上場企業が自ら保有する自社株式の活用に動いている。M&A(合併・買収)の対価として現金の代わりに自社株を用いたり、社会貢献のために拠出したりして使い方の幅が広がっている。上場企業が抱える自社株は総額16兆円規模に膨らんでいる。余剰であれば消却してしまうことも含めて、企業の自社株活用にさらに磨きがかかれば、資本市場全体が活性化するとの期待につながる。
(日本経済新聞2014年3月28日3ページ)
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「上場企業が内部に抱える自社株は膨らんでいる。有価証券報告書などをもとに集計すると、筆頭株主が自社という企業は、昨年末時点でファナックなど300社を超える。年末で比較して過去最高だ。株価の上昇もあり、金額ベースでは約15兆7000億円に達し、1年前から5割増えた。」(前掲紙)
自社株買いの活用方法としては、今後役員報酬や社員報酬として自社株を付与することが増えてくると考えられます。
今後日本企業もコーポレートガバナンスが強化されていくに従い、株主価値を重視することはより当然という風に変わっていくと思います。そうなると、役員や従業員のインセンティブを株主価値にリンクさせる必要性が増してくるはずです。
しかし何度かお話ししているように、日本では、税法その他のインフラが整備されていないためこれが簡単にはできません。
信託だ何だとコストをかけなくてもこんなことは簡単にできるようでなければいけません。
是非とも立法上の手当てをお願いしたいところです。
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業績の拡大を背景に、株主への利益配分を積み増す上場企業が増えている。2014年3月期の株式配当は総額6兆8800億円と過去最高になる見通しで、昨秋以降でも4000億円近く上振れしている。自社株買いも合わせた株主配分では8兆円規模となり、5年ぶりの高水準だ。
(日本経済新聞2014年2月25日3ページ )
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「07年3月期から比較できる3月期決算の上場企業(電力など除く)2273社について、配当予想や自社株買いの実施状況などを集計した。
配当総額の6兆8800億円は前期比15%増。金融危機後は一時4兆6400億円まで減ったが、6年ぶりに最高を更新する。今期に増配や復配を予定する企業は全体の3割強。それだけ業績の先行きに自信を持つ企業が多いことを意味する。」(前掲紙)
増配は結構なことですが、資金が投資に向かわなければ企業も国家も成長できません。
企業には雇用創出につながるような新規投資を期待します。
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2013年4~9月期の連結純利益が過去最高を更新した日本たばこ産業(JT)。業績好調のJTが国内たばこ事業の大規模なリストラに乗り出す。民営化から30年近くたった現在も日本政府が33・3%を出資する「国策会社」が従業員の削減にまで踏み込む大なたを振るうのはなぜか。背景を探ると、株式市場を強く意識した経営に軸足を移す姿が浮かび上がる。
(日本経済新聞2013年11月14日2ページ)
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「「剰余金の配当率は国外の競合他社よりも格段に低い。1株当たり120円配当せよ」。JTの6月の株主総会ではこんな株主提案が注目を集めた。突き付けたのは英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド(TCI)。過去にはJパワー(電源開発)の株式買い増しを計画し、増配などを要求したこともある。
JT取締役会はTCIの4つの提案に反対を表明。総会でもTCIの提案は否決された。それでもTCIは意に介さない。JTとTCIは実は年に数回、会合の場を設けている。その内容をうかがい知ることができるのがJTが次々に打ち出す株主対策だ。3月には2500億円分の自社株買いを実施。配当性向を13年度の40%から15年度には50%に高める計画を掲げる。」(前掲紙)
サププライム前の環境に近づいてきました。やがて海外の株主だけでなく、日本の株主も「物言う」ようになるでしょう。
そしてそれは資本市場の規律として機能すべきことが本来期待されているのです。
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バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチは今月、世界の投資家に「企業に現金を何に使ってほしいか」と聞いている。「設備投資」との回答は全体の33%と、50%近くだった昨年初めから大きく減った。一方「株主への配分」は43%と、昨年初めの30%強から増加し、設備投資を上回った。景気の低迷で、企業はどこに投資しても成長は見込めまい。だったら、配当や自社株買いで返してほしい。
(日本経済新聞2012年8月21日13面)
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「日本企業も同じ圧力を市場から受けている。欧米企業と同様、手元資金は過去最高の水準にある。だからこそ、経営者に尋ねてみたい。「成長は本当に後回しでいいのか」と。世界の企業が投資家の弱気に促されて成長策に二の足を踏みつつあるからこそ、攻めの経営がうまくいけば競争で優位に立てる」(前掲紙)
企業が手元資金を積みましているのは、サブプライム時に流動性が枯渇した記憶が消えないからでしょう。こういう時代にはリスクテイクを後押しするサポーターが必要です。
金融機関、政府、投資家、国民、みんなのアントレプレナーシップを称賛する声が、企業や企業家を動かすのです。
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株式市場で、企業による自社株買いに対する関心 が高まっている。東京証券取引所1部の 売買代金が13日、年末年始を除き約9年ぶりの水 準に落ち込むなかで、自社株買いは需給面 から相場を下支えする要因となっている。8月~9 月は自社株買いは増えやすいという季節性 もある。手元資金が豊富な企業には、株主還元策 として自社株買いを求める声も高まっている。
(日経ヴェリタス2012年8月19日6面)
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「4~6月に自社株買い取得枠の設定を発表した時 価総額500億円以上の東証1部企業を対象に、 ゴールドマン・サックス証券が発表後4週間の株 価騰落率を調べたところ、TOPIXを平均7% 上回った。キヤノンは7月30日の引け後に500億 円を上限とする自社株買いを発表。翌31日に 株価は5.8%上昇した。」(前掲紙)
自社株買いは、自社株買いに応じなかった株主の 持分比率を増加させる効果があります。 自社株買いの価格とファンダメンタルバリューが 一致していれば、株価に無差別ですが、 市場株価が低くファンダメンタルバリューを下 回っているときに自社株買いを行えば、 既存株主の株式価値を押し上げます。
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味の素が資本効率向上に向け、事業の再構築を急いでいる。5月に入り子会社のカルピス売却、2013年3月期の連結純利益予想を上回る500億円の自社株買いを相次いで決めた。意識するのが営業利益率、ROEで10%を超え、効率性に勝るネスレなど世界の競争相手。世界で戦うためにいま何がひつようか。伊藤雅俊社長に聞いた。
(日本経済新聞2012年5月22日15面)
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伊藤社長「世界的に強みのある調味料やアミノ酸を活用した先端バイオ分野に経営資源を集中し、成長を加速する狙いだ。欧米企業は事業の成長だけでなく、利益率や資本効率を意識して企業価値を高め、M&Aに備えている。世界で戦うには、これまでの日本企業の基準に満足せず、ある程度、欧米企業と同じ構造にしないといけない。自社株買いもキャッシュの水準や、成長投資との見合いを考えながら、今後も機動的に実施していく。」(前掲紙)
味の素は前期6.9%のROEを、2017年3月期に10%以上に引き上げる。
「ネスレの2011年12月期の株主還元額(配当と自社株買いの合計)は107億スイスフラン(約9000億円)と純利益(94億スイスフラン)を上回る。利益を増やすだけでなく、自己資本を圧縮することでROEを17%に高めている」
(日経ヴェリタス2012年5月20日2面)
サブプライム後、レバレッジは悪といった空気であったのが、少し変わってきたようです。ROEに焦点が当たってくると、CFOの仕事はいろいろと増えてきます。
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キッコーマンの連結設備投資額が2013年3月期から減少傾向に転じ、2014年3月期には減価償却費の範囲内に収まる見通しだ。国内工場などの建設投資が前期までにかなりの部分が終了、今期以降はFCFも黒字基調になる公算が大きい。株主還元も含め、手元資金の用途が注目されそうだ。
(日経ヴェリタス2012年4月15日15面)
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「アナリストによる業績予想の平均値である「QUICKコンセンサス」をもとに今期のFCFを試算すると、100億円を超える黒字になる。設備投資額が減価償却費を下回る来期は、FCFの黒字額がより膨らむ公算が大きい」(前掲紙)
キッコーマンは、今月下旬にも中期経営計画を発表するとみられています。今後内需の伸びは期待できないなか、余剰FCFをどのように使っていくか、株主還元をどのようにするか、似たような環境にある多くの日本企業のCFOにとって、キッコーマンの状況は他人事ではなく、中期経営計画でどのような方向性が示されるか注目されます。
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米著名投資家ウォーレン・バフェット(81)が2月25日、毎年恒例の「手紙」を公表した。自ら経営トップを務める投資会社バークシャー・ハザウェイの株主にあてたものだ。今年もバフェット独特のユーモアがあふれるなか、投資に関する鋭い洞察がちりばめられている。
(日経ヴェリタス2012年3月4日13面)
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株価が上がると損?!
「IBMの株価が今後5年はさえないことを、われわれは願うべきです。理由は簡単。これから株式を買い増すつもりなら、株価が上がると損です。将来、自分のお金で株式を直接買うにしろ、(投資先の企業が自社株買いをすることで)間接的に株式を買う場合でも同じです。将来も買うつもりなら、株価が下がったほうが得です。
株式をこれから買う予定の人も含め、ほとんどの人は株価が上がると安心します。これは、自家用車で通勤している人が、車の燃料タンクにはその日に必要なガソリンしかないのに、ガソリンの値上がりを喜ぶようなものです」(バフェットの手紙より 前掲紙)
長期投資を志向する投資家にとっては、長期的に安定配当が得られることが重要です。さらに投資先が自社株買いを実行すれば、既存株主の出資比率が上がります(これをバフェットは間接的に株式を買うと表現しています)。
株式を買い増すにしても、自社株買いを行うにしても株価が低い方が望ましいということです。
だからといってCFOとしては株価を上げないことを是とする必要はありませんが、しかし、企業が自社株買いを行うのと株主が株式を買い増すのは、株主にとっては同等の意味があることを理解しておく必要があると思います。
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初来日の前週に突然、米IBM株に100億ドルを投じたことを公表したウォーレン・バフェット氏。氏が率いるバークシャー・ハザウェイは今や、IBMの発行済株式の5.5%を保有する大株主だという。欧州危機や米景気の先行き懸念で米株式相場も下落するなか、逆張りで株式投資を続けていたことが明らかになった。IBM株への投資を決めた舞台裏、日本での投資の可能性・・・。投資の神様は日経ヴェリタスに大いに語った。
(日経ヴェリタス2011年11月27日2面)
【CFOならこう読む】
11月22日の当ブログのエントリー(2011年11月28日エントリー「バフェット氏、『日本投資魅力薄れず』」)で示した疑問のいくつかに、インタビュー記事の中でバフェット氏は答えています。
−自分が事業内容を理解できないハイテク株には投資しない方針をいつも口にしていました。いまなぜ突然、その投資哲学を変えてIBM株に投資したのですか。
「これから5年、10年後のIBMの収益力を見通せるくらいに、IBMのことを理解できたと感じたのです。もっと早く分かればよかったのですが、投資するのが遅かったとはいえ、全くしないよりはいいでしょう。
IBMは賢明な財務戦略をとっており、顧客基盤もしっかりしている点にも注目しました。そして、われわれがIBM株をたくさん買っている時の株価はお買い得な水準だったので、大量の資金をつぎ込んだのです」(前掲紙)
IBMの賢明な財務戦略とは何でしょう?
2010年度のアニュアルレポートを見てみると、Total liabilities and equity $113,452milのうち
Short-term debt $6,778mil
Long-term debt $21,846mil
と有利子負債比率が比較的低いこと、及び自己株式が$96,161milと大きな水準になっていること、さらに一方、Cash and cash equivalentsは$10,661と無駄にキャッシュを積み上げてはいないこと、に気付きます。
「ただ、われわれが本当にやりたいのは、日本で大きな会社を買収することです。(敵対的な買収をするつもりはないので)会社を買って欲しいという話がくるのを待っているのですが、まだ現実のものになっていません。しかし、もし日本の大企業からあす電話をもらって、バークシャーに買収して欲しいという申し入れがあれば、飛行機に乗ってすぐ駆けつけますよ」(前掲紙)
賢明な財務戦略をとり、しっかりとした顧客基盤を持ち、5年後10年後の収益力を見通せる日本の大会社さんで、大口の安定株主が欲しいところがありましたら、バフェット氏に至急ご連絡ください。すぐに自家用飛行機で駆けつけてくれるそうです。
【リンク】
「Annual Preport 2010」 IBM [PDF]
ソフトバンクは商いを伴って上昇。前日に自社株買いを発表したのが材料視された。
(日本経済新聞2011年9月30日18面)
【CFOならこう読む】
昨日ブログで取り上げた、ソフトバンクの自社株買い発表の続報です。
「取得上限は119億円と時価総額の1%に満たないが、週前半までの下落が急だっただけに「買い戻しのきっかけとしては抜群のタイミング(大手証券)だったようだ」(前掲紙)

自社株買いは需給をタイトにすることにより、株価上昇を促す財務戦略であるという誤解が一部にありますが、119億円の自社株買いでも株価を動かすのです。
自社株買いの一番の意義は、株価が割安であるということを経営者が市場に伝えるシグナリング効果にあります。
そういう意味では自社株買い発表と合わせる形で、冬春商戦向けスマートフォンの新製品11機種を発表し、脱iPhone依存を印象付けたのも効果的であったように思います。
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