金融庁の企業会計審議会は23日、国際会計基準(IFRS)の導入について議論し、任意適用の要件を緩めることでおおむね一致した。
(日本経済新聞2013年4月24日5ページ)
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「上場していることや海外に資本金20億円以上の子会社を持つなどの要件を緩めて、IFRSを採用する企業を増やしていく方針だ。」(前掲紙)
IFRSを任意適用できる企業は連結財務諸表規則第1条の2に「特定会社」として定義されています。
その具体的な要件は以下の通りです。
(1)次の要件のすべてを満たすこと
①発行する株式が、金融商品取引所に上場されていること
②有価証券報告書において、連結財務諸表の適正性を確保するための特段の取組み に係る記載を行っていること
③指定国際会計基準に関する十分な知識を有する役員又は使用人を置いており、指定国際会計基 準に基づいて連結財務諸表を適正に作成するこ とができる体制を整備していること
(2)次の要件のいずれかを満たすこと
会社、その親会社、その他の関係会社又はその他 の関係会社の親会社が、
①外国の法令に基づき、法令の定める期間ごとに国際会計基準に従って作成した企業内容等に関する開示書類を開示していること ②外国金融商品市場の規則に基づき、規則の定める 期間ごとに国際会計基準に従って作成した企業内容等に関する開示書類を開示していること
③外国に資本金20億円以上の子会社を有していること
このうち(1)①や(2)③について要件が緩和されるとのことです。
これによりIPO時の財務諸表もIFRSに基づき作成することが可能になるかもしれません。
【リンク】
なし
SECは米国企業へのIFRSの適用についての判断を先送りした。IFRSを使う欧州と米国の間では世界の会計基準づくりを巡る主導権争いがあり、米国内の慎重論に配慮したとみられる。
(日本経済新聞2012年7月18日9面)
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「SECが前週末、IFRSを巡る最終報告書を公表した。欧米の間で進めてきたIFRSと現行の米基準の共通化作業は評価しながらも、米国がIFRSを適用するかどうかの勧告は見送った。報告書は「米投資家は早期適用を認めるべきではないとの見解で一致している」と米国内の慎重論にふれ、仮に導入する場合でも国際基準のルール作りには米国が直接関与すべきだと指摘した」(前掲紙)
最終判断は2013年以降にずれ込む見通しです。
日本は、米国の判断を待って方向性を決めることになっているので、当面大きな動きはないものと思われます。
【リンク】
「Work Plan for the Consideration of Incorporating International Financial Reporting Standards into the Financial Reporting System for U.S. Issuers Final Staff Report」UNITED STATES SECURITIES AND EXCHANGE COMMISSION [PDF]

日本たばこ産業(JT)が26日発表した2012年3月期連結決算(国際会計基準)は、純利益が前期比32%増の3208億円だった。
(日本経済新聞2012年4月27日14面)
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「2014年3月期までに連結配当性向を40%(前期は30%)、中長期的には50%に引き上げる。為替変動の影響などを除いたEBITDAでは年平均5%以上の成長を目指す」(前掲紙)
JTは2012年3月期からIFRSの任意適用を開始しました。これに伴い、IFRSベースの「調整後EBITDA」を業績評価指標として採用しています。
「・JTグループの持続的な業績を示すため、「調整後EBITDA」を指標の一つとして採用
・「日本基準による営業利益」 ±各種認識及び測定の差異の調整 ±金融損益以外の非経常的な損益(日本基準における営業外損益や特別損益) =「IFRSによる営業利益」
・「調整後EBITDA」=「IFRSによる営業利益」+減価償却費+無形資産の償却費+ のれんの減損-リストラクチャリングに係る収益+リストラクチャリングに係る費用」
(「(参考資料)国際会計基準(IFRS)の2012年3月期からの任意適用について」日本たばこ産業株式会社[PDF] 13頁)
IFRSの営業利益には、日本基準における非経常的な損益も含まれるので、調整後EBITDAにもこういった項目が含まれることになります。
EBITDAマルチプルで企業価値の評価を行う場合には、非経常的な損益項目はEBITDAに含めないことが多く、日本基準の方をベースとする方が適切だと言えなくもありません(JTの「調整後EBITDA」の計算上、非経常的かつ金額的な重要性が通常大きいリストラクチャリング損益のみ調整が行われています)。
JTは、2012年3月期の決算説明資料の中で、「日本基準上のEBITDA」と「IFRS移行後の調整後EBITDA」の調整内容を開示しています。
国内たばこ事業 |
(億円) |
海外たばこ事業 |
(億円) |
日本基準上のEBITDA |
2,725 |
日本基準上のEBITDA |
3,126 |
営業外損益・特別損益からの表示組替 |
-296 |
営業外損益・特別損益からの表示組替 |
-50 |
認識及び測定の差異 |
59 |
IFRS上のEBITDA(営業利益+償却費) |
3,076 |
IFRS上のEBITDA(営業利益+償却費) |
2,488 |
リストラクチャリングに係る収益・費用等の調整 |
72 |
リストラクチャリングに係る収益・費用等の調整 |
134 |
IFRS移行後の調整後EBITDA |
3,148 |
IFRS移行後の調整後EBITDA |
2,623 |
|
(「(参考資料)国際会計基準(IFRS)の2012年3月期からの任意適用について」日本たばこ産業株式会社[PDF] 14頁)
これを見ても、非経常損益の内容を吟味する必要性を感じます。
【リンク】
「2012年3月期実績及び2013年3月期業績予想」日本たばこ産業株式会社[PDF]
「(参考資料)国際会計基準(IFRS)の2012年3月期からの任意適用について」日本たばこ産業株式会社[PDF]
ギリシャ国債の損失拡大懸念も高まる。仏銀など欧州銀が2011年1~6月期決算で計上したギリシャ国債の減損損失の会計処理を、IFRSを作るIASBが問題視しているためだ。現在、欧州銀が採用する金融商品の会計処理では、国債はトレード目的の「売買目的」と「満期保有目的」に分類される。IASBが問題視するのは売買目的の会計処理だ。
(日本経済新聞2011年9月15日9面)
【CFOならこう読む】
「1~6月期決算では独コメルツや英ロイヤル・バンク・オブ・スコットランドは売買目的のギリシャ国債を市場価格を参考に、それぞれ51%、50%減損した。一方、パリバやソシエテ、アグリコルなどは21%の減損にとどめた。市場での取引量が極端に落ち込んでいるため、市場価格は正当な価値ではないと判断。ギリシャの第2次金融支援に伴う民間負担で、国際金融協会(IIF)が試算に用いた数字を使った。
IASBは市場機能が低下しても、市場取引がある限り無視してはならないと主張。関係者によるとIASBは「会計基準の解釈の問題ではなく明らかな逸脱」と捉えており、欧州規制当局はIASBの通知を受けて対応を検討している」(前掲紙)
IAS39(IFRS13「公正価値測定」が公表されており、2013年1月1日に発効されます)は、公正価値の測定基準として、「活発な市場」が存在する場合は「公表された相場価格」が最も強力な証拠となる、存在しない場合は、取引事例、類似する金融商品価格、割引キャッシュフロー分析、オプション価格算定モデル等の「評価技法」を用いて算定する、としています。
「活発な市場」がある場合とは、相場価格が容易に入手可能で、それが独立第三者間条件にもとづき実際に、かつ、定期的に行われている取引」 が存在する場合と定義されています。
仏銀は、「活発な市場」が存在しないから「評価技法」すわなち国際金融協会の試算を公正価値としたのですが、IASBは、取引量が落ち込んでいるとしても、「活発な市場」は存在するから、これを無視することは許されないと言っているのです。
いずれにしても、民間企業の会計処理の是非についてIASBが直接モノを言うのは異常であると感じます。
そんな権限がIASBにあるのでしょうか?
あるのだとしたら監査人との関係はどのように整理されるのでしょうか?
何だかとんでもなく空恐ろしいものを私たちは導入しようとしているのかも知れません。
【リンク】
なし
金融庁は30日に企業会計審議会を開き、IFRS導入についての見直し議論を始めた。すべての上場企業を対象とする方向だったが、産業界からは適用範囲を「(国際的に事業展開する)グローバル企業に限定すべきだ」との意見が出された。部分適用が認められれば企業の負担は軽減されるが、異なる会計基準の併存で投資家らの混乱を招く恐れもある。これまで「3年以上」としていた準備期間については「5~7年」を軸に延長する方向で大筋一致した。
(日本経済新聞2011年7月1日5面)
【CFOならこう読む】
「部分適用なら多くの企業では導入負担が軽減されるが、国内では日本の会計基準とIFRS、米国基準の3基準が併存することになる。海外の投資家にとって日本企業の財務内容を比較することが難しくなる。関係者の間では、欧州の一部のようにIFRSを適用している企業に対象を絞った市場の創設を検討すべきだとの意見も出ている」
(前掲紙)
欧州の一部とは、例えばドイツとフランスです。

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ドイツ・フランスのように規制市場に限り、IFRSを強制適用するというのも一つの方向性であるとは思います。
しかし、その前にIFRSの資産負債アプローチや利益観が、必ずしも金融立国を志向していない日本の国益に資するか、国内で議論を尽くし、その上で日本国としての会計戦略を明確にする必要があります。そして利害を同じくする諸外国と共闘することで、IFRSを日本に有利なように導いていく努力をすることが何より重要だと私は思います。
【リンク】
「平成22年7月8日 企業会計審議会総会議事次第 配布資料 1-3 ドイツとフランスにおける取引所について」金融庁 [PDF]
米国でIFRSの導入機運が後退している。シャビロSEC委員長は21日にワシントン市内で講演し、「IFRS適用を求める米企業や投資家の声はそれほど多くはない」と語り、適用の是非を慎重に判断していく方針を示した。5月下旬にSECの実務者レベルが示した事実上の先送り案を追認した形だ。
(日本経済新聞夕刊2011年6月22日3面)
【CFOならこう読む】
「米国は、米基準と国際基準との違いを埋める「共通化作業」を経て、国際基準の適用を最終的に決めるスケジュールを描いてきた。だが、最近は「共通化」作業も遅れている」(前掲紙)
日本でもよく知られている、IASBのトウィーディー議長が6月に任期を終えます。先行きは不透明ですが、コンバージェンスの努力は今まで通りしっかりと続けてもらいたいと思います。
【リンク】
なし
金融庁はIFRSの日本企業への導入を延期する方向で検討する。2015年~16年にも上場企業の決算にIFRSを強制適用する方向で調整してきたが、東日本大震災で打撃を受けた製造業を中心に延期論が強まっていることに対応する。
(日本経済新聞夕刊2011年6月20日1面)
【CFOならこう読む】
「米証券取引委員会は5月下旬、米国企業にIFRSをどのように取り込むかを示す作業計画を公表。これまで最短で2015年前後と目されていた導入時期を明示せず、判断を先送りする姿勢が鮮明になった。一方で5~7年をかけて米国会計基準とIFRSとの差を解消していくとの考え方を示した」
(日本経済新聞2011年6月20日3面)
地震の影響で延期するって???
米国に右へならえする、と言えば良いのに。
【リンク】
なし
HOYAは2011年3月期の有価証券報告書をIFRSで開示する方針だ。海外投資家の持株比率が高い同社は、社内で会計処理などの体制整備を進めていた。金融庁は日本の上場企業にIFRSを義務付けるかどうかを決めていないが、任意適用は認めている。
(日本経済新聞2011年1月26日15面)
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「同社はこのほど、2010年3月期の連結財務諸表をIFRSで作成し、ウェブサイトに掲載した。前期の純利益は日本基準で378億円だが、IFRSを適用した場合の包括利益は海外子会社の資産換算の影響で約475億円になった」(前掲紙)

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差異の内訳のうち、相対的に影響が大きい減価償却費と法人所得税の調整の内容を以下に転載します。
「K. 減価償却費及び償却費、その他の費用
・表示科目:日本基準において区分掲記しておりました固定資産売却損、固定資産除却損、環境対策費、独禁法関連損失、その他の営業外費用、為替差損、外国源泉税、その他の特別損失をその他の費用として表示しております。また、日本基準における売上原価の一部47,678百万円、販売費及び一般管理費の一部31,500百万円をその他の費用として表示しております。
・認識・測定:リース料415百万円(リース取引開始日が2008年3月31日以前)を減価償却費及び償却費等として表示しております。日本基準におけるのれんの償却費を戻したことに伴い、その他の費用が477百万円減少しております。また、固定資産の帳簿価額の調整を行ったことに伴い、その他の費用(固定資産除却損等)が872百万円減少しております。また、海外子会社の一部の売却・清算に伴う累積換算差額の調整及びのれん・在外支店の財務諸表項目の換算により発生した累積換算差額の調整により、その他の費用が1,200百万円減少しております。さらに、日本基準においては、カスタマー・ロイヤルティ・プログラムにより、翌期以降にそのポイントを充当することによる物品の販売による原価を販売費及び一般管理費として計上しておりますが、IFRSにおいては、当該カスタマー・ロイヤルティ・プログラムについて、個別に認識可能な収益の構成要素として認識するため、その他の費用が420百万円増加しております。なお、日本基準においては2011年3月期に認識するその他の無形資産の除却損1,997百万円を、IFRSでは修正後発事象として2010年3月期のその他の費用に計上しております。
M. 法人所得税
・表示科目:日本基準において販売費及び一般管理費に含めておりました事業税の一部251百万円を、法人所得税として表示しております。
・認識・測定:未実現利益消去に伴う税効果調整額について、日本基準において用いられる税率で計算された金額とIFRSにおいて用いられる税率で計算された金額が異なることにより、法人所得税が164百万円減少し、また、繰延税金資産の回収可能性の見直し額の増減により1,037百万円法人所得税が減少しております。さらに、日本基準においては2011年3月期に法人所得税の減額として認識する599百万円を、IFRSにおいては修正後発事象として2010年3月期に計上しております。」
【リンク】
「国際財務報告基準(IFRS)に基づく 連結財務諸表及び独立監査人の監査報告書」HOYA株式会社 [PDF]
住友商事は為替変動による純資産の目減りを抑えるため、外貨投資の際のルールを策定した。出資案件ごとに一定の金額をスワップなどでヘッジすることを義務付けるうえ、通貨ごとの未ヘッジ分に上限を定める。新ルールは2011年にも運用を始める。
(日本経済新聞2010年12月21日15面)
【CFOならこう読む】
「円高が進むと海外子会社への出資を円換算した金額も減少する。これは会計上「為替換算調整勘定」と呼ばれ、マイナス分が自己資本から差し引かれる。住友商事の新ルールでは、原則、外貨で投資した資本金のうち一定の金額については、先物やスワップ取引などで固定化し、為替変動の影響を軽減する」(前掲紙)
IAS39号は、適格純投資ヘッジについて規定しています。例えば在外営業活動体に対し、40£の出資を行ったとすると、この出資から生じる為替リスクは、連結財務諸表上、為替換算差額としてその他の包括利益に計上されます。これをヘッジするために60ポンド(直物為替レート100円/£)の借入を行ったとすると借入時に
(借方) 現金 6,000円 (貸方)借入金 6,000円
の仕訳が行われます。
「IAS39号で。在外営業活動体に対する純投資のヘッジは、キャッシュ・フロー・ヘッジと同様に会計処理しなければならないとし、具体的には、
(a) ヘッジ手段に係る利得又は損失のうち、有効なヘッジ(IAS39.88参照)と判定される部分は、その他の包括利益に認識しなければならない。
(b) 非有効部分は、純損益に認識しなければならない。と定められている(IAS39.102)。」
(IFRS及びIASの解説 第28回 IAS21「外国為替レートの変動の影響」、IFRIC16「在外営業活動体に対する純投資のヘッジ」 中井雄一郎 会計・監査ジャーナル2011年1月号)
したがってIAS39.88のヘッジ要件が満たされている場合、期末日の直物為替レートが105円/£の場合、
(借方) 為替差損 100円 (貸方) 借入金 300円
その他の包括利益 200円
という会計処理が行われます。
この会計処理により計上されるその他の包括利益と、純投資から生じる為替換算差額との間で、ヘッジ会計が成立することになります。
【リンク】
なし
IFRSを作るIASBは、新たなヘッジ会計の公開草案を発表した。ルールが細かすぎて経済実態を反映できないという批判に対応し、金融資産と非金融資産の区別をなくすなど簡素化した。
(日本経済新聞2010年12月11日15面)
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「現行基準では、例えば航空会社がジェット燃料の価格変動をヘッジした場合、ジェット燃料のデリバティブの代わりに原油デリバティブを使ってもヘッジ会計の対象にならず、航空会社の損益が乱高下する原因になっていた。新基準案では、こうした場合にジェット燃料がヘッジ会計の対象になりやすくなり、航空会社の損益の平準化につながるとみられる」(前掲紙)
9日に公表されたヘッジ会計のExposure DraftのSnapshotによると上記以外に以下の変更があるようです。
・従来ネットポジションはヘッジ対象として指定することが認められていなかったが、これが可能となる
・従来オプションの時間的価値部分はヘッジ手段として指定することができなかったが、これが可能となる
・従来ヘッジの有効性の評価及び測定が厳格に行われることが要求されていたが、これが緩やかになる。また、ヘッジ関係を変更してもヘッジの中止とはされない場合を新たに規定した
【リンク】
「December 2010 Exposure Draft December 2010Exposure DraftSnapshot: Hedge Accounting」IFRS [PDF]
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