寄付、特定信託を通じ簡単に

政府は2011年度に、公益法人や認定非営利組織(NPO)への信託銀行を通じた寄付をしやすくする「特定寄付信託」制度を創設する。2011年度税制改正に優遇措置が盛り込まれたのを受けた者で、関連法案成立を前提に信託銀行などが具体的な商品設計に入る。
(日本経済新聞2011年1月18日1面)

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「2011年度税制改正では、同信託の運用益を非課税とすることや、毎年の寄付額の半分を所得税額から控除できることが盛り込まれた。現在は運用益への非課税措置はなく、寄付金も課税所得を決める段階で差し引かれるだけなのが原則。税額から控除される方式の方が減税メリットは大きい。」(前掲紙)

プランド・ギビング信託とは、生涯の寄付を計画的に実施することを可能にするもので、米国で広く利用されています。チャリタブル・リメインダー・トラスト等の信託を利用することにより、税制上の恩恵や信託から年金収入を得ることができます。

例えば資産家が土地や有価証券を寄付する際にこの仕組みを利用すると、生きている間はこの信託から生活費を定期収入として受取り、死後残った土地や有価証券をNPO法人に寄付するということが可能になります。

米国の場合のチャリタブル・リメインダー・トラストを利用した場合の税制上の恩恵は次の通りです。

「チャリタブル・リメインダー・トラストによる税制上の恩恵は高い。まず所得税上、残余公益的利益(charitable remainder interest)に相当する信託財産の現在価値は控除可能である。また、信託資産のうち公益的利益相当分は寄付者の個人財産に含まれないため、遺産税の義務が回避でき、遺産課税分の負担も軽減される。ただし、個人が受け取る定期収入に関しては、全額免税とならないため注意が必要である。免税率は、推定余命によって変
動する(基本的に推定余命が長いと課税率が低い)。
価値の上がった資産を売却しキャピタル・ゲインを得ても、その資産がトラストに信託されて2 年以内であれば、譲渡した人の税率に応じ課税をまぬがれる事が出来る(IRC644)。
つまり、チャリタブル・リメインダー・トラストの仕組みによって、double tax leverage が可能となる。この仕組みが、価値が上がったものの時価変動の少ない財産を処分し、キャピタル・ゲインへの課税をまぬがれながら、老後の定期収入と財産運用をしたい人にとって理想的な所以である。

他方、非関連事業課税収益 (unrelated business taxable income=UBIT)に関しては、しかし注意が必要である。つまり内国歳入法、512 に定められた非関連事業課税収益が生じない限りは、あらゆる種類の税金が控除されるが、非関連事業課税収益が生じた場合は、課税年度ごとにそのトラストはあたかもcomplex trust であるかの様に課税されていくからである。」
(NPO と金融機関の協働に関する調査研究 報告書―米国における寄付関連金融商品の動向と日本における導入可能性に関する考察- 特定非営利活動法人 パブリックリソースセンター)

「慈善以外の受益者がいる場合、所得税、遺産税及び贈与税の適用において、信託の残余持分の贈与に係る慈善寄付金控除の適用は、Charitable Remainder Annuity Trust及びCharitable Remainder Unitrustの2種類に限って認められる(IRC664(d)および(e))。他のすべての信託では、残余持分の贈与については、慈善寄付金控除は否定される」
(本庄資著「アメリカ法人税制」日本租税研究協会)

日本の制度設計の詳細についてはこれから詰めていくものと思われますが、税制大綱におおまかな制度の概要が記載されているので、以下関連部分を抜粋します。

「特定寄附信託(いわゆる「日本版プランド・ギビング信託」)に係る利子所得の非課税の創設
イ 特定寄附信託契約に基づき設定された信託の信託財産につき生ずる利子所得(利子所得の基因となる公社債等が当該信託財産に引き続き属していた期間に対応する部分の額に限ります。)については、所得税を課さないこととします。
ロ 特定寄附信託契約とは、居住者等が金融機関の信託業務の兼営等に関する法律により信託業務を営む金融機関又は信託業法の免許を受けた信託会社と締結した当該居住者等を受益者とする信託に関する契約であって、特定寄附金の対象となる公益社団法人、公益財団法人又は認定NPO法人等(以下「公益法人等」といいます。)への寄附を行うことを主たる目的とするもののうち、次に掲げる要件を備えたものをいいます。
(イ) 信託財産からの寄附は、公益法人等に対してのみ行うものであること。
(ロ) 信託契約期間中の各年に信託財産から寄附される金額は、当初信託元本額(下記(ハ)により委託者に交付される金額の合計額を除きます。)を信託契約期間の年数で除した金額と当該寄附をする日までの間に生じた利子の合計額(前年までに既に寄附された利子の金額を除きます。)とされていること。
(ハ) 信託契約期間中に信託財産から委託者に金銭の交付をする場合には、その交付される金銭の額は当初信託元本額の30%を限度とし、かつ、信託契約期間にわたって各年均等に交付されるものであること。
(ニ) 信託の受託者がその信託財産として受け入れる資産は、金銭に限られるものであること。
(ホ) 信託の信託財産の運用は、次に掲げる方法に限られるものであること。
(a) 預貯金
(b) 国債、地方債、特別の法律により法人の発行する債券又は貸付信託の受益権の取得
(c) 合同運用信託の信託
(ヘ) 信託財産を寄附する日の前日までに、信託の受託者がその寄附を受ける法人等との間で寄附に関する契約
(寄附金を支出する日等の定めがあるものに限ります。)を締結していること。
(ト) 信託は、合意による終了ができないものであること。
(チ) 信託の受益権は、譲渡又は担保提供ができないこと。
(リ) 委託者が死亡した場合には、信託は終了し、その信託財産のすべてを公益法人等に寄附することとされていること。
(ヌ) 信託の計算期間は1月1日から12 月31 日までとされていること。
ハ 特定寄附信託の委託者は、当該特定寄附信託に係る信託契約の締結の後最初に上記イの非課税の適用がある利子の支払を受ける日の前日までに、その者の氏名等を記載した非課税申告書に当該特定寄附信託に係る信託契約書を添付して、これを受託者を経由し、委託者の住所地の所轄税務署長に提出しなければなりません。
ニ 特定寄附信託について、上記ロの要件を満たさないこととなる事実が生じた場合には、その事実が生じた日以前に信託財産から生じた利子についは、上記イの非課税の適用はなかったものとし、かつ、その事実が生じた日においてその利子が生じたものと、当該受託者がその利子を支払ったものとそれぞれみなして、利子の源泉徴収に関する規定を適用します。
ホ 特定寄附信託の受託者は、信託の計算書に、当初元本額、寄附金額、寄附先の法人等の名称等を記載して、その信託の計算期間の終了の日の属する年の翌年1月31 日までに税務署長に提出しなければなりません。
ヘ 特定寄附信託の委託者が、当該特定寄附信託契約に基づき公益法人等に対して寄附した金額のうち、上記イにより非課税となった利子所得に相当する金額に係る部分は、寄附金控除は、適用しません。
ト その他所要の措置を講じます。」

【リンク】

「NPO と金融機関の協働に関する調査研究 報告書 - 米国における寄付関連金融商品の動向と日本における導入可能性に関する考察-」特定非営利活動法人 パブリックリソースセンター  [PDF]
「平成23年度税制改正大綱」[PDF]