「公開会社法」におけるM&Aのルール

民主党が政権公約に掲げている「公開会社法」の審議が法制審議会で始まる。時宜を得たテーマであり、株式会社と証券市場の本質を踏まえた重厚な議論を期待したい。
(日本経済新聞2010年1月29日19面 大機小機)

【CFOならこう読む】

「上場会社の経営(者)が負うべき責任の相手は、今現在の株主のみならず、投資家一般、証券市場であり、ポスト法人資本主義社会の主人公の市民、国民である。理念を実現するには制度と、制度の器に盛る魂が不可欠だ。一町一夕にできるものではないだけに、理念を共有するための国民的な議論が必要になる。米欧にあって日本にないものに、株主総会に代わって経営者を監督する機関(スーパーバイザリーボード)がある。企業統治の要の役割を、米英は独立取締役会、ドイツは株主と従業員代表で構成する監査役会が担っているが、日本の上場会社にどうつくるのか」(前掲紙)

日本の法人資本主義の王様は役員とそれを担ぐ正社員でした。ここにドイツ型を持ってくると、現在の状況が強化されるだけで、いつまでたっても市民が主人公にはなる時代はやって来ないと思います。

「株式会社を巡る権利と義務の相克が頂点に達するM&Aのルールは、会社法と市場法にまたがる。「自由演技」で個別紛争を裁判所の判断に委ねる現行方式を改め、強制力のある第三者機関の監視下で制度化された「規定演技」とすべきではないか」(前掲紙)

イギリスのテイクオーバー・パネルを想定しているのでしょう。
テイクオーバー・パネルの是非について、岩井克人さんは次のように述べています。

「会社買収の手続きが、テイクオーバー・パネルという民間の団体の監督のもと、シティコードという買収ルールにもとづいて厳格に行なわれます。テイクオーバー・パネルのメンバーは英国保険業協会、英国銀行業協会、英国投資顧問協会、公認会計士協会等の各教会などから精鋭が集まって構成されます。
(中略)
日本も同じ仕組みにすべきだという議論がよくなされます。特に市場関係者のなかには、そういう考え方は多いようです。しかし日本での実現可能性はどれほどあるのでしょうか。

一番大きな問題は人材でしょう。イギリスの買収ルールは19世紀から連綿と続くシティの伝統に完全に支えられている制度です。テイクオーバー・パネルに集まる人たちは、実際にシティで経験を積み、自主的な組織としてシティ全体の長期的な利益に貢献するという使命感を持って活動しています。それゆえ、社会的に信頼され、尊敬されています。伝統のあるシティはイギリスにとっては無形文化財のようなものですから、これを絶対守るという強い意志と気概があります。

日本では会社買収はまだ始まったばかりで、イギリスと比較すると人材の蓄積がありません。金融業全体のインフラが整えば、長期的には可能かもしれませんが、そのまま現状の日本に導入することは難しいでしょう」(「M&A国富論」岩井克人・佐藤孝弘 プレジデント社)

私は日本に人材はいると思っています。

一度理念が共有されれば、テイクオーバー・パネルは十分機能するでしょう。
一番重要なものは、「制度の器に盛る魂」です。
長期的な視点から、日本国の進むべき方向を議論する必要があります。
日本がどうやって食っていくかということもはちろん大切ですが、日本という国をどういう国にするかということはもっと大切です。

そういった理念なくして、例えば社会保障の問題やその財源について議論しても意味がないと僕は思います。

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