キャッシュ分配の優先順位 – 花王のケース

金融危機を経て株主と企業の関係が問い直されている。政界や経済界でも株主主権を誤りとする発言や、株主に距離を置く従来の日本企業の経営を再評価する声も出ている。企業と株主、株式市場との関係はどうあるべきなのか。株主の期待以上の利益を目指す経営で知られる花王の後藤卓也前会長に聞いた。
(日経ヴェリタス2009年8月2日21面)

【CFOならこう読む】

私は7月30日のエントリーで、会社は国富創造(株主価値創造)のために存在するのであって、株主のために存在するのではない、と書きました。

花王の後藤卓也前会長は、株主価値創造経営の代表選手としてよく取り上げられる大変著名な経営者ですが、上記記事の中で僕と同様の趣旨の発言をされています。

-社長時代には株主配分を高める一方、アナリストや市場関係者のために経営しているわけではないと発言されていました。

『利益ある成長を続ける強くて良い会社』を目指してきた。適切な利益を上げて投資し、当然ながら株主の期待に応える。そして税金を支払う。こうした成長のサイクルをきちっと継続できるという意味の『強い』であり、企業としての透明性、公正性、コンプライアンスを高めることが『良い』ということだ。」

『強い』会社をつくるための道具として、花王は業績評価の指標としてEVAを採用することを決めたのですね。

そんな花王のキャッシュ配分の優先順位はとてもシンプルでわかりやすいものです。

「海外のIRでは、借金して自社株買いをすべきだと言われた。だが、それは極端だ。経営陣のためだけに内部留保をため込んでいるのなら責められて当然だが、一定の資金はリスク対応にも研究開発にも必要だ。社内では100億円でも200億円でも払うから、開発案件を提案してこいと言っていた。まずは再投資。そして内部に種がなければM&A(合併・買収)。それもなければ配当や自社株買いで還元するという順番だ。」

再投資の判定もEVAを創造するかどうかで決めるわけです。

株主価値を重視する経営とは、特定の株主の言うことをきく経営ではなく、株主資本コストを重視する経営なのです。