福井義高著 「会計測定の再評価」を読んで

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福井義高氏の新著は、ポストCAPMの資産評価モデルにおける会計情報の重要性について詳述しており、すべてのCFOにとって必読書と言えます。
さらにもうひとつ、福井氏は、強烈な時価会計批判をこの本の全体を通して行っており、その点も面白く読ませます。

以下少しだけ抜粋します。

高PBR株のリターンが低く、低PBR株のリターンが高いということは、簿価に対して「高過ぎる」株も「低過ぎる」株もアンカーとなるPBR値に平均回帰するということである。株主資本簿価が株価に追随して動く(べきな)のではなく、長期的には株価が簿価に追随するといってもよい。いずれにせよ、簿価と株価の乖離の程度が投資判断に重要な情報となる。
そうであるならば、簿価を時価に近付けようとしているかに見える昨今の会計基準設定をめぐる動きは、時価重視は投資判断における会計情報の有用性を高めるはずという大方の期待と異なり、会計データに含まれる投資家にとって最重要ともいえる資本コスト情報を失わせしめる結果になりかねない。むしろ、株主資本簿価が時価(株価)から乖離していることを重要な情報として積極的に評価し、その乖離の程度を取り込んだ資産評価モデルが考えられるのではないか。

評価益が資本コスト変動の結果だとすると、評価益は分配可能な棚ぼたではなく、同一の将来フローを維持するためには事業(企業)い拘束されねばならない。なぜなら、資本コスト低下によって資産価格が上昇しても、果実であるフローは同じである。にもかかわらず、評価益分を現金化し分配すれば、ストック価値は同じでも、将来フローは減少する。評価益を分配可能な評価・換算差額等として株主資本と別計上することは、資本コスト変動下での会計測定のあり方として、1つの見識を示すものといえる。

株主への分配の対象とならない評価・換算差額等に拘束されるのであれば、短期売買目的でない金融資産は、最初から貸借対照表上も再評価せず、純資産に評価益を計上しないという、クリーン・サープラスの原則に忠実な会計処理、つまり簿価計上も考慮に値する。時価情報が重要だとしても、注記で十分ではなかろうか。

結局、経済の効率化は、予算制約のもとで企業が利益最大化を目指すからというよりも、会計的思考の浸透を通じてハードな予算制約が制度的事実として存在することによってもたらされる。とすれば、かかった支出を自前の収入で賄うという「当たり前」の企業行動を支えるうえで、取得原価にもとづいて費用と収益を対応させる「素朴な」実現主義会計こそ市場競争を根底から支えているといい得る。

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会計測定の再評価 会計測定の再評価
福井 義高

中央経済社 2008-12
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