「時価総額<実質手元資金」の企業77社

株式時価総額が手元資金から有利子負債を差し引いた「ネットキャッシュ」を下回る企業が増えている。26日時点で77社にのぼり、6月末に比べ23社増えた。世界景気の減速懸念による株価下落に加え、成長投資や株主配分など手元資金の有効な使い道を示せていないケースもある。
(日本経済新聞2011年10月27日17面)

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「企業の時価総額がネットキャッシュを下回る場合、全株式を買い取れば、買収額より多い現金を手中にできる。株式市場ではPBRが理論上の解散価値を示す1倍を割り込む企業が東証1部の約7割に及ぶが、時価総額がネットキャッシュを下回るのは市場での評価がさらに低い状態といえる。

時価総額とネットキャッシュの差額が大きい企業をみると、船井電機やホシデン、半導体製造装置の新川など電機やハイテク関連銘柄が上位に並んだ。景気減速で家電や情報機器の需要が減り、収益が悪化するとの懸念を背景に株価が下落。時価総額がネットキャッシュを割る企業が相次いだ」(前掲紙)

株式価値=企業価値−(有利子負債−余剰資金)
=企業価値+(余剰資金−有利子負債)
=企業価値+ネットキャッシュ

したがって、企業価値がゼロだとしても株式価値がネットキャッシュを下回ることは理論的にはないはずです。
にも関わらずそういう企業が77社も存在するのは何故でしょう。

個別企業を検討していけば、その理由は色々と見つかるかも知れませんが、ここでは一般的にどんなことが考えられるか書いてみます。

まず考えられる理由の一つは手元資金=余剰資金とは限らないということです。

給料等の支払いに充てるために、手元資金を確保しているのであれば、その部分は余剰資金ではないので、株式価値を構成しません。

次に考えられるのは企業価値がマイナスである場合です。この場合には、

株式価値<ネットキャッシュ

となります。

そしてもうひとつ考えられるのは、手元資金が有効利用されず無為に費消されると市場が評価している場合です(エージェンシーコストですね)。

「評価の低さは手元資金を有効利用できていない点とみて活用を急ぐ企業が多い」(前掲紙)

というのはこのタイプの企業の株価対策としては有効です。

しかし、このタイプの企業ではなく、実は最初の2つのタイプのどちらかの企業であるにも関わらず、自社株買いなんぞしてしまったら、近い将来一気に資金不足に陥ることになる可能性もあるので、その見極めは慎重に行なう必要があります。

最後にもう一つ。

日本の株式市場全体が下げている中、個別企業を見ると理論価格を下回る水準まで下げている銘柄が存在している、ということが考えられます。

77社の中には、これに該当する銘柄も少なくないように思います。

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