・買収防衛策廃止ーローム、Uアローズのケース

今年の株主総会では買収防衛策の新規導入案が急減する。M&A助言会社のレコフによると、2008年6月~2009年5月末に導入を発表した企業数は20社強と、前の1年間に比べ約9分の1に減った。5月末時点の導入企業は約570社。前年同月とほぼ同水準だった。有力企業による導入が一巡したほか、金融危機を受けて投資ファンドなどの投資余力が弱まり、企業の警戒感が薄れてきたことが背景だ。買収防衛策を廃止する動きも徐々に広がっており、直近1年間で防衛策の継続を止めた企業は19社に上った。廃止を決めたロームは「導入当時と比べ制度整備が進んだうえ、経済情勢が変わって濫用的買収のリスクが減った」(広報IR)という。
(日本経済新聞2009年6月17日9面)

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5月11日にロームがリリースした、「当社株式の大量買付けに関する適正ルール(買収防衛策)」の廃止に関するお知らせで、廃止の理由が次のように説明されています。

「一方、適正ルールを導入後、改正された金融商品取引法により、1 経営関与に向けた重大提案行為等を目的とした株式取得には特例報告制度の適用が認められず「大量保有報告書」提出(5営業日以内)が義務付けられ、2 公開買付けが開始された場合には発行会社による「買付期間延長請求」、「質問権行使」が可能になる等、当社株主によるインフォームド・ジャッジメントに必要な情報と時間の確保に向け、一定程度、制度上の進展がみられることとなりました。」

ここに書かれている金商法の規定を以下解説します。

上場株券等の保有者でその保有割合が5%を超える者を大量保有者といい、大量保有者となった日から5営業日以内に大量保有報告書を提出しなければなりません。しかし、機関投資家は日常の営業活動を通じて反復継続的に株券等の売買を行っているので、そのつど大領保有報告書を提出することになると、事務負担が過大になります。

そこで機関投資家については、それぞれ基準日(月2回)を届け出ておいて、その日の保有株券等の数を報告すればよいということになっています。企業側にとっては、この制度は買収者が現れてもタイムリーにその把握が出来ず、十分な対応が出来ないということにもなりかねないため、金商法は、「発行者の事業活動に重大な変更を加え、又は重大な変更を加え、又は重大な影響を及ぼす行為として政令で定めるもの(重要提案行為等)を行うことを保有の目的」とする場合には、特例報告制度の利用を許さなないとしています(金商法27条の26第1項)。

公開買付期間は、公開買付の公告を行った日から起算して20営業日以上で60営業日以内でなければならないのですが、買付者が設定した買付期間を20営業日台に設定した場合には、対象者は、買付期間を30営業日まで延長することを請求できます(金商法27条の10第2項2号)。対象者に対抗提案をしたり、株主に十分な情報提供を行う時間的余裕を与えるためです。

また、公開買付の対象者による意見表明報告書に公開買付者に対する質問を記載することができます。この場合、買付者は、意見表明報告書の送付を受けた日から5営業日以内に「対質問回答報告書」を提出しなければなりません(金商法27条の10第11項・13項、27条の14)ロームが言っているのは、買収防衛策を使わなくても、「株主が、十分な情報に基づき相当な検討期間をかけて適正な判断ができること(インフォームド・ジャッジメント)」が可能となるような法整備がなされたということなのです。

「エービーシー・マートによる株取得が注目を集めているユナイテッドアローズは、4月に取締役会決議で防衛策を導入したが、総会では改めてその是非を株主に判断してもらう」(前掲紙)

ABCマートは濫用的買収者(強圧的買収者又はグリーンメーラー)であるはずがなく、買収防衛策の発動は出来ません。また、ロームが言うようにインフォームド・ジャッジメントが法的に確保されいるなら、Uアローズの買収防衛策導入に全く意味がないということになります。

6月4日に書いたように、私自身はABCマートがUアローズを買収しても価値創造につながらないと思っていますが、それと買収防衛策の導入の是非は全く別の議論です。

この点株主がどのように判断するか注目されます。

【リンク】

2009年5月11日「当社株式の大量付けに関する適正ルール(買収防衛)の廃止に関するお知らせ」ローム株式会社