戦略は不要?

戦略的思考は効果的だが、戦略にとらわれ過ぎるのは本末転倒だ。大局の着想に割くエネルギーは、全体の1割で十分。重要なのは、日々の「やるべきこと」を今すぐやる機動力だ。日本の国家戦略はもはや出尽くした。今は議論ではなく、実行の時だ。
(日経ヴェリタス2012年4月3日51面 異見達見 長門正貢シティバンク銀行取締役会長)

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長門氏はIBMのガースナー氏の言葉、「今のIBMに最も不要なものがビジョンだ。眼前に具体的な課題が山積している。それを迅速に処理することが最優先だ」を引用し、やるべきことを迅速に行うことの重要性を説いています。

しかし、IBMが、ホストコンピューターやPC製造に固執し、例えば品質向上のため今やるべき業務改善に全社一丸となって邁進していたなら、現在のIBMはなかったでしょう。

一兵卒としては、今まさに対峙する敵を倒すしかない、という現実があるにしても、それを長門氏のような高見の立場にいるお偉いさんに言われると、「あんたも戦場に出て、戦え」と言いたくなります。

「議論や検討の時期は終わった。強い危機意識を持ち、まなじりを決して、急ぎ実行するときだ。爛熟民主主義や衆愚政治の必然的コストである「抵抗勢力」を言い訳にして、環太平洋経済提携協定(TPP)への参加や消費税増税もこなせないようでは、日本は本当にギリシャになってしまう」(前掲稿)

問題なのは既得権益者が利権を握って放さないことです。世代間格差の原因もそこにあります。既得権益者が政治的な実権を握っている今、政治家がなすべきこととは何でしょう?まさに身動きできない状況のなか、この閉塞状態を打ち破るのはビジョンとリーダーシップであると私は思います。

考えてみれば、我々日本人は、取締役会がCEOを選ぶ、国民が大統領を選ぶ、というような他国で行われているリーダーを選び信任するという行動を敢えて避けてきたように思えます。今の日本に必要なのは、戦略的思考と実行力を併せ持ったリーダーを選び、そのリーダーに任せる決断をすることではないでしょうか。

そういう二者択一のような厳しい選択を全ての国民が求められて初めて、自らの責任としてギリシャにならないために何をすべきか、自らの損得よりも大切なことは何かに気付くようになると私は思うのです。

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