居酒屋中堅のチムニーは6日、MBO(経営陣が参加する買収)を実施すると発表した。米系投資ファンドのカーライル・グループの傘下企業と組む。全株取得の場合、買収金額は約208億円。若者の酒離れや消費不振で居酒屋市場が低迷するなか、給食や日中営業の外食事業を育て、中長期的な視点で成長力を高める。
NIKKEI NET 2009年11月7日
【CFOならこう読む】
「カーライル傘下のエフ・ディーがTOBを実施する。期間は11月9日から12月21日まで。
買付価格は2260円で、5日終値(1563円)に約45%、直近6ヶ月の株価に37%上乗せした。
発行済株式の75%以上を取得できればTOBが成立し、東証2部での上場は廃止になる見通し。」
(前掲紙)
プレミアム45%といっても、2007年には2890円つけていたわけですからねぇ。
しかし業績は好調で過去5年を見ても増収増益、ROEも低下傾向にはありますが、20%を確保しています。対抗TOBが出てきてもいいように思うのですが。
「カーライル・グループはTOB成立に向けて約100億円をエフ・ディーに追加出資、借入金で112億円を賄う。チムニーの和泉学社長もTOB成立後、エフ・ディーに3億円出資する。チムニー筆頭株主の米久は保有する全株を売却することに同意している。」(前掲紙)
エフ・ディー の概要は次の通りです。
(1) 名称 株式会社エフ・ディー
(2) 所在地 東京都千代田区丸の内一丁目5番1号
(3) 代表者の役職・氏名 代表取締役 丸茂 正人
(4) 事業内容 当社の株式の取得及び保有等
(5) 資本金 125,000円
(6) 設立年月日 平成21年9月16日
(7) 大株主及び持株比率 シージェイピー・ツー・ジェネラル・パートナー・エル・ピー100.00%
要するにこのMBOのために設立されたビークルです。
208億円の買収金額に対し、借入金は112億円。レバレッジは約2倍といった水準です。
5年後に再上場できたとして、IRR20%で計算すると、再上場時和泉氏が拠出する3億円は、3×1.2×1.2×1.2×1.2×1.2=7.4億円となる計算です。
【リンク】
2009年11月6日「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」チムニー株式会社【PDF】
吉永 MBO MBO
MBO(経営陣による買収)に伴う株式の買い取り価格の決定について、透明性や説明責任を問う動きが強まっている。経営者が買収者となるMBOは買い取り価格を巡り株主ともめやすい。歯磨き製品大手サンスターによるTOB(株式公開買い付け)に、価格を不満として応じなかった個人株主が価格決定を申し立てた事件で、大阪高裁は9月、買い取り価格を上げる決定を下した。MBOの対価の公正性が初めて法廷で争われたレックス・ホールディングスの事件よりも経営陣に透明性を厳しく求めている。
(日本経済新聞2009年10月26日16面)
【CFOならこう読む】
本件については、僕のブログでも以前に取り上げました(2009年9月9日「サンスターMBO裁判」)。大阪高裁はサンスター側の許可抗告に対し9月28日に不許可を決定し、買取価格は地裁決定の650円から3割程度高い840円に定まりました。
レックス・ホールディングス事件における高裁及び最高裁決定では、MBO公表日前日までの直近1ヶ月の終値単純平均に13.9%をプレミアムを付したTOB価格を支持した地裁の決定を覆し、MBO公表日直前に業績の下方修正を行ったことが、株価を下方に誘導する意図のもと行われたことは否定できないとして、単純平均する期間を直近半年と長めにとった上、本件に近接した時期に行われたMBOの事例を参考に20%のプレミアムが妥当であるとしてこれを付加した価格を公正な価格としました。
サンスター事件では地裁はTOB価格(2007年2月のMBO公表日前日から過去6ヶ月間の平均株価に19%を付した価格)を支持したのに対し、高裁決定は、サンスターの株価がTOBの1年前から相場の流れとかけ離れて下落した点を重視したものになりました。
「会社がMBO公表の3ヶ月前に発表した業績下方修正について「株価の安値誘導」を画策する工作の一つではないかと疑問を呈した。その上でTOBの発表時よりも1年前の株価に近似する700円までさかのぼって基準とした」(前掲紙)
事例の性質ごとに基準とすべき株価は個別に判断すべきという司法の判断は理解できますが、実務上これに対応するのは困難です。
英国のように1年内の最高値を下回ってはいけない、と法律で規定するのが良いように僕は思います。
【リンク】
2009年9月30日「株式取得価格決定事件抗告不許可決定について」サンスター株式会社
吉永 MBO MBO, TOB, サンスター
歯磨き製品大手サンスターが行ったMBOを巡り、元株主1人が同社株の公正な買い取り価格の決定を申し立てていた即時抗告審で、大阪高裁が1株840円とする決定を出したことが8日分かった。大阪地裁が昨年9月に決定した同650円を約30%上回り、元株主に有利な認定となった。
(日本経済新聞2009年9月9日16面)
【CFOならこう読む】
大阪高裁の決定は、多くの点でレックス・ホールディングス事件の高裁及び最高裁決定と同様のものとなりました。
レックス・ホールディングス事件における高裁及び最高裁決定では、MBO公表日前日までの直近1ヶ月の終値単純平均に13.9%をプレミアムを付したTOB価格を支持した地裁の決定を覆し、MBO公表日直前に業績の下方修正を行ったことが、株価を下方に誘導する意図のもと行われたことは否定できないとして、単純平均する期間を直近半年と長めにとった上、本件に近接した時期に行われたMBOの事例を参考に20%のプレミアムが妥当であるとしてこれを付加した価格を公正な価格としました。
サンスター事件では地裁はTOB価格(2007年2月のMBO公表日前日から過去6ヶ月間の平均株価に19%を付した価格)を支持したのに対し、高裁決定は、
「「同社が2006年11月に発表した業績下方修正は株価の『安値誘導』を画策する工作の一つではないか」と指摘した。」(前掲紙)
その上で、
「MBOを発表した2007年3月期のサンスターの純利益がその前と後の期に比べて落ち込んでいるのは不自然として、MBO発 表の1年前の株価水準700円を基準に設定した。ここにMBOでの平均 的なプレミアム(上乗せ幅)2割を付けて適正株価を算出した。」(ブルームバーグニュース)
会社法は取得価格(=公正な価格)の決定を裁判所に委ねており、裁判所が決めるとなると、こんな風にするしかないのでしょうが、プレミアムは2割付せば良いという実務慣行が定着するのが恐い。
プレミアムの源泉はシナジーにあり、シナジーは個々の案件ごとに全く異なるわけで、一律に20%あれば良いというものでは決してありません。
サンスター事件では、会社側が決めた買い取り価格に約20%のプレミアムが織り込まれており、プレミアムの水準という点は大きな争点とはならなかったようです。この事件では直近半年の終値平均と1年前の株価水準のどちらを客観的価値とするのが良いかが大きな争点となっており、これを最高裁が決定することになります。
しかしこれは難しい。そもそもこんな判断を裁判所にさせることが妥当であるとも思えません。
やはり、法律又は市場ルールでMBO(TOB)価格の最低水準を決めておく必要があるのではないかと私は思います(例えば直近1年間の最高値を下回ってはいけない等)。
そういう少数株主保護の手当てがあることを前提に、長島・大野・常松法律事務所の酒井竜児弁護士の「「企業が公正な手続きで決定したMBO価格に裁判所が安易に介入するのは問題だと考える」(ブルームバーグニュース)という意見に賛成します。
【リンク】
なし
吉永 MBO M&A, MBO, サンスター
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