日本型IRA

欧州諸国は公的年金の肥大化を抑制する政策に転じている。自助努力がお国柄の米国でも同じで、401kなどの企業年金やIRAなどの個人年金に税制優遇し、自助努力での老後の蓄えを支援している。
(日本経済新聞2011年2月1日16面 大機小機)

【CFOならこう読む】

「わが国の年金改革では、公的年金・企業年金・個人年金が一体となって老後の生活を支えるという制度設計にする必要がある。具体的には「日本型IRA」として「税引後の所得を積み立てて、一定年齢に達した後に非課税で引き出せる個人年金」を設けることである」(前掲紙)

本家の米国IRAとは次のようなものです。

「米国で導入されているIRA(Individual Retirement Account:個人退職勘定・個人退職年金制度)である。

この制度は、企業年金を補完する形で導入された個人型の年金制度で、拠出時非課税、運用時非課税、引き出し時課税(EET型)の通常型IRAと、税引き後所得から拠出し、引き出し時に非課税となるTEE型のRoth IRAの2つがある。また、中小企業向け職域プランのSEP、従業員100名以下の企業と従業員のためのSIMPLE IRAなど、多様化が進んでおり、就業状態や勤務先の年金制度等にかかわらず加入することができるため、真の意味でポータビリティが確保されている。

IRAは、現在米国の全世帯の4割程度に浸透しており、公的年金や企業年金を補完する制度として機能している。米国の投資信託協会(ICI)のレポートによると、2010年3月時点で、通常型IRAは、3,480万世帯、Roth IRAは1,770万世帯が保有している。職域版のSEPやSIMPLEIRAも含めると、いずれかのIRAを保有しているのは4,610万世帯に上る。これは、米国の全世帯の実に39.3%を占める。

資産残高も、401kプランを上回り、4兆ドルを超えており(2010年3月時点で、4.3兆ドル)、公的年金に次ぐ資産形成手段としての地位を確立しつつある。ちなみに、残高のうち、通常型IRAが86.0%、Roth IRAが7.6%である。」
森信茂樹 河本敏夫「日本版I RA」(個人型年金積立金非課税制度)導入の提言 [PDF]

IRAに期待される役割は次の通りです。

「第一は、企業年金・公務員年金等でカバーされない自営業者あるいは小企業雇用者等に対して税の恩典のある退職貯蓄口座を提供することである。第二は、401k 等の口座を持っていた人が転職または退職した場合に、それまでに積立てた口座資産を引き続き保持できるようにするための受け皿(振替)口座を提供とすることであった。」
杉田浩治 「米国の貯蓄率低下と退職貯蓄市場」[PDF]

森信氏等が提言している日本版IRAの概要は以下の通りです。

クリックすると拡大表示します。

拠出時課税、運用時・給付時非課税のTEE 型(T は課税、E は非課税)が提唱された理由を森信氏は次のように説明しています。

「EET型は、将来年金を受け取る際には、基本的に勤労所得がなく、適用税率が低いので、積立時の税制優遇である所得控除の方が優れているということがあるが、新たな所得控除を設けることは、税制当局の理解を得にくく、また、所得控除は高所得者ほど有利になるので、高所得者優遇と非難されるという問題がある。さらには、給付時にも非課税にする(たとえば公的年金等控除の適用を拡大する)という圧力にさらされがちであるという問題がある。」(前掲 森信論文)

なお拠出時・運用時非課税・給付時課税のEET 型とTEE型の経済的価値は同じであり、どちらが有利不利ということはありません。

【リンク】

森信茂樹 河本敏夫「日本版I RA」(個人型年金積立金非課税制度)導入の提言 [PDF]

杉田浩治 「米国の貯蓄率低下と退職貯蓄市場」[PDF]