持ち株会社の執行役員は三越出身3に対して、伊勢丹は10と伊勢丹主導の組織運営が定着した。11年には傘下の2事業会社が統合して「三越伊勢丹」が発足。同社の従業員約1万2000人のうち統合後に採用した人員が1割を超えるなど組織の融合は進んでいる。
(日本経済新聞2014年3月5日11ページ )
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「だが出身母体によって社員の間に心理的な溝は残る。待遇面の差は段階的に縮小されてはきたが、まだ伊勢丹出身者に支給される賞与は「三越出身者に比べて約2カ月多い」(三越伊勢丹幹部)。
新宿本店の稼ぎが群を抜いており全体でも「伊勢丹」の看板の店舗の方が利益貢献が大きいのは事実だ。だがある幹部からは「伊勢丹も不振続きの店はあるし、三越にも稼げる店はある」との声も漏れる。勤務する店舗の収益だけでなく出身母体によって待遇に差があることへの不満だ。」(前掲紙)
経営統合したのが2008年4月。まもなく6年も経過しようというのに、いまだ出身母体による待遇格差が残っているというのはどういうことでしょう。
一つの原因としては、経営統合を共同持株会社の下に伊勢丹と三越をぶら下げる形でスタートしたということが挙げられるかもしれません。この形は緩やかに経営統合を進めることができるというメリットがありますが、裏を返せばなかなか融合が進まないということになりがちです。
日本の組織再編ではよく見られる手法ですが、スピードが要求される現代の経営環境においては、このスキームを選択することのリスクは思いのほか大きいように思います。
そう言えば、今日の新聞に、JVCケンウッドが全従業員の約1割の希望退職者を募るといった内容の記事が載っていますが、2008年に行われたビクターとケンウッドの経営統合もこのスキームでした。
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なし
創立してわずか5年目のネットベンチャーに、十分ソニーを買収できるほどの値打ちが付いた。フェイスブックが総額190億ドルで買収を決めた対話アプリのワッツアップだ。当のフェイスブックを含めて、シリコンバレーにはベンチャー企業のシンデレラ物語には事欠かないが、この速さと規模には度肝を抜かれる。
(日経ヴェリタス2014年3月2日61ページ モヤモヤ経済学西岡幸一専修大学教授 )
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「ワッツアップの従業員も莫大な恩恵を受ける。55人の従業員と経営陣に対してフェイスブックの株式で30億ドルが支払われる。単純平均で1人5千万ドルをくだらない。」(前掲紙)
190億ドルの内訳は、普通株式120億ドル、制限付き株式30億ドル、現金40億ドルということです。
米国では、現金を一定程度混ぜても税制適格となる場合があります。
日本のように、現金を少しでも混ぜれば非適格となるのに比べると、スキームの柔軟性が高いですね。
西岡教授は、本件をバブルの兆しとして取り上げていますが、私は、それより、本件の出口がM&Aであることを単純にうらやましく思います。
出口がIPOではなくM&Aであるシンデレラストーリーが日本でも生まれて欲しい、と強く感じます。
それが次の日本を代表するベンチャー企業を生み出すことにつながると、私は思うのです。
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なし
主要上場企業の6割が2014年度の業績が伸びると見込んでいる。日本経済新聞社が主要企業の最高財務責任者(CFO)を対象に実施した調査で明らかになった。4月の消費増税の影響は一時的で、秋以降には影響がなくなるとの回答が多かった。また、9割の企業がM&A(合併・買収)に関心があり、5割近くが対象地域に東南アジアを選んだ。
(日本経済新聞2014年2月21日1ページ )
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「手元に潤沢に積み上がった資金の使い道では、成長のためにM&Aを検討するとの回答が9割を超えた。このうちM&Aの対象地域では、59%の国内、50%の米国と並んで、東南アジアが46%と高かった。消費市場として成長するアジアで積極的な事業展開を狙う企業が多いことがわかった。」(前掲紙)
意外なところでは、「経営の目標として自己資本利益率(ROE)の数値を設定している企業は47%」。
経営トップが、「ROEは眼中にない」と言い放つ時代から、大きく変わろうとしています。
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ソニーは6日、テレビ事業の分社やパソコン事業の売却などを柱とするエレクトロニクス事業の再建策を発表した。リストラに伴い国内外で約5000人の人員を削減。スマートフォン(スマホ)やゲームなどに経営資源を集中し、事業再生を急ぐ。
(日本経済新聞2014年2月7日1ページ )
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「「VAIO(バイオ)」ブランドで展開してきたパソコン事業は、投資ファンドの日本産業パートナーズ(JIP、東京・千代田)と3月末までに正式契約を結び、新会社に移管する。移管とともにパソコンの企画や開発は終了、春商戦のモデルを最後に販売からも撤退する。」(前掲紙)
昨日ソニーと日本産業パートナーズは意向表明書を締結したとのことです。その内容は次の通り。
- 新会社は、独立した事業会社としてVAIOブランドを付するPC事業の企画、設計、開発から製造、販売などに至る事業全体を運営する。
- 設立当初は、商品構成を見直した上で日本を中心にコンスーマーおよび法人向けPCを適切な販路を通じて販売することに注力する等、適切な事業規模による運営で早期の収益安定化を目指す。
- 新会社は、現在ソニーのPC事業の拠点である長野テクノロジーサイト(長野県安曇野市)をオペレーションの拠点として、ソニーと国内関連会社でPCの企画、設計、開発、製造、販売などに従事している社員を中心に250~300名程度で操業を開始する。
- 新会社はJIPの出資および経営支援のもと設立・運営されるが、立ち上げと円滑な事業移行をサポートするため、設立当初はソニーから5%の出資を行う。
- 本件取引の対価については、正式契約にて確定される譲渡資産に応じて今後協議する。
【リンク】
2014年02月06日「PC事業の譲渡に関する意向確認書の締結について」ソニー株式会社
サントリーHDが米蒸留酒最大手ビーム社を総額160億ドル(約1兆6500億円)で買収することを発表した。サントリーは蒸留酒メーカーとして世界10位から3位に浮上する。世界的にもビッグなM&A案件で、海外ブログでも買収の成否を巡って記事が相次ぐ。
(日経ヴェリタス2014年1月19日57ページ )
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「「バーボンバブルか?」と題し、買収価格の妥当性を疑問視したのはCNNの金融サイト。日本企業による米国企業の買収では、ソフトバンクによる米携帯大手スプリントの買収(373億ドル、2012年)に次ぐ2番目の規模。「おそらく、蒸留酒事業の成長性が実態以上に高く評価されている」」(前掲紙)
ロイターのブログは、EBITDA倍率20倍の買収価額は、英ディアジオや仏ペルノ・リカールがかつて実施した買収と比べ割高と指摘。他方金融ニュースサイト「24/7 Wall St.」は、酒類は長期的に安定した事業分野であり、買収価格は妥当であるとしています。
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サントリーホールディングス(HD)は13日、米蒸留酒最大手ビーム社を総額160億ドル(約1兆6500億円)で買収することで同社と合意したと発表した。買収でサントリーHDは世界の蒸留酒メーカーで10位から3位に浮上。かねて懸案だった蒸留酒事業の巨額買収で、世界の酒類市場でグローバルプレーヤーとしての地位を固める。
(日本経済新聞2014年1月14日13ページ )
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「両社はビーム社の全発行済み株式を、過去3カ月の平均株価を24%上回る1株あたり83・5ドルで買収することで13日未明に合意。サントリーHDが米国に全額出資で設立済みの特別目的会社がビーム社と6月までに合併、買収を完了する。」(前掲紙)
最近の日本企業による海外企業の買収では、ソフトバンクの米携帯電話会社スプリントの総額216億ドルに次ぐ規模になります。
1株あたりの買収金額は、ビーム社の1月10日の終値66.97ドルを25%上回っており、過去3カ月の加重平均株価を24%上回っているとのことで、プレミアム水準から見ると割高感はありませんが、「EBITDA倍率では20倍以上の水準」(ロイター2014年1月14日)ということです。
【リンク】
2014年1月13日「サントリーホールディングス(株)によるビーム社買収について」サントリーホールディングス株式会社
円安で輸出企業の利益は増えているが、賃金の増加につながっていない。円安で物価が上昇しているため、国民生活はむしろ苦しくなっている。政府は企業に賃上げを求めているが、これは自由主義経済の原則にもとる。賃上げは現行の政策では難しく、賃上げ要請は政策の手詰まりを意味する。
(日経ヴェリタス2013年11月10日51ページ 異見達見野口悠起雄早稲田大学総合研究所顧問)
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「企業利益の増加がいずれは賃金上昇に波及するという漠然とした期待があったのだが、いつになっても実現しない。9月の実質賃金は、前年比で1.2%の下落となった。この問題への対処は、緊急の課題だ。」(前掲紙)
賃上げを企業に求めるのは筋違い。それは確かにその通りです。しかし、無意味に内部留保を積み上げている企業が多いこともまた事実です。
「アベノミクスが投資家の期待を高めている間に、企業は内部留保を再考すべきである。選択肢の一つは、積極的な事業展開により、経営を量と質の両面で改革することである。このための厚い内部留保であれば大いに歓迎する。もう一つの選択肢は、量を追わず経営の質を高めることである。これには潤沢な現金保有は不要だから、ドイツ並みの高配当を目指し、その結果として投資家を喜ばせればいい。」(日本経済新聞2013年11月12日21ページ大機小機)
あるべき論はそうですが、そうするインセンティブが企業にはありません。
無意味に内部留保を積み上げている企業は買収リスクが上昇する、だからこれを有効利用することで株価が下がらないように(上昇するように)企業は努力する、こういったガバナンスの要の部分が日本では全く機能していません。
この状況を打破するには、敵対的買収(誰にとって敵対的?)を可能にするような法制度その他インフラを整備することが必要です。
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ため込んだカネを投資に生かす、いわば企業版「貯蓄から投資へ」の転換こそが、ROEを高める第一歩となる。
投資先がないわけではない。企業買収の機会は国内外で増え続けている。政府の成長戦略が設備投資の呼び水になる可能性もある。
(日本経済新聞2013年11月6日17ページ)
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「ちなみに果敢な買収戦略を繰り広げるソフトバンクのROEは23%だ。
「体が小さければ高い靴を履き、手が届かなければはしごを使えばいい」
とは、買収の効用を説く孫正義社長の言である。」(前掲紙)
自社に不足しているものは買収で補えばよい、ということを言っているのだと思います。
ただし、高い靴を履いたと思ってもかかとがとれてしまったり、はしごをかけたと思ってもそのはしごごと倒れてしまったりすることもあるわけで、当然のことながら目利きが重要です。
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電機・電子部品メーカーが自動車を新たな成長市場とみて経営資源を投入している。日本電産が30日、ホンダの自動車向け電子制御部品子会社の買収で合意したほか、パナソニックも自動車部品を住宅関連などと並ぶ柱と位置づける。自動車産業の裾野が広い日本は開発環境で優位にある。
(日本経済新聞2013年11月1日15ページ)
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「日本電産の永守重信社長はエレシス買収などをてこに、独ボッシュやデンソーのように「世界展開する総合自動車部品メーカーに成長する」との目標を掲げる。」(前掲紙)
日本電産の2013年3月期の営業利益は79億9800万円と前期比80.4%の大減益でした。
PCからスマホ、タブレットへの需要の急激なシフトにより、日本電産の最大の柱である精密モーターを組み込むパソコンのHDD市場が大きく縮小したのです。
日本電産は事業ポートフォリオの見直しを行い、精密モーター1本柱の構造から、「車載用モーター」「家電・商業・産業用モーター」「関連機器などその他製品」を加えた4本柱とすることを決めています。
2013年3月期における車載用モーターの売上は867億円でしたが、これを3年後の2016年3月期には3000億円まで引き上げる計画です。ホンダエレしスの買収もこの計画に沿ったものと思われます。
(参考資料 田村賢司「日本電産永守重信 世界一への方程式」日経BP社)
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ホンダは30日、自動車向け電子制御部品子会社、ホンダエレシス(横浜市)の全保有株式を日本電産に売却すると発表した。販売が低迷していた太陽電池事業からの撤退も決めた。今後はエコカー開発や新興国を中心とした世界市場の攻略に経営資源を集中する。2016年度の世界販売600万台達成に向けて、部品コストの削減など事業構造の改革を急ぐ。
(日本経済新聞2013年10月31日11ページ)
【CFOならこう読む】
「ホンダエレシスは集積回路と専用ソフトでエンジンやブレーキなどの駆動部品を効率よく動かす技術を持つ。センサーと組み合わせて衝突を回避するなど次世代の「自動運転」にも欠かせない。高い技術力を生かし、日本電産はエコカーの中核部品である「駆動用モーターへの参入も狙う」(永守社長)」
本件と直接関係ありませんが、永守社長が日本電産創業13年後の昭和61年に「技術ベンチャー社長が書いた 体あたり財務戦略」という本を書いているのを知り、早速入手して読んでみました。
ベンチャー企業の企業財務の要諦が書かれていて、しかも本質に言及しているので今読んでも古さを感じません。
例えば、1株当たり利益を基準に経営すべし、と書かれています。
この時代は経常利益を重視すべしという人が大勢で、当期純利益しかもEPSを重視すべしという経営者はほとんどいなかったはず。
「私の経営の仕方というものは、「1株当たり利益」を基準にすべてを判断していく。つまり、この行為は「1株当たり利益」を上げるのか、それとも下げるのかーということを念頭に置き、行動に移すやリ方である。「1株当たり利益」を下げるようなことはできる限りしないことである。」(「技術ベンチャー社長が書いた 体あたり財務戦略」60ページ)
ほかにも役に立つことが書かれているので、機会をみつけて紹介しますね。
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