信託の仕組みを使った新しい従業員持株制度を導入する上場企業が相次いでいる。株価や業績に対する従業員の意識向上のほか、企業が保有する自社株の活用策としても注目を集めている。金融庁が法令を改正するなど制度整備が進んだことも追い風だ。9月以降、東京急行電鉄など7社が導入しており、さらに30~40社が検討中という。利用が広がれば株価の下支え効果も期待できそうだ。
(日本経済新聞夕刊2009年10月5日1面)
【CFOならこう読む】
信託を使った会計処理については、現在のところ明確に定められていません。特に信託口を連結対象とするかどうかの判断は次のように分かれています。

現在の日本の会計の取扱いは、次の通りです。
「30. 信託は、財産管理の制度としての特徴も有しており、通常、会社に準ずる事業体に該当するとはいえないとされている(実務対応報告第23号Q2のA3)。
また、その受益者は、原則として、信託財産を直接保有する場合と同様の会計処理を行うため、信託財産のうち持分割合に相当する部分を受益者の貸借対照表における資産及び負債として計上し、損益計算書についても同様に持分割合に応じて処理する方法(いわゆる総額法)によるものとされている(実務対応報告第23号Q3のA3(1))。
ただし、受益者が複数である金銭の信託については、受益権を有価証券又は有価証券に準じて会計処理するが、当該信託の中には、連結財務諸表上、財産管理のための仕組みとみるより、むしろ子会社及び関連会社とみる方が適切な会計処理ができる場合があることなどから、この場合には、当該受益者の連結財務諸表上、子会社及び関連会社に該当することがあり得ると考えられている(実務対応報告第23号Q2のA3)。
また、受益者が複数である金銭以外の信託の受益者が当該信託財産を直接保有するものとみなして会計処理を行うことは困難な場合にも、同様と考えられている(実務対応報告第23号Q3のA32))。
このように、信託は、実務対応報告第23号により子会社及び関連会社に該当する場合を除き、連結財務諸表上、「会社に準ずる事業体」としては取り扱われないこととなると解されている(実務対応報告第23号脚注5)。
(連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関す る論点の整理 2009年2月6日)
日本版ESOPの会計基準については現在企業会計基準委員会(ASBJ)で検討が行われているとのことですが、実務への影響は非常に大きいので、早期の公表が望まれます。
【リンク】
なし
吉永 会計 ESOP, 会計, 従業員報酬
三菱UFJ信託銀行など大手信託銀行が信託の仕組みを使った新しいタイプの従業員持株会導入の支援をはじめる。支援するのは米国で普及している従業員持株制度(ESOP)の日本版で、信託を使うことで持株会は従来より株式を安定的に取得しやすくなる。金融庁による制度整備の後押しもあり、大手信託が本格参入することで企業の導入が加速しそうだ。
(日本経済新聞2009年8月6日4面)
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制度の仕組みは次の通りです。
「企業はまず、持株会と切り離して信託を設定する。
たとえば、5年の信託で銀行から10億円借り入れるとする。信託は10億円で、持株会が5年間で取得する予定の株数を一括で取得する。株価が1000円だとすると100万株を信託が保有することになる。
持株会は毎月の拠出金に応じて、その時点の時価で換算した株数を信託から取得する。1000万円の拠出金があるとすると、株価が1000円のままなら1万株、2000円に上がっていれば5000株、500円に下がっていれば2万株を信託から取得する。
株価が値上がりすれば、5年後の信託終了時に利益を株式として従業員に分配する。値下がりすると設定時の借入が一部返済されずに残り、企業が負担することになる。」
(前掲紙)
米国のESOPは、従業員をオーナー化させるインセンティブプランである、というところに本質があり、これを政府が税制上の優遇措置により後押ししているのですが、日本版ESOPからはこのようなビジョンが感じられません。
結局のところ、株価対策と買収防衛策の意味しかないように思います。
会計的には、設定された信託は連結対象になるのでしょうから、信託設定後に一括取得される株式は、連結財務諸表上自己株式として開示されるものと思われます。
【リンク】
なし
吉永 会計 ESOP
広がるか日本版ESOP(従業員持ち株制度)
上場企業の間で、米国発の新たな従業員持株会制度(日本版ESOP)を採用する動きが出始めている。企業が保有する自社株を従業員に渡し、労働意欲の向上に役立てる仕組みだ。経営者の関心も高く、経済産業省は2008年11月に指針を公表した。ただ。制度で使う信託などの受け皿を独立した株主と見なせるのかなど、法律や会計面での課題も浮き彫りになった。日本で新たな制度は根付くのか検証した。
(日本経済新聞2008年1月5日 25面 法務インサイド)
【CFOならこう読む】
あけましておめでとうございます。
本年もご愛読のほど宜しくお願いします。
ESOPは株価が低迷している最近の状況から、日本でも導入に向けて、今年制度の整備が一気に進む可能性があります。
ESOPについて、経済同友会の「株価対策についての意見」の別添に要領よく説明しているので以下に抜粋します。
「アメリカのESOP とは「従業員が株主となることで、資本の分配を従業員にまで広げて株主と従業員の利害を一致させる長期インセンティブプラン」である。
企業の退職給付制度の一つであり、全員参加で拠出は企業のみが行う。企業の損金参入上限は給与の15~25%であり、自社株に投資される。
従業員は退職時まで現金化できない。従って、所得税は退職時に支払われる。なお、運用時は非課税である。
さらに、このESOP は信託として設立され借入を行うことができる(レバレッジドESOP)。この仕組を簡単に示すと以下の通りである。
1. ESOP が銀行からローンを得る。
2. ESOP はローンで得た資金を使って自社株を買い付ける。この自社株は仮勘定に入れられる。
3. 企業がESOP に毎年、上限枠の範囲で拠出する。
4. ESOP は企業拠出を使ってローンを返済する。
5. ローンが返済されるのに従い、仮勘定の中の自社株は決められた算定式に則り、従業員の個人口座に配分される。
6. 配当は従業員口座に直接、もしくはESOP を経由する形で各従業員に支払われるか、ローンの返済に充てられる。
7. 従業員の退職時に、給付は自社株または現金で行われる。中途退社で給付を受ける場合は、給付金をIRA(個人退職勘定)に入れればペナルティはない。
つまり、約10 年のローン元本返済を前提とすると2 年分の給与支払総額に当る自社株を一度に買い付けることが出来るのであり、企業自らが巨大株主を創出するのである。」
つまり、この制度の肝要は、従業員をオーナー化させるインセンティブプランであるというところにあり、これを政府が税制上の優遇措置により後押ししているのです。
ところが日本では安定株主対策としてESOPを捉える経営者が多く、ESOPを会社と切り放して見ることが妥当とは思えません。米国の制度をそのまま持ってきても、買収防衛策の一つとして利用されるだけで、株主全体の利益を害する可能性が高いと私は思っています。
記事には、「一番の問題は会計処理にある」と書かれていますが、それは表層面の問題で、本質は日本のコーポレートガバナンスにあります。経済産業省の指針でもこの点の考察はほとんどなく、技術的な議論に終始しています。
企業価値研究会で別途議論させるつもりでしょうか。
【リンク】
平成20年11月17日「新たな自社株式保有スキームに関する報告書」新たな自社株式保有スキーム検討会[PDF]
2001 年1 月16 日「『株価対策』についての意見」社団法人 経済同友会[PDF]
吉永 未整理 ESOP
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