日本企業の配当政策、投資政策

日本企業について、まことしやかに語られる2つの通説がある。一つは配当政策に関するものであり、いま一つは投資政策についてである。両者とも、米国企業との対比で議論されることが多いという共通項がある。
配当政策に関する通説とは「米国企業は株主還元を手厚く行なっている」というものである。たとえば「米国企業は株主への配当が多いのに対して、日本企業の配当性向は低い。日本企業も配当を通じた株主還元を強化し、企業価値をたかめるべきである」などといわれる。一方、投資政策に関する通説では「米国企業は短期的あるいは近視眼的な投資を行なうのに対して、日本企業は長期的な視野に基づいて設備投資や研究開発投資を行なっている」と論じられる。しかし、筆者の研究によると、こうした通説は必ずしも正しくない。

(日本経済新聞2010年8月5日29面 経済教室 野間幹晴一橋大学准教授)

【CFOならこう読む】

「先進国の中で、日本は配当を支払っている企業がきわめて多い。海外では、配当よりも投資を優先している。また日本企業は、海外企業よりも設備投資やR&D投資を削減する傾向が強い。むしろ、海外企業は競争力を強化するため、投資を安易に削減せず、長期的な投資を行なっているのである。

(中略)

日本企業が国際競争力を回復するためには、長期的な視野に立ちリスクをとった投資を行う経営者が必要である。リスクのある投資が、競争力向上の必要条件である。日本企業が国際競争力を回復するためには、経営者の意識改革が喫緊の課題である」(前掲紙)

確かにその通りだと思いますが、これは経営者の意識の問題ではなく、経営能力の問題です。能力のある経営者がとても少ないことが今の日本企業の最大の弱点なのです。

大前研一氏の近著「民の見えざる手」(小学館)に次のようなことが書かれています。

「今や日本は経営者にも、壮大なスケールや将来ビジョンを語る拡大志向の人が、ほとんどいなくなってしまった。20~30年前は、松下幸之助さん(松下電器=現・パナソニック)、本田宗一郎さん(本田技術工業)、川上源一さん(ヤマハ)ら、無手勝流で世界に打って出るアグレッシブな経営者がたくさんいた。しかし、今、そういう人はなかなか見当たらない」

日本国内にすぐれた経営者がいないのなら、海外から来てもらうしかないでしょう。今後はグローバル企業に限らず、内需型企業であっても希少な資源である経営者を世界に求めるというのが普通になるかもしれません。

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