政府は銀行の預金口座に預金者の税と社会保障の共通番号(マイナンバー)の登録を義務付ける方向で、銀行界との調整を始めた。まず、2018年度から新たに開く口座を対象にし、その後、既存の口座にも拡大する。脱税やマネーロンダリング(資金洗浄)を防ぎ、サラリーマンなど納税者に根強い不公平感の是正を図る。16年の通常国会に関連法の改正案を提出したい考えだ。
(日本経済新聞2014年3月18日1ページ)
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「預金口座へのマイナンバー登録は、税制や法律を改正する15~16年ごろの政治情勢が実現の可能性を左右する。税制に詳しく財務省OBも多い自民党税制調査会幹部には「税逃れ防止の観点から導入すべきだ」との前向きな意見がある。一方、所得が捕捉されることに抵抗感を抱く農家や自営業者らの声を背景に、反発する議員も多いとみられる。」(前掲紙)
農家や自営業者の所得が捕捉されたら何が問題なんでしょう?
給与所得者との公平性という意味でも、ここに手をつけないまま給与所得控除を縮小するというのでは、
大きな問題です。
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法人実効税率引き下げの代替財源の候補として、株式の配当や売却益への課税強化が突如として浮上してきた。一体どういう風の吹き回しなの。
(日経ヴェリタス2014年3月17日71ページ 放電塔 金融記者座談会)
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「実は財務省そのものから出た議論ではなくて、政府税調の一部の委員が以前から唱えている意見なんだ。その代表格が一橋大学の田近栄治特任教授で、法人税率引き下げと株式配当など金融所得への課税強化について「検討の余地は十分にある」と主張してきた。法人税率を引き下げれば企業業績の改善を通じて株主配分の増加につながるので、その一部を株主から回収する、という論理立てのようだ」(前掲紙)
田近栄治特任教授の主張は、以前当ブログでも取り上げました。
2013 年7月9日エントリー「法人実効税率引き下げの財源」
法人税率引き下げの財源を個人の金融所得課税増税に求めることも検討すべきだとして次のような議論をしています。
「企業のあげる所得を法人段階だけではなく、配当や、株式などのキャピタルゲイン(売却益)まで含めて考えることである。この観点に立てば、法人税率の引き下げと同時に、金融所得に負担の一端を求めることも選択肢となる。日本より法人税率の低いドイツや英国では、日本より高い税率を金融所得に課していることを参考にすれば、検討の余地は十分にある。法人税率が下がることによって企業は業績を改善し、その成果を株主に還元する。それによって、企業にも株主にもよりよい結果を実現することが可能となるからである。」(日本経済新聞2013年7月9日26ページ 経済教室)
法人課税の問題は、法人レベルの議論だけでなく個人の所得税レベルの議論まで必要とすることは間違いありません。
法人税率を引き下げることで、個人レベルの投資リターンが上昇するのであれば、一定程度金融所得課税を強化することも検討の余地はあるでしょう。
ただし、その場合、金融所得課税を強化することの弊害も十分に検討される必要があります。例えば起業家は、キャピタルゲイン課税が強化されている国での起業を選択するだろうか、ということを。
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(法人税率引き下げの)代替財源として、所得税制の見直しも有力な方策である。法人税制との整合性を考えると、給与所得控除の見直しが挙げられる。給与所得控除は一見すると給与収入しかない従業員を守る仕組みに見えるが、実はオーナー経営者を利する不公平税制である。
(日本経済新聞2014年3月13日28ページ 経済教室 税率下げの財源を 土居丈朗慶応義塾大学教授)
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「非上場企業のオーナー経営者は自分で稼ぐ所得を、配当で得るか給与で得るか事実上独善的に決められる。企業利益が1600万円あって、全て配当で分配するとしよう。このとき、まず法人税(25・5%、408万円)が課され、残った1192万円が配当され、経営者の課税所得として所得税が課される。
ところが、同じ1600万円を自らの給与とした場合、法人税法上は企業の損金となり、法人所得は0、法人税額も0となる。その上、給与から245万円の給与所得控除が認められる。さらに、この給与を配偶者と分け合う形で分配すると、2人とも給与所得控除が適用され、給与所得控除額は合計400万円に増える。1人当たりの所得が減るため税率も下がる。その分、所得税負担が大きく減る。」(前掲稿)
仰ることは正論ですが、だからといって給与所得控除自体を減らすのは反対です。
給与所得控除は、伝統的に、①概算経費、②担税力の調整、③捕捉率の調整、④金利調整といった性質を有しているとされているからです。
より本質的な問題はどこにあるか?
問題は事業所得が給与所得に転換されているところにあるのです。
非上場企業の多くは、株式会社でなければ事業ができない、ということはないでしょう。
個人事業として営めば事業所得となるのに、会社として営めば経費を差し引いた上にこれを給与という形でオーナーに分配することで給与所得控除まで引けるという点に問題があるのです。
米国では多くの個人事業が税法上パートナーシップとなる事業体により営まれます。
パートナーシップには法人税が課されず、パートナーシップで稼得された所得は、構成員の所得として課税されます。
このときパートナーシップの所得の属性は構成員レベルに引き継がれます(パススルー課税といいます)。
日本ではパートナーシップ(組合)に関する税法上の取扱いが明確になっていません(通達レベルで規定されているだけです)。
法人税改革と同時にパートナーシップ課税制度を整備し、個人事業についてはパススルー課税により課税する、又は個人事業主はパススルー課税により課税される事業体により事業を営むように促す、のが良いと私は思います。
例えば合同会社(LLC)は、法人であるという理由から法人税が課税されますが、抜本的な法人税改革を行うことにより、パススルー課税されるように改めることを期待します。
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所得課税を抜本的に見直す構想が政府・与党内に浮上してきた。少子化対策として子どもが多いほど所得税が少なくなるよう課税対象を今の個人単位から世帯全体にする案を検討。一方、女性を支援するため、働く意欲をそぐとされる配偶者控除の廃止・縮小も目指す。
(日本経済新聞2014年3月6日3ページ )
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「少子化対策として取り組む世帯課税は、夫や妻、子どもら家族全員の所得の合計から世帯の課税額を計算する方式を検討する。所得の総額を家族の人数で割って1人当たりの所得をはじき出し、この額の税率を適用して家族全員分の税額を出すやり方だ。
すでに導入しているフランスでは、大人を1、子どもは0・5(第3子以降は1)として世帯の人数を計算する。夫婦と子ども2人の4人家族なら3で所得総額を割った額が課税対象になり、個人の所得に課税する場合より低い税率が適用される。」(前掲紙)
フランスでは、45年以来夫婦合算の所得を子どもも加えた世帯人数に分割し課税する、n分n乗方式が採用されています。
この制度は戦後の人口政策のために導入されたようですが、子育て支援という意味では、各種の支援手当が充実していることに加え、幼稚園から大学までの教育は、ほとんど公立学校で行われ、授業料はほとんど無料というように、単に所得税の課税単位の問題ではなく、子育てや女性の就業について明確な国家ビジョンがあり、それを具体化する各種制度が整備されているのです。
こういった仕組みは、少子高齢化が進むほど導入が難しくなると考えられるので、検討するならいましかないと思います。
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日本企業の管理職の年収が海外に比べて「割安」になってきた。新興国の賃金が上昇、為替の円安傾向もあって相対的な水準が下がっている。民間調査では部長級の年収は中国より低いとの結果も出た。事業のグローバル化で日本企業の外国人採用は増えるとみられるものの、管理職の賃金水準の低さは優秀な人材確保への障害になりかねない。
(日本経済新聞2014年2月28日3ページ )
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「世界に9000社の顧客を持つ人事コンサル大手の米ヘイコンサルティンググループは各国の役職階級別の年収(基本給、年間一時金、手当)を調査し、日本の課長級を1として指数化した。これによると日本の部長級は1・36なのに対し中国は1・64。本部長・事業部長級では1・68対2・57とさらに差が開くことが分かった。」(前掲紙)
一億総中流と言われた時代は遠い昔のように思えますが、現在でも多くの日本人は格差を好まないように感じます。
日本企業の賃金カープが緩やかな理由はここにあると思います。
もちろん終身雇用であるということがその前提になっています。
しかしこの報酬体系を外国人に適用するのは困難です。
このギャップを埋めるられるのは、エクイティ系の報酬かもしれません。
しかし日本ではストックオプション以外のエクイティ系の報酬のインフラが整っていません。
特に税法が全く追いついていません。
1円ストックオプションなどという奇策ではなく、普通に株式報酬を利用できるようにする必要があります。
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法人実効税率の引き下げには「4つのジレンマ」が潜む。経済界は税率下げを求めているが、課税ベース拡大は受け入れにくい。税構造の見直しは政府や自治体も必要だが、代替財源の確保が課題だ。
(日経ヴェリタス2014年2月23日59ページ 異見達見 土居丈朗慶応義塾大学経済学部教授 )
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政府税制調査会の委員でもある土居教授が、法人実効税率引き下げに潜む、企業、財政当局、自治体、国民が抱える「4つのジレンマ」を指摘しています。
以下、土居教授が言う4つのジレンマを要約します。
企業・・・法人税率引き下げには課税ベースの引き下げが必須であるが、個別の政策減税をやめることに反対する企業が出てしまい、経済界全体としては賛成できないという事態に陥る可能性がある。
財政当局・・・グローバル化が進む中、企業は海外に流出し、課税ベースが縮小する可能性があり、消費課税などに税収をシフトさせていかなければ、税収の確保が難しくなるが、一方法人税は税収に占める割合が高く、短期的には税率を下げにくい。
自治体・・・実効税率の約3分の1は地方自治体の課税によるもので、法人課税をすぐに減らすことは難しい。しかし現状の法人課税を続ければ税収が地域間で偏ったり、税収が景気に左右される構造が残ってしまう。
国民・・・法人実効税率が高いままだと日本企業の海外流出につながり、日本の雇用機会が失われる。他方、法人減税の代替財源として所得税や消費税を増税すると、国民にその直接的な負担が及ぶ。
「企業、財政当局、自治体、国民が抱える「4つのジレンマ」を、どう割り切って乗り越えるかが、法人実効税率引き下げの議論では問われる。」(前掲稿)
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法人税の実効税率を下げたのに税収が増えた――。政府の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)の伊藤元重東大教授ら民間議員は20日、法人税の実効税率を引き下げた海外事例の分析結果を示す。
(日本経済新聞2014年2月18日1ページ )
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「英国や韓国は経済成長で企業収益が伸びて納税額が増え、ドイツは税率下げと同時に実施した政策減税の縮小など課税ベース(範囲)の拡大が税収増に寄与したとみている。」(前掲紙)
日本の場合、租税特別措置を見直し課税ベースを拡大することが必須と考えます。
族議員等の猛反対を押し切るだけの強いリーダーシップが求められます。
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日立製作所は子会社の日立マクセルを再上場させる。既に東京証券取引所に申請しており、来月にも上場する見通し。時価総額は1000億円を超えるとみられ、日立は98%を持つマクセル株のうち7割程度を売却し連結子会社から外す。
(日本経済新聞2014年2月14日11ページ )
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「マクセルは磁気テープやレンズなどの光学部品が主力製品であり、日立グループの成長戦略において相乗効果が期待しにくくなっていた。社名は日立マクセルのまま維持する。日立は株式の売却により700億~800億円程度の資金を得る見通しだ。マクセルは持ち分法適用会社となる。」(前掲紙)
日本では課税上の問題があり、スピンオフ(典型的には子会社株式を親会社株式に分配するという形で実行されます)を選択することはできません。しかし、仮に無税でスピンオフを行うことが可能だとして、株主価値を創造するという点でスピンオフが勝っていると判断されても、700億〜800億のキャッシュを獲得する途を捨て、スピンオフを実行するでしょうか?
もしそのような意思が少しでもあるなら、日立のマネジメントから、何故無税でスピンオフが行えないのか、という批判の声が聞こえてくるはずです。
しかし残念ながら、そのような声は聞かれません。
株主価値に軸を置いた財務戦略を立案し、実行する、そういったグローバル企業に必須の姿勢は、まだまだ日本企業には見られません。
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政府・与党は、企業がある決算期の赤字を翌期以降の黒字と相殺できる繰越控除制度の縮小を検討する。現行では9年の繰越期間を短縮したり、相殺できる黒字に一定の制限を設けたりする案が浮上。企業が出資先の子会社などから受け取る配当への課税強化も検討する。安倍晋三首相が意欲を示す法人税の実効税率引き下げにあわせ、課税ベース(範囲)を広げて財源を確保する狙いだ。
(日本経済新聞2014年2月4日1ページ )
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「財務省によると、実効税率を1%下げると4700億円の税収減が生じる。首相は減税規模に見合う当面の財源確保にはこだわらない考えを示しているが、財政健全化を重視する自民税調などには代替財源を求める意見が強まってきた。
具体策の1つが、欠損金の繰越控除制度の縮小だ。課税の対象になる所得を減らせるため、企業の法人税負担を軽くしている。」(前掲紙)
実効税率の引き下げは、何のため。諸外国との企業の誘致競争に勝つためでしょう。
誘致したい企業はどんな企業。研究開発型の企業等、イノベーティブな企業だと思います。
こういった企業は投資先行型で収益獲得まで時間がかかることも少なくありません。
もし繰越欠損金の利用が制限されるなら、こういう企業は日本を選択しないでしょう。
実効税率引き下げの目的を阻害するような財源は財源となり得ません。
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政府税制調査会(中里実会長)は法人実効税率の引き下げに向けた議論を2月に再開する。専門委員会を新設し、税率下げに伴う法人税収減を補う観点から、租税特別措置の縮小など課税ベース(範囲)の拡大を議論する。首相官邸主導で進む法人減税の議論に、政府税調がどこまで影響力を示せるかが焦点になる。
(日本経済新聞2014年1月31日5ページ )
【CFOならこう読む】
「政府税調では税率を下げる場合、代替財源をどう確保するかを主に検証する。中里会長は「課税ベース拡大の選択肢を考える必要がある」と語る。候補となるのは、対象業種や期間を絞った政策減税の「租税特別措置」や、過去の赤字(欠損金)を繰り越して黒字から差し引ける「繰越欠損金」などの見直しだ。」(前掲紙)
繰越欠損金の利用に制限を課せば、海外の企業誘致が困難になり、法人税率を引き下げても雇用創出には全く繋がらない、ということになりかねません。
75%の企業が税金を払っていないという点を掘り起こすことにより、財源は捻出できると私は思います。
継続企業でありながら赤字企業であり続けることを可能としている、現在の法人税法を見直すことが必要だと私は考えます。
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