合同会社(LLC)の課税、パススルーに改正すべき

株式会社よりも柔軟に組織運営ができる合同会社(LLC)の設立が、前年比約3割のペースで増加を続けている。大手では石油精製の極東石油工業が5月21日付で、株式会社から移行。トヨタ自動車など9社は電気自動車向け急速充電サービスを提供するLLCを昨年12月に設立した。上場できないため資金調達の道は限られるが、設立の維持のコストが安いことも評価されており、2012年は1万件を超えるとの見方も出ている。
(日本経済新聞2012年4月20日9面)

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「LLCは2006年に会社法が施行されたとき、共同出資会社をつくりやすくすることなどを目的に制度が設けられた。株主総会を開く必要がなく、出資比率に比例しない利益配分が可能だ。決算公告の義務もなく、「株式会社よりも設立・維持コストが安い」(西村あさひ法律事務所の大井裕紀弁護士)。一方、上場はできない。」(前掲紙)

LLCの最大の売りは、出資比率に比例しない利益配分が可能、という点にあります。もともと、金銭出資は少ないけれども、専門的な技術や知識(ノウハウ)を提供する人に、その貢献に応じ利益配分をすることを可能とするためにLLCは誕生しました。

ところが課税上の問題があって、LLCは株式会社同様自由な利益配分などできません。何故かというと、LLCには法人税等が課税されるので、利益配分の対象になるのは課税後の利益になってしまうからです。労務提供のコストは当然に税務上損金とすべきでありますが、利益配分の形をとると、損金にならなくなってしまうのです。例えば1000万円の利益が出ても、法人税等としてまず370万円(実効税率37%と仮定)支払わなければならず、利益配分の対象となるのは630万円に減額されてしまいます。これでは、頑張って結果を出しても、最大の利益の分配先は国ということになりかねません。

結局、役務の提供の対価は役員報酬として支払うほかなく、その場合株式会社と同様の取扱いになりますので、LLCを用いる利点は特にない、ということになります。

役員報酬の場合、「定期同額給与」が税務上損金に落とせる要件になるので、実績に見合った配分ができないので、役員報酬をインセンティブとするのがとても困難です。結局、利益貢献部分は役員賞与として支払って、税務上は否認するしかないのです。

しかし本来利益貢献の対価であっても報酬であることには変わりがなく、税務上損金となって当たり前のはずです。これができないということではベンチャー企業の経営はとても難しくなります。日本でなかなかベンチャー企業が育たないのはこういうところにもその一因があります。

米国ではLLCはパススルー課税、すなわち法人税の対象にならず、利益については構成員に直接課税されます。利益配分は出資割合に関わらず自由に設定できるので、フレキシブルな事業運営が可能となっています。

そもそも法人税というのは、所得税の前払いであり、所得税の繰延べを防ぐことに存在意義があります。パススルー課税は、LLCの利益に対し即時に所得税が課されるので、税の繰延べの問題は生じません。むしろ、所有と経営が分離していない日本の多くの中小企業は、パススルー課税の対象とすべきだと言うこともできるのです。

日本でLLCの導入が検討された際、これを積極的に推進したい経産省はパススルー課税を強く推したのですが、財務省がこれを拒否したと聞いています。その理由は、パススルー課税が租税回避の道具として悪用されることを恐れたからです。

例えば他の事業で損失が出ている構成員に利益を多く分配すれば、構成員全体の納税額を少なくすること簡単にできてしまいます。これを防ぐためには、米国のパートナーシップ課税に相当するような新たな税体系を構築する必要性があります。それがない日本でパススルー課税を採用することができない、というのが財務省の拒否の理由だと思われます。

それならそれで国は早急に新たな税体系を構築すれば良いのです。租税回避のリスクがあるから、パススルー課税は採用できない、といって思考停止してしまうような国では、ベンチャー企業の経営なんてできません。

1万件程度で喜んでいる場合ではありません。

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