王子製紙の北越製紙に対するTOBの顛末

日本製紙グループ本社と北越紀州製紙は30日、資本提携を解消すると発表した。日本製紙が保有していた北越の株式8.06%を同日付で北越に売却した。売却額は約87億円。両社は2006年、王子製紙が北越に敵対的TOB(株式公開買い付け)を仕掛けたのを機に提携した。業界を取り巻く情勢が変わり、資本提携を続ける意味が薄れたとしている。
(日本経済新聞2009年10月31日11面)

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「日本製紙グループ本社と北越紀州製紙は30日、資本提携を解消すると発表した。日本製紙が保有していた北越の株式8.06%を同日付で北越に売却した。売却額は約87億円。両社は2006年、王子製紙が北越に敵対的TOBを仕掛けたのを機に提携した。業界を取り巻く情勢が変わり、資本提携を続ける意味が薄れたとしている。
日本製紙は2006年8月に北越株を約150億円で取得。その後、同年12月には印刷用紙のOEM供給や資材共同調達などの業務提携を結び、関係を強化した。両社は資本提携解消後も業務提携は続ける。」
(前掲紙)

日本製紙による北越製紙株式取得は、王子のTOB阻止のために行われたもので、そこにどれだけの経済合理性があるのか良くわからない取引でした。

その後、日本製紙は北越製紙株式を塩漬けにしていましたが、2009年3月期に減損処理(半額程度か?)するに至り、今般、北越株式売却を決めました。

新聞記事によると、日本製紙側で50億円程度のコスト削減効果があったとのことですが、それが本当だとしても売却損を上回るものではありません。この辺りの責任を問う声が聞こえてこないのが不思議です。

一方、北越製紙としても資金調達の必要があり三菱商事に対する第三者割当増資を行ったことと、今回の自己株式取得をどう整合的に説明するのかぜひ伺いたいところです。

ところで今回の件はもうひとつ指摘しなければいけない事があります。

「平成21年10月1日付の北越製紙と紀州製紙株式会社との株式交換を機に、当社子会社である日本製紙は、北越製紙との間で締結した平成18年12月1日付戦略的業務提携契約に基づく提携関係につき、検討を行って参りましたが、両社の提携関係は、相互の提携効果発現とともに成熟してきており、今後、株式の保有を継続しなくとも、提携の有効性と継続が十分に確保できるものと判断するに至りました。そのため、今般、この判断を提携両社で共有するとともに、保有株式数を上記のように変更することといたしました。
なお、日本製紙が保有していた北越紀州製紙株式の処分につきましては、市場売却等の方策も考えられますが、株式が短期間に市場に放出された場合の影響等を考慮し、前述の株式交換における会社法第797条に基づく株式買取請求の手続を通じて行うことといたします。 」
「『当社子会社による北越製紙株式会社の株式取得』に関する開示事項の変更について」株式会社日本製紙グループ本社[PDF]

反対株主に株式買取請求権が認められているのは、「会社の基礎の変更等の行為に反対する株主が会社に対し自己の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求することにより、投下資本の回収を図る」(「株式会社法」 江頭憲治郎 有斐閣)ことを可能とする点にあります。

株式買取請求は、税制の取扱い等の有利・不利に従い選択可能なひとつのスキームというわけでは決してありません。

【リンク】

2009年10月30日「日本製紙保有の株式買取と自己株式の消却並びに今後の業務提携継続に関するお知らせ」北越紀州製紙株式会社[PDF]