ヤフーのIDC合併の際の繰越欠損金引き継ぎを国税否認

ヤフーは30日、東京国税局から節税目的で企業買収をしたと指摘され、過少申告加算税を含む追徴課税約265億円を支払うよう求める通知を受けたと発表した。同社は「指摘は到底納得できない」として国税不服審判所に異議を申し立てる方針で、認められない場合は提訴する。
(日本経済新聞2010年6月30日16面)

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本件については、2009年3月2日に当ブログで取り上げました(「ソフトバンク・ヤフーの親子上場問題」)。

本件の概要は以下の通りです。

2009年2月19日 ソフトバンク株式会社の全額出資子会社であるソフトバンクIDCソリューションズ株式会社の全株式を取得し、子会社化することを取締役会決議。
2009 年2月23日 株式譲渡契約締結日
2009年2月24日 株式引渡し期日
2009年2月25日 平成21 年3月30日をもって、当社の100%子会社であるソフトバンクIDC ソリューションズ株式会社を吸収合併することを決議

ソフトバンクはCB500億円の繰上償還の資金調達の必要性からヤフーに対する本件株式譲渡を行なったのではないか、というような報道がなされていました。
(日経ヴェリタス2009年3月1日21面)

これに対し私は、2009年3月2日のブログで次のように書いています。

「ソフトバンクは、「グーグルを追撃するには、ヤフーがデータセンター事業を持って内製化し、将来の展開に備える必要がある。主要子会社であるヤフーの企業価値を上げることは重要。」と説明しています。内製化のためのグループ再編であるなら、合併させれば良いのに、と私は思います。

ところで、譲渡代金450億円の内訳は、

「被買収企業の純資産評価額180億円、のれん代60億円、買収によって引き継ぐ税務上の繰越欠損金210億円」(前掲紙)

ということです。

要するに、繰越欠損金をキャッシュに変えるために行われたディールなんですね。」

「合併させれば良いのに」、というのは何故株式譲渡した後合併というスキームを取る必要があるのか、ということを言いたかったのです。

本件の目的がソフトバンクの資金調達にあったのなら、株式譲渡か現金対価の非適格合併のいずれの方法を取るしかないわけですが、非適格合併では繰越欠損金を引き継げないので、株式譲渡後合併というスキームを選択したものと思われます。

グループ化後5年を経過せずに行なわれる適格合併において、繰越欠損金を引き継ぐためには以下のみなし共同事業要件を充足させる必要があります。

1.事業関連性要件
2.規模要件
3.規模継続要件
4.2と3を満たさない場合には経営参画要件

ヤフーの6月30日付でプレスリリース「ソフトバンクIDC ソリューションズ株式会社合併に関する更正・決定通知書の受領について」の中で、国税の指摘の概要を記載しています。その中に次の記載があります。

「東京国税局は、平成20 年12 月に当社代表取締役である井上雅博がIDC の取締役副社長に就任していることについて、繰越欠損金引継ぎの要件を満たすための形式的なものであったに過ぎないと指摘している」

要するに経営参画要件が形式的に充足しているだけで実質的には充足していないという指摘です。

一方、

「組織再編税制における行為計算の否認規定は、会社の行為を無視して当局が課税を行うことができる強権であり、その適用に当たっては慎重な判断が必要であると考えています。」

との記載があります。

これを読むと組織再編成に係る包括的租税回避防止規定により否認されたということです。否認の趣旨が前者なのか後者なのかわかりませんが、後者だとすると実務への影響は少なからずあるように思います。

いかなる場合に包括的租税回避防止規定が適用されるかが明らかにされていませんが、租税法律主義の観点から国税によるこれの適用は慎重に行なわれる必要があります。

そもそも租税回避とは何のことでしょうか?

租税法の第1人者である金子宏教授は、租税回避を次のように定義しています。

「私法上の選択可能性を利用し、私的経済取引プロバーの見地からは合理的理由がないのに。通常用いられない法形式を選択することによって、結果的には意図した経済的目的ないし経済的成果を実現しながら、通常用いられる法形式に対応する課税要件の充足を免れ、もって税負担を減少させあるいは排除すること」(租税法 第15版 弘文堂)

本件では、何をもって、私的経済取引プロバーの見地から合理的理由がないと言えるのか、新聞報道やプレスリリースを見る限り私にはよくわかりません。

繰越欠損金が価値評価の重要な一部を構成していたのは事実だとしても(そのこと自体会社は否定していません)、この合併にBusiness purposeがないとまでは言えないように思えるからです。

いずれにしても国税不服審判所の審査結果が待たれます。

【リンク】

「IR関連情報 2008年度」ヤフー株式会社
「IR関連情報2010年度」ヤフー株式会社