株式価格決定に係る非訟事件における株価評価について
最近、裁判目的の株式価値評価の仕事の問い合わせをいただくことが多くなってきました。いわゆる私的鑑定のご依頼です。発行会社&オーナーからも少数株主からもどちらもあります。
両者がそれぞれ私的鑑定を裁判所に提出し、その後裁判期日において評価に関係する各論点について自らの私的鑑定の正当性と相手方私的鑑定の誤りをそれぞれ指摘する形で進んでいきます。判決また和解という形で決着するまで1年以上かかることも珍しくありません。
論点になるのは、インカムアプローチ、マーケットアプローチ、コストアプローチ、折衷法といった評価手法について、将来事業計画の妥当性、割引率、各種ディスカウント等案件によっていろいろです。
ところで、裁判となる株式の価格決定申立て事件は、会社法上非訟事件として扱われます。非訟事件においては、裁判所は、当事者の主張・立証に拘束されることなく、その裁量により終局的な価格の判断を行うことが要請されます。この価格の判断を、裁判所は第三者である株式鑑定人に株価鑑定を依頼し、この結果に基づき行うという誤解が一般的に見受けられます。先日私が受講した税理士向けの少数株主対策についてのセミナーでも、「裁判所に価格決定の申し立てた場合、裁判所は株価鑑定を依頼することになるが、株式算定価額がどのような金額にあるかは鑑定人により異なるので予測できないのが1番のリスクである」と当然のように講師が話していました。
しかし私の最近の実務経験では株価鑑定で価格が決まったことはありません。株価決定の非訟事件の判例が公開されることが非常に少ないので、専門家と言われる方々も裁判の経験がないままこのようなことをお話しされているんだろうと思います。ですが、上述したように実務はそうではなく、両者がそれぞれに私的鑑定を行い、自らの評価の妥当性を主張し合い、最終的には裁判所が選任した専門委員の意見を参考にしながら和解という形で決着することがほとんどです。これは、元東京大学法科大学院教授の鈴木謙也判事が論文に書いておられるように、非訟事件であっても、争訟性が高く当事者が対立関係にある事件においては当事者主義的な手続運営が望ましいと考えられており、とりわけ株式の価格決定事件においては、当事者の主張・証拠の提出を尊重する必要があると考えられていることから、そのような当事者主義的な手続運用が行われているのです。
したがって、裁判所に株式の価格決定の申立てを行う場合には、裁判でどのような主張を行うかよく検討したうえで、単にファイナンスや会計に精通しているだけでなく、法的な論点についても理解している専門家に私的鑑定を依頼することをおすすめしますし、会計士でありファイナンス専門家として大学で教鞭を執っておりかつ法学分野の博士の学位を持つ私に私的鑑定の依頼があるのはそのようなニーズに基づくものと理解しています。