富裕層増税、バフェット・ルール

年収100万ドル(約7600万円)以上の富裕層は、最低でも中間層並みの税率を課されるー。
オバマ大統領が米連邦債務の削減のため打ち出した「バフェット・ルール」を巡り、米国内で賛否が割れている。「公平性が増す」との声がある一方、「景気回復を阻害する」との指摘も根強い。米国で所得格差が広がっていることが背景にあり、2012年の大統領選の争点に浮上する可能性もある。
(日本経済新聞2011年9月28日7面)

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「米国の所得税は日本と同様、所得税が増えるほど税率が上がる累進制。では、なぜ富裕層の税率が中間層を下回る現象が起こるのか。カギは収入源にある。
所得税率は10~35%の6段階だ。だが、最富裕層の人たちの多くは勤め先の給与でなく、配当や株式の値上り益(キャピタル・ゲイン)で収入を得ることが多い。これらに適用される税率は15%にとどまるため、総所得に対する税率が低くなる例がでるわけだ」(前掲紙)

ベンチャーの経営者から、自らの報酬をどういう基準で決めたら良いかという相談を受けることがあります。例えば利益のうち自分の取り分は何%が妥当かと。

しかし、そのパーセンテージは利益の水準によって変わってくるので、パーセンテージで一律的に基準を設定することは困難です。従って最低限の報酬を固定で設定した上で、業績給部分は賞与、及びストックオプションや株式報酬といったエクイティで支払われることが多いのです(特に米国では)。

ということは、エクイティからの収入も役員報酬の一部なんだから、給与と同じ税率で税金を取るべきだという議論になりそうですが、その議論には重要な視点が抜けています。

それは法人税の存在です。

給与は法人の損金になるので法人税の対象になりませんが、キャピタルゲインや配当は法人の損金にならないので、株主レベルで税金をかけると、同じ所得源泉に対し二重で税金がかかることになるのです。

法人税が所得税の前取りであると考えるなら、キャピタルゲインに対しては一度法人税がかかっているのだから、再度株主レベルで税金をかけるべきではない、ということになります。

そう考えると、安易にキャピタルゲインの税率を上げるべきではないということになり、それは正論なのですが、その議論には「法人税を支払っている」という前提があることを忘れていはいけません。

米国の多国籍企業には、法人税をごくわずかしか負担していない企業がたくさんあります。日本だって70%以上の会社が赤字会社です。

法人税で税収を確保するのはとても大変なのです。

だったら、いっそのこと思い切り法人税率を引き下げ、その上でキャピタルゲインも給与も個人レベルで累進制によりしっかり課税すれば良いとも思われます。

しかし、そこにも投資性所得は容易に国境を越えてしまうという大きな壁があるのです。

所得税も法人税も駄目だとなると、税収を確保するには消費税しかないということになりますが、私が今言いたいのはそのことより、所得税も法人税も駄目なのにその税率を引き上げたり、累進制をきつくしても、何の意味もないというこです。

復興増税の議論もこのことを前提に進めなければ行けないと思うのです。

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