ユニチャーム、自社株買い

ユニ・チャームは2013年3月期中に100億円規模の自社株買いを実施する方針だ。前期(89億円)を上回り、同社では過去最大となる見通し。株価上昇で2010年に発行した新株予約権付社債の転換が進む可能性が高い。1株利益の希薄化を嫌う株主に配慮し、自社株買いと保有する金庫株を活用して発行済株式が増えないようにする。
(日本経済新聞2013年1月24日15ページ)

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「ユニチャームは2013年と2015年に満期を迎えるCB合計805億円を、2010年に発行。23日のユニチャーム株終値は4785円と転換価格(2つのCBとも3883円)を上回る。」(前掲紙)

2010年に発行されたCBの資金使途について、ユニチャームは次のように説明していました。

「当社は、ユニ・チャーム ペットケア株式に対する公開買付けの決済資金として金融機関から借り入れた短 期借入金 600 億円の返済資金及び平成 22 年 9 月 1 日の同社との合併に伴う公租公課の納税資金(具体的な金 額は未確定です。)の調達のために、本資金調達と別途金融機関から 700 億円の借入れを行う予定です。本 資金調達による発行手取金(グリーンシュー・オプション分を含みます。)につきましては、直接的には、 ほぼ全額を平成 22 年 10 月末までに上記納税資金に充当する予定です。」
(2010年9月7日 2013 年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債及び 2015 年満期ユーロ円建取得条項付転換社債型新株予約権付社債の発行に関するお知らせ)

表現が分かりづらいですが、要するにユニ・チャーム ペットケアのTOBに必要な資金700億円を借り入れで調達し、さらにその後に行われる合併に伴い生じる納税のために必要な資金をCBにより調達するということです。

この合併に伴う税金については、当ブログで2010年7月31日に取り上げています(「ユニチャーム、子会社のユニチャームペットケア合併によりタックスコスト削減」

合併はTOBに応募がなかったユニ・チャーム ペットケアの少数株主に対し、現金を交付する、現金対価の合併、すなわち税務上は非適格合併により行われています。

2010年7月31日のブログで、現金対価の合併を選択したことにより、「税務上みなし配当と株式譲渡損が両建て計上される例の規定が適用され、タックスメリットが取れることになると思われます(受配益金不算入&株式譲渡損のみ損金算入)」と書きました。

その後の有価証券報告書等の公表資料からこのスキームを採用することによって得られたタックスメリット(株式譲渡損)は約600億円程度であったと推測されます。

しかしこのタックスメリットを得るためには、非適格合併でなければならず、その結果ユニ・チャームペットケア側に譲渡益課税が生じ、この税負担は合併時に伴いユニチャームに移転することになります。CBにより調達された資金ははこの時生じた譲渡益に対する税金の支払いに充てられたというのです。

TOB価格で算定したユニ・チャーム ペットケアの時価総額は約1070億円。このときのユニ・チャーム ペットケアの純資産は、約190億円(税務上の金額は不明なため、会計数値によっています)。この差額に対しかかる合併に伴う譲渡益課税のために800億円の納税資金の手当が必要になったわけです。

私の試算では、実際の税負担は600億円程度であったものと思われますが、それにしても約900億円の譲渡益に対し、何故600億円もの課税が生じるのか?
この理由は、譲渡益の計算を税負担考慮後で行うためにグロスアップしなければならないという何とも不思議な税法の規定にあるのですが、この話はまた別の機会にしたいと思います。

ここまで読んで頂いた方は、600億円の株式譲渡損を得るために600億円の税金を払うんじゃ割に合わないのではないかと思われるかも知れませんが、そうではありません。
ユニ・チャーム ペットケア側で生じる合併に伴う譲渡益は、ユニチャームはのれん(資産調整勘定)として受け入れることになります。のれんは税務上5年で償却されるので、結局のところ譲渡益と同額ののれん償却費が計上され、時間価値を無視すれば損得はないということになります。

結局、通算すれば600億円の株式譲渡損(みなし配当と株式譲渡損が両建てにより計上される分)のタックスメリットが得られるわけです。

ですが、この話には続きがあります。のれんの償却費にしても株式譲渡損にしても税務上相当分が繰越欠損金を構成します。
この繰越欠損金が回収されるまでの時間価値を考慮した上で、タックスメリットの計算はされる必要があります。
さらにこのディール後、法人税率の引き下げがあり、タックスメリットは減少しています。(「平成24年3月期連結業績予想に関するお知らせ」 株式会社ユニ・チャーム [PDF]

つまり、時間価値や法人税率引き下げのリスクまで勘案すると、非適格合併を選択する意味がどれだけあったのか疑問に思います。そしてその顛末としてCB転換による希薄化が生じるということでは、株主としてはふんだり蹴ったりということにならないでしょうか?

【リンク】

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