9項)

不動産の現物出資の場合には、上記4の不動産鑑定士の鑑定評価をもって検査役の調査が省略されます。つまり割高な不動産鑑定評価を得ることさえできれば、容易に「不公正ファイナンス」を行なうことができるのです。

実勢価格とかけはなれた鑑定評価を行う不動産鑑定士が存在するとは、直ちには信じられませんが、「素人が見ても明らかに高いケースがある」というのが事実であるなら、それにお墨付きを与えた不動産鑑定士がいるということになります。

なお、財産の価額について証明を行なったものは、財産の時価が定款に定めた価額に著しく不足するときには、会社に対して連帯してその不足額を支払う義務を負います(ただし証明にあたって注意を怠らなかったことを証明した場合には、義務は負わない)。

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ソフトバンク、子会社株式売却により配当原資を確保

ソフトバンクは2日、子会社のヤフーなど2社の株式を別の子会社に売却したと発表した。ソフトバンク単独の2010年3月期決算で512億円の売却益を特別利益に計上する。配当原資の確保が狙い。
(日本経済新聞2010年4月3日15面)

【CFOならこう読む】

「売却したのはヤフー株113万2140株(発行済株式の1.9%)と欧州の持株会社の株式。売却先はグループ内の別の持株会社であるSBBMで、内部取引として相殺されるため、連結決算には影響しない」(前掲紙)

ソフトバンクは2008年3月期にも同様の取引で配当原資を捻出しています。持株会社は収益源に乏しく配当原資をこのような形でひねり出す必要がある場合があるのです。

そもそも持株会社の配当財源を単体財務諸表の剰余金に基づき算定することにそもそも無理があるのです。

連結財務諸表により配当可能利益を計算することを認めるべきです。会社法は連結配当規制適用会社となることを認めていますが、これは連結貸借対照表の株主資本等の額が単体貸借対照表のそれを下回る場合にその差額分だけ分配可能額から控除することを認めるもので、単体で配当原資がないが連結ではある場合に連結ベースで配当することを認めるものではありません。

「アメリカの州会社法には、株主への財産分配の限度額を連結貸借対照表に基づき算定するものがあり、この場合、親会社の個別貸借対照表上欠損があっても、親会社と子会社の連結貸借対照表上に分配可能額があればその限度で親会社が株主に対して財産分配ができることになる」
(「株式会社法 第2版」江頭憲治郎 有斐閣 613頁)

以前にも指摘しましたが、日本でも同様の制度が認められるべきであると、私は思います。

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