私的整理の1つである事業再生ADR(裁判外紛争解決)に踏み切る企業が増えている。実例が少なく、取引企業は債権の会計処理について対応に追われている。事業再生ADRは第三者機関が企業と金融機関など債権者の調整を担う。9月はウィルコム。アイフルなどが申請した。京セラは3月末時点でウィルコム向けに178億円の売掛債権を持つ。会計処理は債権者集会を踏まえ「監査法人と相談して決める」(京セラ)。日本無線も「取引先がADRを申請した場合の売掛債権の会計処理の社内ルールがない」という。
(日本経済新聞2009年10月10日14面)
【CFOならこう読む】
事業再生ADRとは、法務省による「裁判外紛争解決手続(ADR)認証制度」による認証を受けた事業者が、紛争の範囲が事業再生に係る場合、経済産業省「産業活力再生特別措置法第48条」による認定(特定認証ADR:以下、「事業再生ADR」という。)を受けて行う事業をいいます。
事業再生ADR利用するメリットの1つとして、本業を継続しながら金融機関等との話し合いで解決策を探れるので取引先に迷惑をかけずにすむ点が挙げられます。
つまり、一般には取引先の債権がADRの対象に含まれないのです。
ですから、少なくとも事業再生ADR申請会社に対する債権を一律に引き当てるという実務はないし、その必要もないものと思います。ただし、案件によっては状況が異なるケースもあるので、結論としては、個別に回収可能性を判断し、引当金の要否を検討する必要がある、ということなります。
【リンク】
「事業再生ADR活用ガイドブック」事業再生実務家協会[PDF]
日本エスコンは25日、大阪市の会社経営者や同社取締役などに対し総額4億7千万円の第三者割当増資を実施すると発表した。同社は事業再生ADR手続きを利用した経営再建中で調達資金で社債の一部を買入消却する。
(日本経済新聞 2009年9月26日 14面)
【CFOならこう読む】
社債買入消却の必要性について会社は次のように説明してます。
「当社が、事業再生ADR手続において成立を目指している事業再生計画案、及び本件社債の社債権者との間で協議を進めてきた本件社債の基本的な弁済計画は、いずれも、ADR対象債権者及び本件社債の社債権者に対して当社に対する債務免除をお願いする債権放棄型の計画とはしておらず、あくまで、ADR対象債権者及び本件社債の社債権者に対して借入金及び本件社債の弁済期間の猶予及び弁済方法の変更をお願いするリスケジュール型の計画とさせていただいております。
もっとも、本件社債の社債権者は、金融機関を中心とするADR対象債権者と異なってその属性も区々であるため、長期かつ分割の額面償還ではなく、額面未満であっても当社による本件社債の買入れを希望する社債権者が少なくない状況にあります。
また、本件社債の一部を額面未満で買入消却した場合は、それによって当社の負債が削減され、買入価格と社債の額面との差額において社債買入消却益が発生するため、当社の財務基盤を早期に健全化することに資するとともに、リスケジュール型の事業再生計画案及び社債弁済計画において弁済期間を短縮することができるため、ADR対象債権者及び本件社債の社債権者の利益ともなるところです。
そこで、当社としましては、本件社債の社債権者に対して、本件社債の弁済計画等において、長期かつ分割の額面償還という基本的な弁済計画のほかに、当社による本件社債の買入消却というオプションを提案させていただくことが妥当であると判断いたしました。 」
社債権者からの買入希望は買入価額ベースで12億円程度になっており、主力銀行からの融資6億円と第三者割当により消却資金の資金調達を行うとのことです。
第三者割当増資の発行価格は5,000円。これは第三者割当増資の募集事項の決定に係る当社取締役会決議日の直前取引日までの3か月間(平成21年6月25日から同年9月24日まで)のJASDAQ市場における当社株式の普通取引の終値の単純平均値である5,343円を参考 として、新株式の発行価格(募集株式の払込金額)を約6.4%ディスカウントした価格です。
この価格は、発行価格は、募集事項の決定に係る当社取締役会決議日の直前取引日の終値からは約22.1%、過去1か月間の終値の単純平均値からは約34.5%、過去6か月間の終値の単純平均値からは約17.8%ディスカウントした価格となります。
会社は直近の価格を発行価格としない理由を(つまり有利発行ではないという理由を)次のように説明しています。
「JASDAQ市場における当社株式の株価及び出来高は、平成21年8月下旬以降になって現在まで過去には見られなかった極めて大きな変動を続けており、急激な変動を生じた後である過去1か月間の平均の株価を参考として発行価格を算定し、又は取締役会決議日の直前取引日の株価という一次的な株価を参考として発行価格を算定するのは、妥当でないと考えます。また、平成21年6月22日付「事業再生ADR手続及び今後の事業再生への取り組みに関するお知らせ」にてお知らせしました通り、当社は平成21年6月22日に事業再生ADR手続の利用申請という投資家の投資判断への影響が特に大きいと思われる事項を行っており、過去一定期間の平均の株価を参考とするとしても、事業再生ADR手続開始後の期間の株価によることが妥当であると考えます。そこで、当社としましては、過去3か月間の平均の株価を参考として発行価格を算定することが最も合理性が高いものと判断いたしました。 」
なお社債の買入価格は、発行価格100円あたり10円~15円となるそうです。
【リンク】
平成21年9月25日「第三者割当により発行される株式の募集に関するお知らせ」株式会社日本エスコン[PDF]
[東京 15日 ロイター] ラディアホールディングス(4723.T: 株価, ニュース, レポート) (旧グッドウィル・グループ)は15日、産業活力再生法に基づく裁判所外での企業再生手続きである「特定認証紛争解決手続き(事業再生ADR)」を申請す る準備に入ったと発表した。2009年6月期で200億円の債務超過となる見通しで、上場廃止基準に抵触するおそれがあるとしている。
(ロイター 2009年 06月 15日)
【CFOならこう読む】
今日は事業再生ADRに関する備忘記録です。
事業再生ADRとは、法務省による「裁判外紛争解決手続(ADR)認証制度」による認証を受けた事業者が、紛争の範囲が事業再生に係る場合、経済産業省「産業活力再生特別措置法第48条」による認定(特定認証ADR:以下、「事業再生ADR」という。)を受けて行う事業をいいます。
事業再生実務家協会が政府から第三者機関に認定され、事業再生ADRの制度運用が始まっています。

日本経済新聞 2009年6月16日 9面
事業再生ADR利用するメリットとして次のことがあげられます。
1.通常の私的整理と同様に本業を継続しながら金融機関等との話し合いで解決策を探れる。
→取引先を巻き込まないことができる
2.経済産業省の要件を満たした実務家の調整・監督の下で公正中立性が保たれつつ、進められる。
3.手続の開始から終了に至るまでの間におけるつなぎ融資に係る公的保証制度が整備され、債権者にとっては債権放棄に係る無税償却、債務者にとっては、債務免除に係る税制上の優遇措置がある。
4.(事業再生ADRが不成立に終わった場合で)特定調停に案件が持ち込まれる際、事業再生ADRに関与した案件は、裁判所は相当と認めた場合、裁判官だけで調停を行うことができる。
【リンク】
「事業再生ADR活用ガイドブック」事業再生実務家協会[PDF]
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