持ち合い株式解消に向けた動き

サントリーホールディングスと経営統合で大詰めの交渉を進めるキリンホールディングス。社長の加藤壹康はもう一つの仕事に取りかかった。「『金曜会』各社様との持ち合い株式を一部圧縮」。昨年秋、加藤の指示を受けた担当者は文書を手に駆け回った。金曜会はキリンを含む三菱グループ29社の会長・社長会。目的は保有するメンバー企業の株式、数百億円分の大半を3年で売却することだ。
(日本経済新聞2010年1月15日1面)

【CFOならこう読む】

「大和総研によると上場企業の株式持ち合い比率は2008年度で8.2%。バブル期の3割弱からは減ってきたが、ここ数年は下げ止まり。今回、解消へ企業の背中を押すのは競争環境の激変だ。利益を生まない資金を塩漬けにしたまま、圧倒的な低コスト体質を備える新興国企業とは戦えない。
(中略)
三菱商事は2009年3月期に保有株式の値下がりや不良債権の償却などで計1800億円の損失を計上。最高益予想からの暗転だった。昨年春CFOとして東京に戻った上田はすぐさま動いた。株式の取得・保有が金額的に十分な見返りを得ていないと判断すれば売却を促す新制度を採用。明確なモノサシで安易な株保有と決別する。対象となる上場企業株は1兆1000億円規模に達し、日本企業で最大級だ」(前掲紙)

むしろ、安易な株保有が許されてきたことに驚きます。これは「資本の無駄遣いは許されない」(前掲紙)

という感覚が、日本の経営者にずっとなかったことの証でもあります。

それは少なくともバブル前までは、日本企業の資金調達が間接金融中心であったことと無縁ではないと思います。カネは銀行から借りられる。だから経営者は金遣いのうまさを競う必要もなかったし、資本コストを考える必要もなかったのです。

1975年に出版された大前研一氏の「企業参謀」という本の中こんなことが書かれています。

”日本の経営者はPL偏重でバランスシートのほうはかなり乱暴に扱ってきたが、今後は金遣いのうまさの真価が問われることになるだろう。だからROCE(Rate of Return on Capital Employed)というような資本効率を測る経営指標が重要になる。資金調達難が慢性化していたアメリカやイギリスでROCEが非常に良く使われる指標になったのは偶然ではない”

日本の現代の問題の多くは、戦後作り上げた体制を現在も後生大事に維持し続けていることから生じています。安易な持ち合い株式も資本コストがゼロの時代に許された遺物であると、僕は思います。

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