財務制限条項(コベナンツ)の開示例

2009年3月期の有価証券報告書で、銀行融資などに財務制限条項が付いていると開示した上場企業は203社(金融を除く)と前の期比50%増えたことが分かった。景気低迷で業績が悪化し、条項に抵触した企業も増えている。財務諸表をチェックする監査法人側も、投資家の不安解消のため、抵触しなくても企業に開示を求めている。
(日本経済新聞2009年8月29日14面)

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財務制限条項(コベナンツ)とは、

「金融機関が企業に協調融資などをする場合、一定の財務健全性維持を求める契約条項」
(前掲紙)

のことを言います。

「元利払いの確実な回収が目的で、条項に抵触すると返済期限前でも金融機関は資金返済を要求できる。例えば純資産が一定額を下回ったり、2期連続最終赤字になったりした場合などを条件として設定する」(前掲紙)

財務制限条項に関する有価証券報告書における開示の仕方としては、事業の状況の中の「事業等のリスク」の中で開示するか、それに加え「連結貸借対照表注記」を行うか、「事業等のリスク」では開示せず「連結貸借対照表注記」のみ行うかのいずれかになります。

今日の記事の中で、具体的に会社名が記載されている、三井金属、クラリオン、パイオニア、インボイスの平成21年3月期の有価証券報告書について、どのような開示がなされているか調べてみました。

■三井金属

(事業等のリスク)

(16)財務制限条項
米国金融不安に端を発する世界的な景気後退による大幅な需要減少に伴い、当社の連結当期純損失は672億円(前期は78億円の当期純利益)、連結純資産は1,046億円(前期比47.6%減)となりました。
当社は複数の金融機関との間でシンジケートローンおよびコミットメント・ライン契約を締結しておりますが、本契約には一定の財務制限条項が付されており、当連結会計年度末の財政状態は当該条項に抵触しております。しかしながら、有価証券報告書提出日現在においては、当該金融機関との間で当該条項の修正について合意に達しており、当該条項が当社グループの業績および財政状態に与える影響は軽微であると考えております。
当社は、緊急対策の実施や、事業の選択と集中の推進により収益の回復を図るとともに、引き続き金融機関との交渉を通じて、今後の財務制限条項への抵触、およびそれに伴う期限の利益の喪失を回避するため最大限の努力を重ねてまいりますが、万一2009年度以降の連結財政状態が修正後の当該条項に抵触する場合、期限の利益を喪失し、一括返済を求められる等、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

(連結貸借対照表注記)

なし

■クラリオン

(事業等のリスク)

(16) 財務制限条項について
当社グループの主要な借入金に係る金融機関との契約には、財務制限条項が付されています。これらに抵触した場合には期限の利益を喪失する等、当社グループの財政状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。
なお、当連結会計年度末において、財務制限条項の一部に抵触致しましたが、事前に各金融機関の合意を得られ、平成21年3月25日付で期限の利益喪失請求権を放棄する旨の報告書を受領しております。また、平成21年4月20日付で各金融機関の合意を得て財務制限条項の内容を変更しておりますので、本報告書提出日時点において、財務制限条項に抵触している事実はございません。

(連結貸借対照表注記)

なし

■パイオニア

(事業等のリスク)

(16) 財務制限条項
当社が複数の取引銀行と締結している借入契約に定められている財務制限条項に当連結会計年度において抵触致しますが、取引銀行からは上記状況を認識いただいた上で、既存借入金の融資継続に応じていただいています。また、主力銀行を中心に追加的な融資を実行いただいており、引き続き支援していただくご意向も受けています。当社グループは、構造改革の実施により業績改善を図るとともに、引き続き取引銀行の理解と支援を得られるよう、最大限の努力を行っていく所存ですが、万一、当社グループが上記借入れについて期限の利益を喪失する場合、当社グループの事業運営に重大な影響を生じる可能性があります。

(連結貸借対照表注記)

当社は運転資金の効率的な調達を行なうため、取引銀行5行とコミットメントライン契約を設定しています。これらの契約に基づく当連結会計年度末の借入未実行残高は次のとおりです。なお、コミットメントライン契約につきましては、純資産の一定水準の維持および連結営業利益の確保の財務制限条項が付されています。当連結会計年度においては、これらの財務制限条項に抵触致しますが、取引銀行からは上記状況を認識いただいた上で、既存借入金の融資継続に応じていただいています。また、主力銀行を中心に追加的な融資を実行いただいており、引き続き支援していただくご意向も受けています。
貸出コミットメントの総額 70,000百万円
借入実行額        57,700百万円
差引額          12,300百万円

なお、当コミットメントライン契約は平成21年5月19日をもって契約を満了していますが、当該契約に基づき上記借入実行額は7月21日~27日を満期日とする借入残高となっています。現在、新規コミットライン契約を締結すべく、取引銀行との交渉を行なっています。

■インボイス

(事業等のリスク)

財務制限条項についての直接的な記載はないが、財政状態について有利子負債への依存についての項目で次の記載があります。

当社グループは、現在、グループ運営に必要な資金を主に銀行からの長期借入により調達しています。
景気が悪化した場合、金利が上昇した場合、担保資産の価値が下落した場合、又は当社グループの信用力若しくは財務状況が低下した場合、当社グループが必要な資金を得られなくなることや借入れに伴う当社グループの負担が増すことにより、当社グループの事業、業績及び財務状況に影響が及ぶ可能性があります。

(連結貸借対照表注記)

※5.財務制限条項
当社グループの借入金のうち、財務制限条項が付されているものは以下のとおりです。
(1)当社
①借入実行残高  871,000千円
ア.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、中間期および決算期末日において、連結及び単体の損益計算書の経常利益を指定の金額以上を維持すること。
イ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、連結及び単体の貸借対照表の純資産の部の金額を、平成21年3月期の純資産の部の金額の70%の金額以上に維持すること。
ウ.弁済期間中、連結の貸借対照表上の現預金残高が40億円を超えた場合には、その超過額について早期弁済を行なうこと。

②借入実行残高  1,702,000千円
ア.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、中間期および決算期末日において、当社及び㈱インボイスJr.の損益計算書の経常利益を指定の金額以上を維持すること。
イ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、連結及び単体の貸借対照表の純資産の部の金額を、平成21年3月期の純資産の部の金額の70%の金額以上に維持すること。
ウ.弁済期間中、連結の貸借対照表上の現預金残高が30億円を超えた場合には、その超過額について早期弁済を行なうこと。
エ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、中間期および決算期における、当社及び㈱インボイスJr.の決算報告書等を直ちに提出すること。
オ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、毎年3月末日を基準日とし同年5月末日までに担保不動産の評価の見直しを行い、評価額が現在の評価額または前年の評価額から減少した場合、当該減少額を5年間均等の割合で同年6月より四半期毎に追加返済し、弁済期限において残額を完済すること。
③借入実行残高  5,777,874千円
ア.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、中間期および決算期末日において、連結及び単体及び㈱インボイスJr.の損益計算書の経常利益を指定の金額以上を維持すること。
イ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、連結及び単体の貸借対照表の純資産の部の金額を、平成21年3月期の純資産の部の金額の70%の金額以上に維持すること。
ウ.弁済期間中、連結の貸借対照表上の現預金残高が30億円を超えた場合には、その超過額について早期弁済を行なうこと。
エ.契約締結日以降、すべての債務の弁済が完了するまでの期間、中間期および決算期における、当社及び㈱インボイスJr.の決算報告書等を直ちに提出すること。

【リンク】

なし