JFEホールディングス、業績予想非開示

鉄鋼業界の収益環境に不透明感が漂っている。自動車や電機など顧客の減産がいつまで続くのか見通せず、鋼材需要予測を立てるのも困難な情勢だ。大手各社が2010年3月期の業績予想見通しを「暫定値」と断って開示するなか、唯一非開示としたのがJFEホールディングス。数土文夫社長にその背景と見通しを聞いた。
(日本経済新聞 2009年6月19日 15面 トップに聞く企業戦略)

【CFOならこう読む】

「-昨年に続き2年連続で業績見通しを開示しませんでした。
本当は出したい。しかしマクロ経済や世界の鉄鋼需要の動向が全く読めない。原材料価格や鋼材価格も以前よりはるかに大きく揺れ動くうえ、期初時点ではこれらの価格も決まっていなかった。
こうした状況で収益予想などできるはずがない。合理的な予想ができないのにあえて数字を出してもミスリードするだけだし、マーケットを変に利益誘導しかねない
収益力に自信がないから出さないのではない。合理的に説明できないなら軽々に出さない方が誠実で正直だ。欧米の主要企業でも非開示は多い。米国では上場企業の40%が、欧州上場企業でも時価総額トップ10企業の多くが予想を出していない。海外の経営トップと話すと私の考え方が正常と言われる。
合理的に説明できないのに予想を出す日本の経営者の方が奇異な感じがする」(前掲紙)

日本では業績予想を発表し、これを達成するのが上場会社の責務であると言われます。しかし、業績予想を発表することの弊害はあまり議論されていないように思います。

合理的な予想でないにも関わらず、一旦公表するとこれに縛られ相当乱暴なことをしてでもこれを達成しなければならないといった業績予想を達成したら後の利益は翌期に繰り延べるという誘因が経営者に働いてしまうとか、業績予想の修正との兼ね合いで自己株取得等の株主還元策が適時に行えないとか、業績予想を発表する弊害は様々に存在します。

「-株式市場からは批判もあります。
海外の機関投資家を訪問して批判を受けたことはない。逆に無理して予想を出して後に何回も業績修正する方が経営責任の放棄だ。最新の正確な情報をできるだけ早く市場に知らせるのが経営者の義務。だからむしろ決算発表の早期化が重要で、今期は前期より1週間前倒しできないか検討したい。」(前掲紙)

まさに正論です。そもそも予想屋じゃあるまいし、予想を出すのが経営者の仕事とは思えません。決算数値は過去の実績であるだけでなく、将来の利益やキャッシュフローを予測する礎えになります。これを早く正しく知らせるのが経営者の義務であるとはまさにおっしゃる通りだと思います。

ただし、持ち合い株式の評価損の計上額が読めないから業績予想は公表できないということなら、そんな理屈は通らないことをゆめゆめお忘れなく!

【リンク】

「不適正開示 QA集」東京証券取引所

Q1-2.関係会社株式評価損として特別損失を計上する予定ですが、業績が好調であるためことによる増益と合算すると、当期純利益は当初の業績予想から30%以内の減少にとどまるものと見込まれます。当該評価損について、開示する必要がありますか。