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FAS159”金融資産及び金融債務に関する公正価値オプション”

2009 年 6 月 2 日 コメント 1 件

GM破産の観測が一気に高まった5月22日、ロンドンで会計・金融の専門家が時価会計の見直しを急いでいた。「会計は企業が市場の信認を正しく得るために設計されているか」。
議論の声は単なる金融機関の評価損対策を超え、突っ込んだやりとりが多かった。危機の震源地、米ウォール街では「負債の評価益」が批判を浴びた。信用力が落ちると自社の負債が減ったと見なし、損益計算書に利益を計上する会計処理だ。価格の下がった社債を買い戻して簿価との差額を利益計上するという理屈は、会計的には正しいかもしれない。
ただし市場は釈然としていない。

(日本経済新聞2009年6月2日15面 一目均衡)

【CFOならこう読む】

会計的には、伝統的に取得原価主義を志向してきましたが、昨今、取得原価を基本とする貸借対照表は企業価値を反映していないという批判が強まり、会計は時価会計へと大きく舵を切っています。
しかしこれは会計理論的に正しいからではなく、市場の要請に基づくものと理解しなければなりません。

FAS159については当ブログでは、2009年4月23日及び2009年4月25日で取り上げています。そこでも詳しくお話ししたように、時価会計でいくなら、金融資産だけでなく、金融負債も時価評価しなくてはなりません。

「価格の下がった社債を買い戻して簿価との差額を利益計上するという理屈は、会計的には正しいかもしれない。ただし市場は釈然としていない。」という批判は全く的外れで、市場が時価会計を是とするなら、金融負債も時価評価するのが理論的というだけのことなのです。

しかし、会計理論的には時価会計が絶対的に正しいということではありません。市場が、意思決定有用性という観点から時価会計を要請しているから、時価会計を是としているにすぎないのです。

ですが本当に取得原価主義は意思決定有用性を失わせるものなのでしょうか?

この点について、福井義高教授が「会計測定の再評価」(中央経済社)の中で示唆に富む指摘を行っているので、少し長いですが、引用してみましょう。

「取得原価を基本とする貸借対照表は企業価値を反映していないという主張をしばしば耳にする。しかし、会計の役割が意思決定に有用な情報を投資家に知らしめることにあるとすれば、企業をフローの流列の束すなわちゴーイング・コンサーンと考える限り、投資家のストック評価に資するためのインプットの提供がその使命であるはずである。 損益計算書というフローの情報と切り離して、ストックである貸借対照表情報の有用性を議論することは意味がない。
ストックの価値とはフローを資本コストで割引いたものという関係を再度図式化して表せば、

ストック=フロー/資本コスト

であり、フローが同じでも、資本コストが下(上)がれば、ストック価値は上昇(下降)する。実際株式市場においては、比較的安定している分子であるフローではなく、大きく変動する分母の資本コストに合わせて株価は上下する。ポストCAPMの資産評価理論においては、ストックである資産価格(株価)を変動させる要因として、フローであるキャッシュ・フローや純利益よりも、資本コストの方が重要なのだ。

少なくとも従来の会計制度の下では、原則としてストックを再評価することはなく、取得原価にもとづいて計算された純利益が、クリーン・サープラス関係を通じて、資本簿価に毎期加えられる。そのため、資産の再評価分を織り込んだ株価と簿価が乖離する。この乖離が会計情報とりわけストック情報の投資意思決定有用性を失わせているというのが、昨今の会計改革の底流にある問題意識であろう。

しかしPBRが平均回帰するという実証結果は、この乖離は簿価の調整でその差を埋めるべきものと捉えるのではなく、逆に簿価から「離れ過ぎた」株価が取得原価とクリーン・サープラスで測定された「ファンダメンタル・バリュー」たる簿価に回帰することを示す貴重なシグナルだとも解釈できる。これは机上の空論ではなく、高PBRの「割高」株を避け、低PBRの「割安」株に投資するバリュー戦略の背後にある考え方である。PBRが「高過ぎる」場合、「本来の」水準に戻ることが予想されるとすれば、それは将来PBRすなわち株価が(相対的に)下落することを意味する。

結局、貸借対照表は公正価値を反映せねばならないという発想で資産を再評価することは、投資判断に有用たらんという意図に反して情報価値を失わせるのみならず、利益や資本簿価との景気との連動を不必要に大きくして投資家を混乱させ、企業経営に取り返しのつかない損害を与えるだけかもしれない。」

ですから今日の一目均衡が時価会計批判という趣旨であるなら的を射たものと言えるのですが、FAS159批判という趣旨なら、その批判は全く的外れであるというのが私の言いたいことなのです。

【リンク】

会計測定の再評価 会計測定の再評価
福井 義高

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FAS159-負債の時価評価

【CFOならこう読む】

今日は、4月23日のエントリーの続きです。

エントリーの中で、「多くの人が”会社の財政状態悪化”→”利益計上”というベクトルに違和感を感じる」が負債の時価評価を行うことは理論的である、ということを書きました。

この点岩村充氏(早稲田大学大学院教授)が「企業金融の理論と法」(東洋経済新報社)でとてもわかりやすく説明しているので引用してみます。

「こうして負債の時価評価を議論するときに多くの人の頭を悩ませるパラドックスがある。それは、企業の信用度の低下が負債の時価評価を通じて企業財務を改善したり、信用度の向上が企業財務を悪化させたりするという、常識とは反対のように見える現象をどう考えるかという問題である。

しかし、これが実はパラドクスでないことは、本章の説明を理解した読者には明らかなはずである。ここで会社に利益が発生したように見えるのは、企業のリスクの増大が外部債権者から株主への富の移転を生じさせたからであり、その限りでは不思議な現象ではないからである。事態がパラドクスのように見えるのは、私たちが、何の理由もなく企業の信用度が改善するとか悪化するといった状況を想定したからで、その原因まできちんと時価評価すれば、起こっていることは、第1次的には会社の企業価値そのものの変化であり、社債時価の減損は企業価値の低下がもたらした第2次的なものであることに気がつくはずだろう。そうだとすれば、負債としての社債時価の減価が生じたこととしても、その減価の程度は企業価値の低下と等しいか、それを下回るはずだということにも気が付くはずである。社債の市場価格が減損するということは、自社社債のディフォルトの危険が高まっていることを市場が評価した結果であり、社債のディフォルトとは株式会社の有限責任性を利用した債務の「踏み倒し」にほかならないのだから、そうした「踏み倒し」によって株主が社債権者に転嫁したリスク分だけ負債の評価益が発生するのは当然で、パラドクスでも何でもないのである。事態がパラドクスのように見えるのは、会社の負債の市場価格が信用度の低下により大きく減価するような事態が発生している以上、会社の資産内容に対する市場の信認が大きく損なわれているはずなのに、その点を無視して負債の時価減少の効果だけを議論したからなのである。」

【リンク】

企業金融の理論と法 企業金融の理論と法
岩村 充

東洋経済新報社 2001-11
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FAS159

好転が伝えられる米大手銀行の1−3月期決算を巡り、特殊な会計処理の結果が生じる「負債評価益」という項目が、各社の利益水準を大幅にかさ上げしているとの指摘が金融専門家の間で出ている。シティグループなど大手3社が計上した同評価益は計53億ドル(約5200億円)と3社の純利益の67%に達する。合法だが本業の収益力を反映しないため「財務の実態が見えにくくなる」との批判がある。
(日本経済新聞2009年4月23日7面)

【CFOならこう読む】

負債評価益とは、社債など企業の負債の市場価値(時価)が下落した場合に、企業から債権者への支払い義務も同時に減少したとみなしてその分を利益に計上するもの。
米会計基準「FAS159」がこうした処理を認めているが、米銀がこれだけ多額の負債評価益を計上したのは今回の決算が初めてという。
(前掲紙)

一般論として言うなら、財政状態が悪化し信用リスクが低下している状況下で負債を時価評価し評価益を計上するのは、むしろ理論的であると言えます。企業会計は期間損益を株主資本として認識しますが、例えば債務超過の状態にある場合、繰越損失の一部は債権者に負担させる(負債を評価減する→利益を計上する)必要があるのです。

株主の有限責任を鑑みると、債務超過というような純資産がマイナスの状況はあり得ないということですが、記事にあるように、多くの人が”会社の財政状態悪化”→”利益計上”というベクトルに違和感を感じることから、負債の時価評価は制度化されていません。

しかし、FAS159 は、負債の時価評価を会社が選択することを認めたことから、シティグループ等の大手銀行が今回大きな評価益を計上することになったのです。

「FASB159”金融資産及び金融債務に関する公正価値オプション”は、2007年2月に発行されています。

FAS159は、企業が、選択した特定の日に、多くの金融資産及び金融債務(ならびに金融商品に似ている非金融商品)を公正価値で測定することを自発的に選択することを認めています(「公正価値オプション」)。この選択は各金融商品ごとに行われ、後で取消、変更することは認められません。この選択は各金融商品ごとに行われ、後で取消、変更することは認められません。

公正価値オプションが選択された場合、FAS159 はその金融商品に関する公正価値評価のその後の変更はすべて利益に計上しなければならないと記しています。」
http://www.shinnihon.or.jp/static/upload_file/knowledge/global/newsletter/jbsu_0702.pdf

一般論としてはこういうことなのですが、シティグループのように国がつぶさないと決めている会社において、一時的な自社の信用リスクの低下をPLに取り込むことには問題があると思います。

そこまでやるなら株主資本も時価評価しないと理論的に整合しないでしょう。

【リンク】

なし

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