生保二重課税、還付20万件

財務省と国税庁は年金払い方式の生命保険に相続税と所得税がかかる「二重課税問題」で、撤収しすぎた所得税の還付対象を、個人年金保険や学資保険などにも広げる検討に入った。最高裁で二重課税との判断が示された死亡保険と同様に年金払い方式としている商品が対象で、還付対象は合わせて20万件に膨らみそうだ。対象者の所得税の納税額は少なくとも300億円規模に達するが、国税庁は一部は課税が可能とみている。年末までに還付範囲を最終決定する方針だ。
(日本経済新聞2010年8月6日1面)

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「国税庁は今後、還付額の範囲の調整に入る。最高裁判決では複数年かけて年金方式で受け取る死亡保険金のうち、1年目の年金に課された所得税を違法と認定したが、2年目以降の課税分については判断を示していない。2年目以降の年金受取額には元本だけでなく、資金の運用益が加わっているためだ。
国税庁は最高裁が判断を示していない2年目以降の所得税についても、元本部分への課税分は還付対象とする方向だ。ただ受取額のうち元本と運用益を厳密に切り分けるのは難しく、課税範囲の調整が難航する可能性もある」(前掲紙)

元本と運用益をどう切り分けるかですが、以下に判決の際の7月8日付エントリーを一部再掲します。

相続税法24条1項は、年金受給権の評価を次のように定めています。

「有期定期金については、その残存期間に応じ、その残存期間に受けるべき給付金額の総額に、次に定める割合を乗じて計算した金額。ただし、一年間に受けるべき金額の十五倍を超えることができない。

残存期間が五年以下のもの           百分の七十
残存期間が五年を超え十年以下のもの      百分の六十
残存期間が十年を超え十五年以下のもの     百分の五十
残存期間が十五年を超え二十五年以下のもの   百分の四十
残存期間が二十五年を超え三十五年以下のもの  百分の三十
残存期間が三十五年を超えるもの        百分の二十」

今回の保険は10年間にわたり年金が支払われるものなので、年金総額×60%が相続税評価額ということになります。

年金現価係数表を見ると、この場合の運用利回りは10%超となります。今の市場環境から見ると相当に高いと言えます。この運用利回りの相当する部分については所得税の課税対象となると思われます。

今回の判決では、第1回目の年金は被相続人の死亡日に受給しているので、年金額=現在価値なので、全額所得税の課税対象とならないと判示しているだけなので、以降の年金受給額のうちどれだけが所得税の課税対象とするかは今後の検討課題となります。」(https://cfonews.main.jp/cfonews/?p=2199

理論的にはこの割引率で計算される運用利回り分を所得税として課税することになります。

例えば10年間について毎年10万円もらえる有期定期金の1年後の受取額10万円は、割引率10%で計算すると、相続時に、

10万円×1/1+0.1=9.09万円

で評価されているので、10万円と9.09万円との差額0.91万円が所得税として課税されると考えられます。

理論的にはこうなるのですが、税務執行上このような計算を一人一人について行なうのは相当にコストがかかるわけで、今後については立法で対応するにしても過年度分については全額還付するしかないように思います。

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