アパマン最高裁判決ー完全子会社化のための株式買取価格額面の5万円でOK?

貸仲介のアパマンショップホールディングスが傘下企業を完全子会社化した際、株式の買取価格を額面通りの1株5万円としたのは高すぎるとして、株主が経営陣に損害賠償を求めた株主代表訴訟の上告審判決で、最高裁第1小法廷は15日、株主側の請求を認めた二審・東京高裁判決を破棄した。経営側の逆転勝訴が確定した。
(日本経済新聞2010年7月16日42面)

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「アパマンショップHDは2006年、月決めマンション事業を手がける傘下の「アパマンショップマンスリー」を完全子会社化するため、同社の少数株主から1株当たり5万円、総額1億5800万円で株式を買い取った。これに対し、マンスリー社の資産状況が悪化していたことなどから、HDの株主が「(マンスリー社の)株式の評価額は8千万円余りにとどまる)と訴えていた」(前掲紙)

会社は、株式買取りに応じない株主が出てくることに備え、株式交換の準備も同時に進めていて、監査法人等2社に株式交換比率の算定を依頼していました。提出された交換比率算定書の一つにおいては,Aの1株当たりの株式評価額が9709円,他の一つにおいては,類似会社比較法による1株当たりの株主資本価値が6561円ないし1万9090円とされたおり、これと比べ5万円の株式買取価格は高いということで株主代表訴訟が提起されました。

マンスリー社は,主として,備品付きマンスリーマンション事業を行うことなどを目的として平成13年に設立された会社であり,設立時の株式の払込金額は5万円でした。マンスリー社の株式は,発行済株式の総数9940株の約66.7%に相当する6630株をHDが保有していたが,本体の事業の遂行上重要であると考えていた本体のフランチャイズ事業の加盟店等もこれを引き受け,保有していました。

加盟店の関係を良好に保つために、当初の払込み価額で株式買取を行なう必要性があると経営陣が判断し、またその判断の妥当性について弁護士の意見も聴取していたということです。

これに対し最高裁は次のように経営陣の責任は問われない旨判示しています。

「以上の見地からすると,参加人がAの株式を任意の合意に基づいて買い取ることは,円滑に株式取得を進める方法として合理性があるというべきであるし,その買取価格についても,Aの設立から5年が経過しているにすぎないことからすれば,払込金額である5万円を基準とすることには,一般的にみて相応の合理性がないわけではなく,参加人以外のAの株主には参加人が事業の遂行上重要であると考えていた加盟店等が含まれており,買取りを円満に進めてそれらの加盟店等との友好関係を維持することが今後における参加人及びその傘下のグループ企業各社の事業遂行のために有益であったことや,非上場株式であるAの株式の評価額には相当の幅があり,事業再編の効果によるAの企業価値の増加も期待できたことからすれば,株式交換に備えて算定されたAの株式の評価額や実際の交換比率が前記のようなものであったとしても,買取価格を1株当たり5万円と決定したことが著しく不合理であるとはいい難い。

そして,本件決定に至る過程においては,参加人及びその傘下のグループ企業各社の全般的な経営方針等を協議する機関である経営会議において検討され,弁護士の意見も聴取されるなどの手続が履践されているのであって,その決定過程にも,何ら不合理な点は見当たらない。

以上によれば,本件決定についての上告人らの判断は,参加人の取締役の判断として著しく不合理なものということはできないから,上告人らが,参加人の取締役としての善管注意義務に違反したということはできない。」

要するに、経営上の合理的な理由があれば、時価と異なる価格で株式の売買を行なうことが認められるということです。

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「平成21(受)183 損害賠償請求事件 平成22年07月15日 最高裁判所第一小法廷 判決 破棄自判 東京高等裁判所」[PDF]

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